53.ローズの『異能』
「あれは躱しようがない……!」
リンク前の控え席でエイリークが悲鳴じみた声を漏らす。
「仮に全弾を紙一重で躱せていても、至近距離で炸裂した爆片にやられてしまいますね……!」
「大丈夫」
だが、アリスとジルは落ち着いた様子だ。
「ああ、別に必ずしも回避する必要はないんだ」
「え?どういう……——!」
アリスとジルの言葉に疑問を口にしかけ、ふと何かに思い至ったように、エイリークは眼鏡の縁に指を掛けて、煙の向こうにいる二人の少女に目を凝らした。
ゴウッ!
突然、轟音とともに煙の中心から旋風が巻き起こった。
急速に煙が霧散していく。
『おおっとぉぉぉお!!??無傷!?二人とも無傷だあ!!護符の魔法も発動していないぞお!!』
『あ、あれれぇ?』
完全に煙が消えた盤上には、何事もなかったのように佇むローズとリリィ。
赤髪の少女の右手には、光り輝く鞭。
ヒュッ——!
中空に滞空したまま煙の先の様子を窺っていたハチ型自動機械式魔導人形の一体に、光る曲線が蛇のように迫る。
「ギ!?」
奇妙な機械音とともに、飛行型ミスリルゴーレムは一瞬停止していた思考回路を間一髪再起動。
薄型の羽根の下部に並んだ噴気孔から前方へ魔力をジェット噴射し、なんとか一メートル程後方へ緊急回避した。
光の先端があと数十センチと言うところで止まり、諦めたように主人の手へ戻っていく。
「残念。やっぱりギリギリ届かないかー」
ローズが小さく舌を出す。
「さっきの泥のお人形さんと同じように、私たちの特性が読まれてるみたいだね」
リリィはまだ武器さえ手にしていない。
「ギギギギッ」
九体の魔導式自動機械は、標的の制圧失敗を認識すると、即座に各機作戦行動を再開。
高速かつ不規則に旋回しつつ並行して体内で炸裂弾を装填、銃口の照準を再び二人の少女へ合わせる。
『さすが機械!全く動じた様子もなく攻撃再開だぁ!』
ズドドドドドッ!!
再び九つの炸裂弾が斉射される。
「分析くらい、あたし達だってできるからね。速度もタイミングも、もう全部見切ったよ!」
ローズが右手を振るう。
一見すると、緩やかで優雅な動作に見えた。
輝く閃光が糸のように柔らかな曲線を描き——次の瞬間、ローズとリリィからおよそ三メートルの地点で、一斉に九つの爆発が巻き起こる。
『えええ!?放たれた弾丸が全て途中で爆発したぁあ!!?暴発!??』
『ちがうわッ!あのお嬢さんがあの鞭で叩き落としよったんじゃ!……しかし一振りで全て打ち落とせるとは、なんと運の良い』
「一振り、ではないですね」
「ああ、四度繰り出している」
「え!?全然見えなかった……」
もはや当たり前のようになってきたナレーションとガンドルの掛け合いに、リンク前の控え席ではアリスが律儀に訂正し、ジルがそれを肯定する。
エイリークは素直に驚きの声で返した。
「あの弾速と数じゃ、もうローズには届かないな」
ジルの言葉の通りだった。
煌めく光線の軌跡が虚空に浮かんでは消える。
同時に轟音とともに炸裂弾が次々に中空で破壊されていく。
盤上にさえ一発も着弾できず、先ほどまでのように土煙も上がらない。
ただ光の中で弾けて霧散していくのみだ。
そして、その光の中心にはローズ。
絶え間なく鋼線を繰り出すその様は、まるで光の中で舞を踊っているかのように美しく幻想的な光景だった。
もっとも、その光は近づく者すべてを切り刻む極めて危険な輝きだ。
解析能力を備えたハチ型の魔導式自動機械は、間違ってその光の圏内に入ればミスリル製の自身の胴体が、破裂して消えて行く炸裂弾同様の末路をたどることを認識していた。
「へえ?」
「まるで斬撃の結界……!!」
貴賓席では、その光景を見て褐色のエルフが少しだけ興味がありそうな声を、そしてその横で警護長ハルドールが感嘆の声を漏らした。
「綺麗……!」
幼い皇女が興奮気味に呟いた。




