39.理不尽な上官命令1
「団長にはボクから報告しておく。後で一緒に怒られてやるよ」
ローレンス皇子とローエンデール警護団が部屋を後にした後もなお立ち尽くすアリスに、まるで今回の一連の責任が彼にあるような発言をしたのは、もちろんオルフェだ。
オルフェの提案は、当事者たちの意向を一切確認することなくその場で即時可決された。
レンだけは「てめえじゃねえのかよ。興ざめだぜ」と不機嫌そうだったが、彼以外のメンバーは乗り気だった。
それはそうだ。
主催者である〈血塗られた聖者たち〉にしてみれば、明日に控えた試合を続行できるのだから、二つ返事なのは当たり前と言える。
だが、〈血塗られた聖者たち〉以上に喜んだのが、隣国の第三皇子ローレンス。
なし崩し的に、第三皇子と第六皇女の明日の予定は闘技場での試合観戦に変更された。
そもそも、皇女の護衛の筈の七番隊が試合に出場するのだから、皇子と皇女が別行動することはできない。
野蛮な闘技を皇女に観戦させるなどというのは、本来ならローエンデールの警護団から猛反対があるところだが、(仕向けられたとは言え)直前のメーリックとエーヴェルの軽率な発言に端を発し、ナディア側の星芒騎士が彼等の失態の責任を肩代わりした形になったことから、彼らも引き下がらざるを得なかったようだ。
もっとも、仮に彼等がどれだけ反対したところで、第三皇子が構わず押し切っただろうが。
オルフェも七番隊の出場の条件として、試合中は七番隊の代わりとなる護衛を冒険者ギルド側から出すことを要求した。
ギルド側でも警戒体制を強化することとなったが、皇女の直接の警護については、闘技場の貴賓室で、観戦がてら〈血塗られた聖者たち〉自らが皇子と皇女の護衛をすることに落ち着いた。
挑戦者が〈血塗られた聖者たち〉に挑むイベントとは言え、実際に彼らが出場するのは三戦目だけ。
しかも五人のうちの一人だけだからだ。
隣国の王族は観戦中、ローエンデールの精鋭とナディア星芒騎士三番隊、そしてナディア最強の冒険者たちという鉄壁に守られることになる。
ちなみに、三戦目に誰が出るのかはアリスには最後まで分からず仕舞いだったが、褐色の肌のエルフが「【銀弾】が出ねえなら、俺はパスだ」と言っていたのと、兎人の少女の「じゃあ、私が出る」と言う発言に「あなただけはダメでしょ」「ククルはダメじゃ」と止められていたようなので、この二人ではないことだけは確かなようだ。
「なんで、出るなんて言ったんですか」
「何言ってんの、〈血塗られた聖者たち〉が困ってたじゃないか。キミは困っている人がいるのに、見捨てようと思ってたのかよ?」
「え、ひ、人助けだったんですか?でも何も別任務中じゃなくても……」
「嘘に決まってるじゃん、馬鹿なの?そもそもあいつ等、すでに一生遊んで暮らせるくらいの金はあるはずだよ。別に明日の試合が急に中止になったって、大して痛くないだろ」
「なら、尚更、どうして」
「ナディア最強の冒険者の実力を見ておくにはいい機会だろ?多少の恩も売れたし」
「だったら、出場するのは三番隊でも良かったんじゃ……」
「ボクはナディア側の警護のトップなんだからさ、仕方ないじゃん……てゆうか、めんどくさいしさ」
「ほ、本音が駄々洩れ……」
「なに?」
「……なんでもありません」
「それに、ちょっときな臭い感じもするしね」
「はあ…?」
「それにしても、〈血塗られた聖者たち〉ね。言い得て妙というか、何というか。キミもそう思わない?」
暗い表情のアリスを意図的に無視して、オルフェは話題を変える。
「え?あ、はい……好戦的な有色のエルフに、声を失った片翼のセイレーン、兎人の戦士とドワーフの魔法使い、それから……青い髪のエルフ、ですかね。確かに、それぞれの種族のイメージからは、ちょっと変わった人たち……と言うか、『訳あり』そうな人たちばかりでしたね」
「あれがエルフだって?……まあ、どうでもいいけど」
「?」
アリスが怪訝な顔をするが、オルフェはそれ以上は何も答えず、アリスを一人残して部屋を後にした。




