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54.リリィの『異能』

「リリィ!このままあっちの弾が尽きるまでやっても良いんだけどさ、ちょっと飽きてきちゃった。そろそろあんたも行けるっしょ?」


「うん、ローズのおかげでハチさんたちの動きも速さも大体わかったから大丈夫!」


 短く答えて、リリィは自身の両腿に手を伸ばす。

 何かを引き抜くと今度は胸の前で両手を交差させた。

 手には魔導銀(ミスリル)特有の白い金属光沢を放つ棒状の何かが握られている。


 一拍の後、シャッと小さな音を立てて、二本の棒状だったものが半円状に開く。


 ——戦闘用の鉄扇、バトルファンだ。

 もっとも材質は鉄ではなく魔導銀(ミスリル)製。


 リリィの歌うように紡ぐ呪文に呼応して、二枚の戦闘用鉄扇が見る間に眩い光を纏っていく。


「ギギギッ!!」


 何かを感知したか、九体のハチ型魔導式自動機械がその銃口の照準を全てローズからリリィに切り替え、一斉に弾丸を放つ。


「えいっ!」


 だが、その発砲の瞬間に動きが止まるのを待っていたリリィは、舞うようにくるりと回転したかと思うと、左手の光り輝く鉄扇を投擲した。


 ズドドドドドドドッ——!!


 リリィを狙った炸裂弾はローズの繰り出す光の軌跡にあえなく全弾粉砕される。


「ギガゴッ!」


 一方、炸裂弾を発砲した直後の魔導式自動機械に、輝くバトルファンが直撃。

 ミスリルでできたボディがこともなく両断され、一拍の後中空で爆散する。


「もう一回!」


 右手の鉄扇の二撃目が投擲され、別の個体を襲う。


「ガガッ!」


 まるで断末魔のような機械音を残して、一体目と同様に一撃で粉砕される。




「あの女まで《光の剣》を飛ばせるのか!しかも二つも同時に!」


 貴賓席で銃士エーヴェルが驚愕の声を上げる。


「ふ…ん。とは言えたったの二発限定ではないか。あと七体も残して早くも撃ち止めだな」


「確かに、もう一人の女の鞭は射程外だしな」


「それはご心配なく」


 メーリックの嘲笑にエーヴェルも頷くが、オルフェが肩を竦めて言う。


「その程度の計算は、あいつらにもできますよ」




「ギギギギ!」


 二体の仲間を失った魔導式自動機械は瞬時に状況を把握すると最適解を演算。


 直ちに隊列を組みなおすと、素早く移動し続けながらローズの光の鞭の結界に刻まれないギリギリの位置を陣取り、そしてまた炸裂弾を斉射。


 しかし七つに減った弾丸を(ことごと)く破壊するのは、ローズにとってはもはや造作もないことだ。


 そして撃ち終わった各機がまた高速移動に移る直前——


 ズバンッ!!ザンッ——!!


 二つの重い金属音が木霊した。


 同時に、二体の魔導式自動機械が胴体を背後から両断され、中空で爆散する。


 目にも止まらぬ速さでミスリルを切断した光は、音もなくリリィの両の手に収まっていく。


「ブーメランのように戻ってきたな。しかも二体ずつ叩き切って尚、勢いも全く衰えんとは……」


 その光景を目の当たりにした審判の獣人が、思わずと言った風に驚愕の声を漏らす。


「驚くのはここからだよ、獣人のイケメンさん」


 グレイハウンドの獣人の呟きを拾って、ローズは誇らしげに微笑んだ。


「ええいっ!」


 手元に戻った光の扇を、舞うように回転してキャッチしたかと思いきや、リリィはそのまま回転の勢いを止めずにすぐさま再リリース。


 銃弾を超える速度で二枚の扇が再び中空に二筋の光の弧を描く。


 凄まじいスピードではあるものの、直線的に飛んでくるその斬撃を、標的となった二体の戦闘機械は緊急回避用のジェット噴射を最大出力にしてなんとか躱す。


 直後、リリィたちに背を向けて回頭し、宙に投げ出された扇の現在位置を捉える。


 案の定二枚の扇は大きな曲線を描いてから戻ってくる。

 ミスリルのボディを正確に狙っている。


 二体の魔導式自動機械は再度魔力を噴射して緊急回避を実行。

 凶悪な鉄扇の射線上から素早く移動する。


 ——が、扇は突然不自然に向きを変え、度重なる緊急回避で噴射用魔力を消費しきった二体の胴を真っ二つに切断した。


「あと三体!」


 扇を回収したリリィが三度(みたび)斬撃を放つ前に、残った三体が至近距離でリリィに炸裂弾を斉射するが、リリィの背後から光の糸が伸びたかと思うと、水色の髪の少女の前方およそ二メートルのところですべてが爆砕。


 リリィはそれを当然予期していたかのように、両手の扇を放った。


 ザンッ!ザザンッ!!


 さらに二体がそれぞれ頭部と右の羽部分を根元から切断され、活動停止する。


「あと一体」


 が、最後の一体は、仲間たちの爆散に水色の髪の少女が一瞬気を散らしたタイミングを計算し、リリィの背後に回りこんでいた。


 少女の手から離れた二枚の鉄扇がまた不規則な動きで追撃をしようとも、リリィの背後で彼女を盾にすれば回避できると踏んでのことだ。


 同時にこの危険な少女を排除すべく、リリィの背に銃口を向け——


「——いや、そこ。あたしの間合いに入ってるでしょ」


 その魔導式自動機械がリリィの真後ろについたのは一瞬のこと。


 次の瞬間には光の糸にぐるぐるとその胴をからめとられ。

 そしてリリィから意図的に離され中空につるし上げられ。


 ザンッ!!


 光の糸に切り刻まれて、最後の一体は爆散する間もなく細切れに分解された。



「——試合終了!!勝者は挑戦者・ローズ&リリィ!!」


 グレイハンドの審判が右手を高々と突き上げると、大歓声が巻き起こった。


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