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48.守護者

 バララララララ——ッ!!


 相変わらず銃弾の雨が降り注ぐ中、激戦は続く。


 自動機械人形は闘技場(アリーナ)のほぼ中心に陣取って、近づくジルにはドリル、離れたエイリークが弓を引こうとすれば機関銃の銃弾を見舞う。


 同時に白い毛並みの雷獣が、全身に激しい雷光を纏いながら、目にも止まらぬ俊敏さで盤上を駆け巡る。

 だが彼(彼女?)もまずは狙いをジルに定めたようだ。

 機械人形と連携して執拗にジルを攻め立てる。


「くっ、確かにこの疾さと雷撃は厄介だな」


 ジルが機械人形の剛腕とドリルをかいくぐりながら懐に飛び込み、幾度目かの斬撃を見舞おうとするが、それを妨害するように雷獣の鉤爪がジルの腕を薙ぐ。


 ジルは咄嗟に大楯で弾くが、遅れて来る暴風のような電撃が全身を射抜く。

 思わず動きが鈍る盾使いに、高速回転するドリルが迫る。


「はっ」


 痺れる足腰に鞭打って、紙一重で背後へ飛び退って凶悪な刺突を躱す。

 が、着地の絶妙なタイミングを測ったかのように、雷獣がその双尾の先端から、最大出力の電光を放った。目も眩む閃光がジルを包み込む。


「ぐっ!?」


「ジルさん!!」


 だが、強烈な光が吸い込まれるように見る間に収束していく。

 光の消失したそこには、大楯を構えたジル。


 そして次の瞬間、同じ圧力を放つ輝きが、今度は真逆の方向——つまり雷獣のほうへ、爆音とともに放たれた。



「出たぁ!ジルさんの十八番!」


「《魔力総反衝(フルリフレクター)》!!」


 ローズとリリィが歓声を上げる。


「……でも、相手が悪いよ」


 アリスが眩い閃光に包まれた先を見据えながら言う。



「まあ、雷の精霊獣に電撃は効かないよな……」


 光が収まった今、ジルの目前には先ほどと変わらない雷獣の姿。

 予想外の反撃に面を喰らった風ではあるが、ほとんど傷らしいものもない。


 と、考える暇もなく、自動機械人形のドリルが迫る。雷獣も何事もなかったかのように、ジルを雷撃で翻弄する。


「エイリーク!」


 機械人形と雷獣の猛攻を大楯とハンドアックスで凌ぎながら、ジルが叫ぶ。


「雷獣は通常の物理攻撃はほとんど効かん。自動機械人形(オートマタ)の巨体をぶつけてもぴんぴんしているのがその証拠だ!やはり《光の剣(レイブレード)》しかない。お前はまずは雷獣を討ち取ることを優先しろ!」


「まさに『電光石火』の精霊獣を射抜く自信は全くないんですが!とは言え僕の矢も自動機械人形(オートマタ)のドリルに弾かれる以上、そっちで役に立つしかないですね……分かりました、やってみます!」


 ジルの背後、数十メートルのところで、弓を構えたままエイリークが叫び返す。


 ガガガガッ!!


 一瞬背後に目をやったジルの隙を見逃さず、機械人形がドリルの剛腕を振り下ろす。

 輝く大楯が不穏な音を立てる。まるで悲鳴を上げているようだ。


 渾身の力を込めて耐え凌ごうと踏ん張るが、敢え無く三度、弾き飛ばされる。


「くっ!」


 体制を崩し、闘技場(アリーナ)のリンクに背を強打する。


 そこを狙いすましたかのように、雷獣の双尾からまた最大出力の稲妻が放たれる。

 自動機械人形もトドメの一撃をとリンクに投げ出されたジルと間合いを詰める。


 ——だが、


「かかったな」


 ジルは弾き飛ばされてなお、大楯を手放さなかった。

 瞬時に半身を起こすと、大楯を地面に突き立てて雷獣の稲妻を受け止める。


 そして——


「おれの異能は、こんな使い方もできるんだ」


 またも雷撃の全てを吸収したところで、おもむろに楕円形の大楯を眼前に迫る自動機械人形に向けた。

 その間、およそ〇・一秒。


 次の瞬間——。


 ズガガガガガアアアア——ンッ!!!


 耳を劈くような轟音を轟かせて、眩い雷光が機械人形の全身を包み込んだ。


 ドスッ——……!


 眼前の出来事を理解できず、我知らず光に包まれた機械人形を眺めていた雷獣が、自分の側頭部から何かが生えたことに気が付いたのは、さらにその数秒後。


 それが自分の頭を貫通した輝く矢であると認識すると同時に、その仮初めの肉体が物質界での活動限界を迎える。

 急速に細かい光の粒子に分解されていく。


 そして、あっという間に、そこには元から何もなかったのように、稲妻の精霊獣はジルの前から跡形もなく消失した。


「よくやった、エイリーク!」


 振り返って親指を立てて見せるジルだが、


「ジルさんまだです!」


 ジルの背後には巨大な影。


 全身から煙を吹き出しながらも、痛みを感じない自動機械人形は何事もなかったかのように右手のドリル——いや、今や回転を失い、従来の三本の鉤爪となっている——を突き出した。


「大丈夫だ」


 ジルはその回転を失った鉤爪を輝く大楯で難なくはじき返すと、右手のハンドアックスを鉄巨人の右腕に叩きつけた。

 幾度となく、斬撃を見舞った、同じ個所。


 ガコンッと鈍い金属音を響かせて人間で言うなら肘から先の部分が、地面に落ちる。


「痛みを全く感じないのも考え物だな。ずっとその一点を狙ってたんだ。まるで木こりになった気分だったよ」


 すでに体内の駆動系を稲妻で焼かれていた自動機械人形が、ついにその両膝をつく。


「思ったより骨が折れたな」


 ジルはまるでひとっ走りしてきたような爽やかな顔で額の汗を拭って、エイリークに向かう。


 だが、そのジルの背に、まだ完全に機能を停止していなかった自動機械人形の左手が向けられる。

 まるでハチの巣のような、無数の銃口。

 その距離およそ一メートル。超至近距離だ。


 ジルは振り返らない。


 次の瞬間——。


 ズドンッ——!!


 自動機械人形の頭部が吹き飛んだ。


 人間で言えば首の付け根辺りからプシュー……と黒い煙を吐き出しながら、ついに自動機械人形は轟音とともにリンクに倒れ伏す。


「相変わらず、大砲みたいな威力だな、エイリーク」


 ジルはそう言って笑った。



     Ψ


「負けちゃったね。それも、結構あっさり」


 兎人の少女が感情のこもらない声で言う。


「ふ……ん」


 いろいろと言いたそうなメーリックも、さすがに追い出されてはかなわないと、鼻を鳴らしただけで我慢した様子だ。


「あれれぇ……こんなはずでは……一回戦は圧勝の予定じゃったのに。しかも一番頑丈に造っておいた頭が、あんな簡単に吹っ飛ぶとは予想外じゃ」


 ガンドルは黒い髭をしきりにしごきながら、つぶらな目をぱちくりさせる。


「傑作だと思ったんじゃんが……どこか欠陥があったかのう」


「——そうじゃねえだろ、この耄碌(もうろく)ジジイが。そもそもあのサイズのアイアンゴーレムなら黄金等級でも苦戦する相手だぜ。しかもありゃ帝国時代の自動機械に機関銃まで積んだ特別製だろうがよ」


 レンが呆れた顔で言う。


「うちの雷獣ちゃんも、本来なら一撃でやられちゃうようなヤワな子ではないのだけれど……あの眼鏡の坊や、なかなかのモノを持ってるじゃない。どうやら、この距離で星の騎士を相手にするのは、ちょっと失礼だったみたいね」


 青髪の女は、むしろ楽しそうだ。


「でも、今の試合の功労者はあの大楯の人だよね。弓矢の人より地味だけど」


 ククルがレンを見上げると、褐色のエルフは「見りゃ分かんだろ。独壇場だったじゃねえか」と鼻を鳴らしてから、

「つうか、あの盾野郎はどう見ても『号持ち(ネームド)』だろ?なんであんな女みてえなクソガキの部下やってんだよ」


 レンは納得がいかない、と言う風につぶやいた。


「『号持ち(ネームド)』……?」


 エルフの言葉を拾って、セシリアが不思議そうに首を傾げると、


「オルフェさんやアリスさんと同じように、『称号(タイトル)』を持っている人のことだよ」


 隣の席のローレンスが、幼い妹の頭にそっと手を置いて答える。


「あらゆる攻撃をはじき返す、輝く大楯の騎士——あの人の『称号(タイトル)』は確か——」


 声音はいつも通り優しいが、心なしか、少し興奮しているようだった。

 目が輝いている。



「——【守護者(ガーディアン)】」


 皇子の後ろで、兎人の少女が少しだけ不満そうな顔をした。



「……やっぱり、私が出たかったな」



お読みいただきありがとうございました!

これで第四章『コロッセオの魔導人形』は終わりです。

次回からは第五章『舞姫と唄姫』がスタートします!今度はふたりの少女、ローズとリリィが第二戦目に挑戦!


もしよろしければ、感想や評価、ブクマなどいただけると、とても嬉しいです!

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