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42.鉄巨人と稲妻の精霊獣

 ——どうしてこうなったんだっけ……。


 割れるような大歓声。


 強烈な日光が容赦なく照り付ける中、五万人を収容できる巨大なコロッセオが、人で埋め尽くされている。


 アリスはあまりの大音量に思わず顔を顰めながら、楕円形の闘技場(アリーナ)の盤上にいるジルとエイリークに目をやった。


 アリーナは長径およそ七五メートル、短径四四メートル。

 巨大な円盤の上には、七番隊の二人の他に人外の異形が二つ。


 一つは一応人型ながら、体高およそ四メートル。

 ずんぐりとしたその体は鉄でできている。

 生きてはいないのに動いているそのなんともいえぬ不自然感。

 人間なら左手にあたる部位の先端は、三本の巨大な鉤爪。

 そして右手の部分にはまるでハチの巣を真ん中で切断したような、円形の平面に複数の穴がある不可解な形状をしていた。


 もう一体は見かけは巨大な白いイタチのようだ。

 ただしその体躯は全長およそ一・五メートル。しかもその三分の一を占める大きな尾は二つある。


 いずれも初戦の対戦相手だ。



 昨日、足取り重くホテルに戻ったアリスは団長に魔水晶で一報を入れた後、すぐに七番隊の隊員に召集を掛け、事の顛末を共有した。


 アリスの予想に反して、彼のどんよりとした気持ちを分かち合えたのはエイリークだけだたった。


 ジルは「まあ、何事も経験だな」と笑い、ローズに至っては「やった!一回コロッセオに出てみたかったんだよね」と大喜び。

 リリィでさえ「まあ、団長まで承認してるんだったら、しょうがないよね」と苦笑しただけであっさりと受け入れていた。


「……この人たちって、みんなポジティブお化けなんですよ。先輩が来てくれて良かった……」


 エイリークが諦めた顔で笑ったのが印象的だ。



 試合は三回戦行う。


 初戦と二戦目は二人一組で〈血塗られた聖者たち(ブラディセインツ)〉が用意した対戦相手と戦い、三戦目は一対一で聖者たちの“誰か”と戦うことになるらしい。


 三戦目は議論の余地なく、満場一致でアリスが出場することになった。

 七番隊で最も新参者のアリスは他の隊員との連携が一歩劣るというのもあるが、何より「大将戦に隊長が出ないなんて笑われるよ」と言うローズの発言には説得力があった。

 アリス自身も、反論の余地はないと判断していた。


 憂鬱ではあるけど、さすがにここをジルに任せるわけには行かない。

 そんなことをすれば、“お飾り隊長”だと自らナディア最大の冒険者ギルドと五万人の観衆に公言しているのと同じだ。



 ——そして今。


「遮蔽物もない限られたスペースでの戦闘となると、僕は大して役に立てるとは思えません……」とぼやいたエイリークと組むのは、実戦経験豊富な頼れる兄貴分のジル。


「あれって、魔導人形(ゴーレム)?しかも、鉄製魔導人形(アイアンゴーレム)!?」


「初戦から大物が出てきたね……でもなんか不思議な形してないかな?」


 ローズが興奮したような声を上げ、リリィが怪訝な顔をする。


「もう一体は……なんだろアレ。まさか魔物?」


「いや、たぶん召喚獣でしょ」


 アリスの疑問にローズが答える。


「おっきいけどふわふわで可愛い!でも、どんな召喚獣だろうねぇ………?」


 リリィが銀色の大きな瞳を輝かせた。



     Ψ


「——稲妻の精霊獣、『雷獣』だな」


 リリィの疑問の答えはジルが知っていた。

 もちろん彼の声はアリーナの外にいるリリィには届かないが、共に戦うエイリークに伝われば、今は十分だ。


「精霊獣……って、セラフィナさんのロロ君みたいなやつですか?」


「ん?セラ……ああ、アリスの妹か。たしか火蜥蜴の精霊獣を連れてるんだったな。まあ、そうだ。もっともこいつは実体化のレベルが違うから、術者が召喚を解けば精霊界に還っていくだろうけどな」


「なるほど。……ちなみに隣のアレは、アイアンゴーレム……でしょうか?なんか変わった形状ですが」


「ただの鉄製魔導人形(アイアンゴーレム)じゃないな。俺も実物を見るのは初めてだが……おそらく帝国時代の『自動機械人形(オートマタ)』だ」


「『自動機械人形(オートマタ)』!?そんな国宝級のレアものを、わざわざ初戦で出さなくても……ていうか、どうやって動かしてるんですかね……」


「自動機械人形と言っても、その操作技術は現代では失われている。十中八九、あのドワーフの老人が魔力で遠隔操作しているんだろう。〈血塗られた聖者たち(ブラディセインツ)〉のガンドルと言えば、【賢者】に並ぶ魔法使いの最高峰【大魔導】の称号を持つ男だ。それから『雷獣』のほうは、間違いなく召喚術士モニカの隷獣だろうな」


「え、二人ともVIP席にいますよ!?まさかあんな遠くから操作してるんですか!?」


「——ああ。この事実だけでも、彼等の実力の一端が垣間見えるな」


 不敵に笑うジルと、慄くエイリーク。


 その時、ジルとエイリークの会話を遮って、大歓声の中でなおコロッセオ全体に響き渡るナレーションが木霊した。


 若い男の声だった。


お読みいただきありがとうございました。

ここからいよいよ第四章『コロッセオの魔導人形』がスタートです。

第一回戦、ジル&エイリークVS雷獣&魔導機械人形、開幕!


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