51.さ、次行こう、次
「すごい!!ローズさまもリリィさまも素敵ですわ!」
セシリアが興奮した面持ちで、立ち上がって拍手を贈る。
「お姫様の割にぁ、随分と楽しんでるじゃねえか」
褐色のエルフ・レンが鼻を鳴らすと、
「あら、レンさま。私もこう見えて、少しは剣術を習っているのですよ?」
セシリアはそう言って笑った。
「ああ?まじかよ」
レンは素直に驚いたような表情だ。
「ちっ」
メーリックが舌打ちする。
「へえ、ローエンデールの姫君が?ちょっと意外ね」
青髪の美女——召喚士モニカも興味深そうだ。
「……まあ、異例中の異例なのだがね」
警護長のハルドールが溜め息交じりに言う。
その声は困ったようでもあり、呆れたような響きをも含んでいた。
「お姫さまが陛下にお願いして、特別にお認めいただいたのですよ」
皇女の侍女が続ける。
「普段はこのルイジアナに教えてもらっているのですけれど、時には我が国最強の英雄からも直々に手ほどきを受けているのですよ」
心なしか、幼い皇女は誇らしげだ。
「陛下もお戯れが過ぎる」
「まったくだ」
皇女とは対照的に、メーリックとエーヴェルは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「もう。君達は相変わらず頭が固いなあ」
兄皇子は溜め息をついて、呆れたように首を振った。
「女性だって、やりたいことをやればいいんだよ。ローエンデールも少しはこの素敵な隣国の自由な文化をみならうべきだ」
「殿下!」
思わず声を荒げるメーリックをローレンスは朗らかな笑顔のまま目だけで制し、先を続ける。
「それに男性であれ女性であれ、いざという時に自分の身を自分で守れるのは大事なことでしょう」
「皇女殿下の身は我らが守ります。いざという時など万がひとつにも起こりませぬ」
「いかにも」
メーリックとエーヴェルが即答する。
さすがに腹に据えかねたのか、二人とも頬のあたりがぴくぴくと痙攣していた。
ローレンスは一瞬だけ真顔で二人を見、そしてすぐにまた爽やかな笑みを浮かべて、肩を竦めた。
「そうであればいいんだけどね」
オルフェは、それとなくローレンスの表情を伺う。
「ねえ【銀弾】さん?」
そのオルフェに声を掛ける者があった。
召喚士モニカだ。
「あの水色の髪の可愛らしい女の子だけど……戦いになると随分変わるのね。試合前はあんなにおどおどしてたのに」
「ああ」
オルフェはモニカに視線を移し、
「……リリィは戦場ではそこそこだよ。まあ一応、アリスもね。いや、というかボクに言わせれば、二人とも戦場以外ではてんで使い物にならないけどね」
「戦いになると別人……ってことは、ククルと一緒?」
「いや、ヌシと一緒ではないわ」
「全然ちげえよ、アホ兎」
兎人の少女の呟きを、間髪入れずとんがり帽子のドワーフと褐色の不良エルフが否定する。
少女はむっとしたように頬を膨らませてふたりを上目遣いに睨んだ。
そのやり取りを横目で優雅にスルーし、青髪の妖艶な美女は小人のハーフの青年に興味深げな目を向けた。
「あら、そうなの?どちらも、とても好戦的には見えないけれどね」
「好きとか嫌いとか、そういう次元じゃない。ただの条件反射だよ。そうならなければ、今まで生きてこれなかったからね。わかるだろ?キミ達ならさ」
「……それは、そうね」
「”ナディアの最高戦力”なんて言ったって、所詮は三十を迎える前に七割が死ぬ。しかもそのほとんどが魔物に喰われてね。それがボクら〈星芒騎士〉の実態さ」
オルフェは腕を組んだまま、感情の籠らない声で続ける。
「好き好んでそんなものになろうなんてのは、自殺志願者か、感覚が麻痺するほどイカれた過去を経験したか、さもなければ他に選択肢がなかったか。程度の差こそあれ、だいたいそんなのばかりだよ——まあ、キミ達だって、だいたい似たようなものでしょ?」
そして冷ややかな眼差しで青髪の女の恐ろしく整った美貌を一瞥した。
「……そうね、あなたの言う通りだわ。お互い話したくない過去もあるものね。ごめんなさい、くだらないことを聞いたわ。忘れてちょうだい」
モニカは素直に謝罪の言葉を口にする。
彼女の目から見たオルフェは、少しだけ不機嫌そうに見えた。
「まだ十五、六のガキがさ。……全くもって救いようのない世の中だよね」
Ψ
『さ、さっきのは序の口じゃ。本番はここから——次は『ストロングビースト・ウッディ四世』!!』
『おおっとぉ!!今度はぁ、木製の巨大なぁぁぁぁあ……豚ぁ?』
『——”闘牛型”のウッドゴーレムじゃあッ、こんの馬っ鹿者ォッ!!』
試合開始のゴングが鳴るや否や、体長四メートルを超える四足歩行型の木製魔導人形がリンクの石畳をその蹄で叩き割りながら猛スピードで二人の少女へ突っ込んでいく。
牛と豚と、ついでに虎を足して三で割ったような、何とも形容しがたい巨大な木製の獣。
「図体の割に疾い……と言っても、所詮はウッドゴーレムでしょ!」
「ローズ!あの牛豚さんの頭部は、三重の魔法障壁で守られてる!シールド持ちな上にあの重さと速度だと、光剣化してても細剣じゃ難しいよ!」
「“牛豚さん”てアンタ……まいっか。OK、了解!この子はあたしに任せて」
ウッドゴーレムが二人の少女のその華奢な身体を捉える直前、ローズとリリィは左右へ跳躍した。
リリィはそのまま大きく後退して、着地。
一方ローズは中空で軽やかに回転し、腰から魔導銀製の鞭を引き抜く。
そのまま空中で右手を振るうと、光の糸が螺旋を描いて煌めいた。
と、その糸が幾重もの不規則な曲線を生みだしながら、まるで意志を持つ生き物のように魔導人形に向かって伸びていく。
「グルルルァァァァアアアッ!?」
猛タックルの直後に標的を失ったウッドゴーレムが、その重厚な蹄で石畳を粉砕しながら強引に振り返ろうと身を捩る。
そこへ、赤髪の少女の手から伸びた光の糸が大蛇のようにぐるぐるとその胴体に巻き付いていく。
そして——
スパパパパァァァ——……ン——
乾いた音がコロッセオに木霊した。
長い滞空時間を終えて、ローズが着地すると同時に。
牛と豚と虎を掛け合わせたような魔導人形は、十を超える輪切り状の木片と化した。
「さ、次行こう、次」




