40.理不尽な上官命令2
王都レグルス、〈星芒騎士団〉団長室。
「七番隊が要人警護の任務中に、サンダリアンのコロッセオで試合に出るだと?」
『だって、オルフェ隊長がそうしろって……』
「ふーん、皇子殿下とオルフェはなんて言ってたんだ?」
『殿下は……その、とても喜んでいらっしゃいまして……オルフェ隊長は……ナディア最強の冒険者の実力を測れるいい機会だと。それから、多少の恩も売れると言ってましたが……』
「ふーん。なら良いんじゃないか、別に」
『え!?良いんですか!?』
「殿下の護衛には、当然お前たちの代わりにギルドが精鋭を出してくれるんだろ?」
『あ、はい。コロッセオ内の警護体制を二倍にするほか、殿下の直接の警護は〈血塗られた聖者たち〉が直々につくとのことですが……』
「フハハハハハ!面白いじゃないか。俺もその試合、直接観たかったなあ」
「……クロード、悪党みたいな笑い方になってるぞ」
団長がさも愉快そうに笑うその傍らで、長身の男が呆れた顔をした。
副団長のギルバートだ。
団長のクロードが話しかけている魔水晶の向こう側は、少女のような顔をした、新米隊長。
「ああ、すまんすまん」
と、全く悪びれた様子もなく謝った後で、クロードは魔水晶に向き直り、
「いいだろう。団長として、オルフェの判断を追認する」
『え、そんな簡単にですか?』
拍子抜け……というよりやや困惑したように、魔水晶越しのアリスが訊き返す。
「なんだお前、怒ってほしかったのか?」
『いえ、そんなわけありませんけど……『一緒に怒られてやる』とか言ってたクセに、オルフェ隊長は結局どっか行っちゃったし……』
「ちなみに出場は許可するが……アリス、お前分かってるんだろうな」
『へ?』
思わず変な声を漏らして怪訝そうな表情を浮かべるアリスに、クロードはそれまでの笑みを消し、急に真顔になって続けた。
「コロッセオで冒険者にコテンパンにされたとあったら、天下の〈星芒騎士〉が大陸中に恥を晒すことになるんだからな」
『!?』
水晶に映った少年の整った顔が見る間に青ざめていく。
それをみて、心底可笑しそうに、クロードはククク、と笑った。
ギルバートはただ溜め息をつく。
「もし負けたらお前に責任を取ってもらうからな。せいぜい気張るように。——それじゃな」
『え、ちょっ……』
——プツン。
まだ何か言おうとしてたアリスの映像が消える。見る間に水晶が光を失っていく。
クロードが魔水晶の魔力を解除し、一方的に通信を切断したのだ。
「……お前な。アリスが精神を病んだら、それこそお前が責任取れよ」
ギルバートが咎めるような目で古い戦友を睨む。
「大丈夫だ。東方では、『可愛い子には旅をさせろ』って言うだろ。確か『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』と言うのもあったよな」
「……どちらも、悪党みたいに笑いながらやる親はいないと思うぞ」
ギルバートはもう一度溜め息をついた。




