47.ロストテクノロジー
「「!」」
ジルとエイリークは同時に異変に気付いた。
膨大な魔力が、外部から眼前の鉄巨人に送り込まれていくのがはっきりと見えたからだ。
一呼吸の後、自動機械人形の右手の三本の鉤爪状のアームが閉じ、ウィーン——という奇妙な機械音を発しながら、ゆっくりと回転し始める。
数秒と経たないうちに速度を増し超高速の回転を維持したそれは、圧倒的な質量を持つ凶悪なドリルと化した。
その切っ先を無造作に引き釣りながらズシンズシンとジルに近づく。
ドリルの先端が接した闘技場のリンクがガガガガガッ——と暴力的な破壊音を響かせながら粉砕されていく。
ジルの目前まで迫ると、その回転する鉤爪のついた腕を振り上げ——一直線にジルの胸部へ突き下ろす。
「ふん!」
ジルは激しい輝きを放つ大楯を正面に構え、真っ向から受け止める。
ゴガガガガガガッ!!!!
凄まじい轟音。
そして
「がっ!」
ジルのほうが競り負けた。
輝く大楯もろとも、今度はジルが吹き飛ばされる。
「ジルさん!」
ジルが身体を張って鉄巨人の動きを止めたその数瞬を使って、エイリークも光の矢を放つ。
だが、自動機械人形は回転するドリルで今度は完全に矢を弾き落とした。
「!!」
驚愕するエイリークに向かって、鉄巨人が今度は左手を向ける。
と言ってもその距離十メートル以上はある。
だがその左手の先端はハチの巣を輪切りにしたような規則的に並ぶ穴だらけの平面——。
「いかん、エイリーク!避けろ!その穴一つ一つが全て銃口だ!!」
「!!!」
バララララララ————ッ!!!!
乾いた連続音が響く。
同時に撃ち出されたのは数十、いや数百の鋼鉄の銃弾。
「うわわわわわっ!!??」
エイリークは大きく跳び、間一髪その射線上から身をかわす。
一瞬前まで彼がいた場所には銃弾の雨が降り注ぎ、あっという間にリンクが穴だらけ——鉄巨人の左手と同じようなハチの巣状態だ。
「き、機関銃!?」
「くっ——まずは厄介なその腕からもらうぞ」
エイリークの悲鳴を背後に聞きながら、ジルは大楯を構えて巨人の懐に飛び込む。
そのままドリルの右腕に輝くハンドアックスを叩き込む——が、鋼鉄の鎧をバターのように切り裂く《光の剣》の魔法を持って尚、圧倒的な質量のその巨腕の五分の一も刃が通らない。
加えて腕に斧が食い込もうが、痛みを感じない自動機械は動ずることもない。
ズガンッ!!
懐に入り込んだジルを、自動機械人形は高速回転を続ける右手のドリルで薙ぎ払う。
ジルはなんとか大楯でそれを凌ぐが、また競り負けて吹き飛んだ。
Ψ
「機関銃だと!?我が国でさえ失われたロストテクノロジーを、このドワーフが……!?」
警護長ハルドールが驚愕の声を漏らす。
かつてローエンデールが大陸を支配した頃の機械文明。
今から数百年の昔、まだナディア王国の影も形もなかった時代、ローエンデールを大陸の覇者たらしめた強大な力だ。
「……ドワーフはそもそも手先が器用な種族よ。ローエンデールの帝政時代には機械工のほとんどがドワーフだったっていうくらいにね」
「今は愚かしくも、掟で機械いじりを禁じておるがの」
青髪の女が警護長の疑問に答え、ガンドルが補足した。
「でも、うちのドワーフは機械オタク」
兎人の少女が言うと、
「ま、それが原因で吾輩は吊るされたんじゃがな」
「あら、誇り高い戦士の部族の中で、ひとり魔法の研究ばかりしてたから……と言う話じゃなかったかしら?」
「両方じゃ。つまるところ、頭の固いジジイどもは、単に吾輩の才能に嫉妬したんじゃよ」
「つ、”吊るされた”……?今、”吊るされた”って……?」
不穏な会話の内容に慄くセシリアだが、
「お姫様は、気にしなくていいのよ」
青髪の女の、同性でも思わず見惚れてしまうような妖艶な微笑みで誤魔化された。
「……そ、そうなのですね」
その危険な魅力に、それ以上聞けなくなってしまう。
「で?どうじゃ?本気を出せば吾輩の『アサルトマシーン十三号』の独壇場じゃわい」
椅子の上に立って小さな胸を張ってふんぞり返るガンドルに、青髪の女はおどけたように肩を竦めて見せた。
「あら、それはどうかしら?うちの子だって、ただのバーターじゃないのよ」




