43.ほんと前代未聞ですよ
『さあさあ、皆様!大変ながらくお待たせいたしましたぁ!!ナディア最強の荒くれ者〈血塗られた聖者たち〉に一流の挑戦者たちが挑む大人気特別企画!その中でも本日は異例中の異例!本日来場された皆様はぁ、なんたる幸運かぁ!急遽キャンセルになった〈狂える悪魔〉にちょっと感謝しちゃうかなぁ!なぜなら彼らの代打の挑戦者はぁ——なんとぉ——ナディア国最強のぉ——……あの〈星芒騎士団〉だあーっ!!!』
客席の大歓声がさらにボリュームを上げていく。もはや絶叫だ。
『こんなこと、あるのでしょうか!?まさに前代未聞だーっ!!!』
「……ほんと、前代未聞ですよ」
エイリークが愚痴をこぼす。
彼の表情は緊張でややこわばっている。
『対するはぁ、我らが英雄【吊るされし大魔導】ガンドルと【呪われし女王】モニカの至高のコレクション!!——古代兵器の鉄巨人とぉ——雷の精霊獣だぁ!!』
「……それにしても、皆さん揃いも揃って、物騒な二つ名ですね」
「まあ特に〈血塗られた聖者たち〉は皆、壮絶な過去を背負っているようだしな。自虐を込めて、そう名乗ってるんだそうだ。〈狂える悪魔〉ってのについてはよく知らんが」
二人が冒険者たちのパーティ名について感想を述べあっている間に、審判と思しき灰色の毛並みをした犬の獣人が闘技場のリンク中を横切って二組の前まで歩み、そして止まった。
身長二メートルを超えるその獣人は、がっしりとした体躯でありながら、ただ歩くだけでも実にしなやかで隙が全く無い。
エイリークの目から見ても、この男も相当な戦士であることがよく分かる。
「これを」
獣人はジルとエイリークに一つずつ、小振りの首飾りを差し出した。
簡素だが、それぞれ二つずつ、縦二センチ横一センチ程の小さな札のようなものがついている。
札の中央には水滴のような形をした豆粒大の宝石。透き通る青色のそれはよく見ると淡く発光している。
——『不殺の契り』と呼ばれるそれは、本来ならかなり高価な代物なのだが、ジル達にとっては馴染みの魔導具でもある。
ジルとエイリークは獣人に向かって無言で頷くと、一つずつ受け取り首に掛けた。
「お前たちの分は、すでに対戦相手の術者に渡してある」
そう言って、グレイハウンドの獣人は闘技場から遥か上方の貴賓席を指差した。
ジル達が顔を向けると、貴賓席の中央で青い髪の女とドワーフの老人がそれぞれ首元の護符を指し示しているのが見えた。
大歓声の中で何を言っているのかはもちろん分からないが、「我々もちゃんと身に着けているから安心して」という意思表示であることは敢えて確認しなくても分かる。
「あそこから操作していることが確定しましたね……降りてくる気もないんだ」
エイリークは額に汗を浮かべながら苦笑した。
「私が合図をしたら、試合開始だ。準備は良いな?」
獣人がジルとエイリークの顔を見て言う。
二人の騎士と対峙する鉄の巨人と白い毛並みの双尾のイタチのほうには目もくれない。
それはそうだ。彼等はただ主人の指示に従うのみ。
そして彼等の主たちは貴賓席で試合開始の合図とそれに合わせて打ち鳴らされる銅鑼の音を待っている。
「ああ。いつでも」
答えたのはジル。
エイリークがごくりと唾を飲み込んで、レイピアを引き抜く。
獣人は頷くと、ゆっくりと右手を天高く掲げた。
ふと、観客の歓声が止む。
鋼鉄の自動機械人形と白い大イタチがゆっくりと姿勢を低くし、そしてまた動きを止める。
鉄巨人は無音、雷獣はグルルルル……と低い唸り声を上げてジル達を見据えている。
ジル達もゆっくりと己の得物を構えた。
二人の騎士と鉄の巨人と双尾のイタチはその姿勢のまま、微動だにしない。
そして数秒の後。
「始め!!」
ゴーーン――ッ!!
獣人が勢いよく右手を振り下ろすと、ほぼ同時に試合開始の銅鑼の音がコロッセオ中に響き渡った。




