44.第一回戦 試合開始
「シャアッ!!」
鉄巨人と雷獣が開始の合図と同時に地を蹴り、一気に間合いを詰めてくる。
特に雷獣の疾さは尋常ではない。まさに雷光のごときだ。
十メートル程あった両者の距離が一瞬で縮まる。
ギイイン……ッ!!
ズガンッ!!
エイリークが雷獣の鉤爪を、輝く細剣で辛うじて受け流す。
一拍の後、ジルも自動機械人形の重斬撃を楕円形の大型盾で真っ向から受け止める。
「……《光の剣》じゃなかったら、今の初撃でレイピアごと僕の首が飛んでました!」
「『不殺の契り』の護符が身代わりになってくれるから首は飛ばん、安心しろ」
「いやそれはそうですけど……でも開幕早々ドロップアウトには変わりないですよね、危なかった……」
「いくら《光の剣》で刀身を強化しても、ゴーレムのほうは直撃したら一発でお前の腕がへし折られるぞ。絶対に正面から受け止めずに、なんとか躱すか、最悪でも受け流すんだ!」
ジルは叫ぶと、盾を力任せに押し出して優に十倍以上は体重がありそうな鉄巨人の鉤爪状の腕をはじき返す。
その巨体がわずかにバランスを崩して後退する隙をついて、右手のハンドアックスに魔力を込める。
「《光弾》!!」
エイリークは二撃目を繰り出そうとする雷獣に至近距離から魔力弾を叩きつけた。
だが、その魔法は雷獣の豊かな白色の毛を数本ちぎりとるのがせいぜいだった。
恐ろしい程の反射神経と身のこなしで、雷獣はいともたやすく光弾を避ける。
しかも大きく身を捻って躱したにもかかわらず、宙返りしてしなやかに着地すると体勢も崩さずすぐさま反撃を繰り出してくる。
嵐のような連撃だ。
「うわわっ、は、疾い……!」
必至に細剣でいなしながら後退するエイリークの口から思わず悲鳴が漏れた。
「……やっぱ、エイリークはちょっと不利だよね」
「うん、あいつは長距離専門の狙撃手タイプだからね。近接はレイピア、中距離は《光弾》だけだし、どっちも今回の相手には今一つだな」
ローズの感想にアリスも頷く。
「エイリークくん、同期の中では剣術だっていつも三番以内に入ってたのに……」
「そもそもあんた達の代で騎士試験に合格してるのはまだ五人だけでしょ。エイリークも弱くはないけど、レイピア捌きだけで言うなら、〈星芒騎士団〉の中では中の下ってところかな」
「じゃ、じゃあ、私は下の下かな……」
リリィは少し気まずそうだ。
「あくまで剣術の話だよ。そもそもエイリークもリリィも、主力はレイピアじゃないだろ」
アリスはそう言って笑った。
「そうそう。あんた達二人の期待値は上層部のお墨付なんだから。自信持ちなさいよ」
「……レイピアだけでも騎士団トップクラスの二人に言われてもなぁ」
リリィは小声で呟いた。
「でもリリィはともかく、やっぱりエイリークにこの闘技場は不利だね。ここはジルさんに頑張ってもらうしかないわね」
ローズの言葉にもう一度頷いてから、アリスは僅かに不安げな顔をした。
「——それにジルさんの異能だって、ここでは真価を発揮できるかどうか……」




