49.第二戦 開幕
「ククク、自動機械……大好物だぜ」
一戦目のジルとエイリークの勝利は、会場を大いに沸かせた。
割れんばかりの大歓声が、いつまでも鳴りやまない。
興奮の収まらない観客たちは、客先の片隅にあるちょっとだけ異様な二つの人影など誰ひとり気にも留めていなかった。
暑い日差しが容赦なく照り付けるその場所は、密集した観客たちの冷めやらぬ興奮も相まって、ところどころに設置された魔導冷却装置や魔導送風装置が最大出力で稼働して尚、薄着でも汗が止まらない程の酷暑空間。
そんな中で、二つの影はどちらも暗い色のローブを羽織り、フードまで目深に被っている。
一つは子どもか、はたまた小柄な女のような体格。
もう一つは平均的な男よりは背が低く、平均的な女よりは少し高い程度。
いずれもひどく痩せているように見える。
「今回は、様子を見るだけですよ。まだ貴方がたは準備が整っていませんしね」
子供のような人影の甲高い声に続いて、背の高いほうが窘めるように言う。
その声は年老いた男のそれだ。
「言われなくても分かってるさ。今俺達の存在を気づかれるわけにはいかねえってのはな」
「分かっているのなら結構です。二つ目の封印ももうすぐ解ける。あと少しの辛抱ですからね。……では私は一足先に戻っていますので、貴方もほどほどで気が済んだら時間までに来てくださいね。さもないと街の中に置いて行かれますから」
「ふん、分かってるって。もう少し待てば、いくらでも喰えるんだからな」
小柄な人影が吐き捨てるように言うと、
「よろしい。では、後程」
背の高い方は一人身を翻してコロッセオの階段を下りていく。
「……つまりよ、気づかれなきゃいいんだろ?可愛い『悪戯』くらいならさ」
その背を見送りながら、小柄な人影はその異様に大きな口の端をいやらしく吊り上げた。
Ψ
『——続く二戦目はぁ!同じく我らが【吊るされし大魔導】の人形コレクション!!しかも今度は連戦だあ!!対する星の騎士はぁ——おおお!?なんとぉ、なんとぉおお!?まだうら若き二人の乙女だあ!——いい!いいぞぉ!!可愛い!とにかく二人とも可愛いぞぉ!!』
「……もはや紹介にもなってないじゃん」
「ああ、ただの個人的な感想だな」
ナレーションに思わずツッコミを入れるアリスに、ジルも苦笑で応えた。
「いつも一緒にいると忘れがちですが、そう言えばあの二人って、相当な美人ですもんね」
エイリークはまるで今ふと思い出したかのように言う。
闘技場の中心にはローズとリリィ。
興奮する観衆へ投げキスで応えるサービス精神旺盛なローズとは対照的に、リリィは居心地が悪そうだ。
いつもならローズの背後に隠れているところだが、生憎とこのコロッセオでは、三六〇度を五万人の観衆に囲まれているので、隠れる場所などない。
「は、はやく始まらないかな……」
リリィがローズの右腕を両手で抱き込むようにすがって、か細い声で言う。
「あんたは相変わらず人見知りねえ。見なよ、五万人の男どもが、みーんなあたしたちの可愛さに酔いしれてるんだよ?手ぐらい振ってあげなきゃ」
「五万人の中には女の人もいるよ、ローズ……」
「一緒よ、一緒。男も女もみーんなあたしたちの美しさの虜なんだから」
「ろ、ローズはともかくわたしなんか……」
「ばーか、あんたもあたしと互角くらいに可愛いよ。てかアリスたちは、絶世の美女が二人もそばにいるありがたみを、もう少し身に染みてわかってもらいたいよね」
「あ、相変わらず凄い自信……あ、ローズ!」
アリス達が控える位置から闘技場を挟んで反対側。
巨大な門が開き、そこから出てきたのは二つの人影。
規則正しく一定の速度で歩みを進めるその二体は、二人の少女騎士からおよそ十メートル手前のところで、ピタリと止まった。身長はどちらも一七五センチ程。
中肉中背といったところか。
だが、その姿は。
「え。何あれ、罰ゲームで泥まみれになった人?」
「そんなわけないと思うよ、ローズ……」
闘技場の中央、二人の少女に対峙するのは二つの人型でありながら決して人ではない何か。その肌は焦げ茶色でドロドロ。
顔の部分は目も鼻も口もない。
それは水分を多く含んだ土で作られた、等身大の顔のない人形だった。
『麗しき美少女たちの相手はぁあ、まずは——え、泥人形??』




