35.ご無礼はご承知おき下せえ
護衛団の視線がギルドマスターの顔に集中する。
「いや、まあその……」
バッガスは両手を上げてお手上げのポーズを取った。
「勘弁してくださいよ。こいつはギルドで言うと『第三級クエスト』なんでね。さすがに白金等級のあいつらにやらせるわけには行かねえんですわ。……まあ、そもそも命令を聞くような奴らでもないんですがね」
「なんだと、皇子殿下の護衛だぞ!」
「レナード。やめなさい」
激昂するメーリックを、ローレンスが静かだが厳しい声で窘める。
「……失礼、しました」
聞き取れないほどの小声で謝罪を口にし、メーリックは引き下がる。
だが、その後「ちっ」と舌打ちをした。
流石に皇子の諫言とあって、今度は気を付けたようだが、すぐそばにいたアリスの耳には微かに届いている。
「申し訳ないんですが、こればっかりは、ギルドにもルールってもんがありましてね……」
バッガスは、まず自分に非難の視線を向けるエーヴェルとメーリックに、次いでローレンス、ハルドール、ロードリック、クラウディスの順に一人ひとりその顔をゆっくりと見ながら話を続ける。
「『第三級クエスト』ってのは本来なら青銅等級のやつらの獲物でね、上級冒険者が下位クエストにまで手を出すのは、この業界じゃあご法度なんですわ。私のギルドマスター権限を使っても、今回同行させる白銀等級が限界でしてね。なあに、優秀なパーティーを選んでおきましたから、心配ないですよ」
「ごもっともな話じゃないか、レナード」
聞き終えたローレンスは、穏やかな笑顔で諭すように言う。
「無理を言ってはいけないよ。それに私の身を守ってくれるのは、冒険者さん達ではなく、君達の仕事だろう?自信がないかい?」
「ぐっ」
メーリックは顔を赤くして押し黙った。
「レナード殿。これは一本取られましたな」
騎士クラウディスが苦笑した。
「殿下の仰せの通りですな。レナード、ケリー。貴公らが殿下を心配する気持ちも分かるが、余りに固執すると、我ら銃士隊が臆病者と思われかねまいか」
銃士ロードリックが、二人の銃士に顔を向ける。
ここにいる三人の銃士は皆、分隊長格であるとアリスは聞いていたが、どうやら同じ隊長格の中でも、このロードリックという銃士が他の二人より格上、もしくは先輩のようだ。
「もしも冒険者がやられるようなことがあれば、我々が代わりにその竜を討伐してやれば良いですな」
エーヴェルが頷いた。
「……異論は、ありませぬ」
メーリックも渋々と言った感じで認めた。
「うむ」
警護長の騎士ハルドールも満足そうに頷いた。
「ところでバッガス殿」
話がまとまりそうになったところで、また皇子が口を開く。
「今、下の階にサンダリアン、いえナディア最強のあの冒険者パーティがいらっしゃると、そうおっしゃいましたね?」
「うっ」
バッガスが皇子の次の言葉を予期して、あからさまに嫌そうな顔をする。
「もちろん、同行させていただく冒険者さん達の人選はお任せしますが……もしよろしければ噂に名高いナディアの〈血塗られた聖者たち〉の皆さんと、一目お会いできないものでしょうか」
「ちっ」
この舌打ちは、アリスの左側から微かに聞こえた。——オルフェだ。
(もう、みんな舌打ちばっか!)
アリスはひとり、冷や汗が止まらない。
ギルドマスターも、困ったような表情を浮かべている。
「いやあ、わざわざ殿下がお会いになる程の価値はないって言いますか……どうしてあんな奴らにお会いになりたいんで?」
「ファンなんです」
第三皇子は笑顔で即答。
「……殿下の頼みとあっちゃあ、断れませんがね。でも、本当に大した奴らじゃないですぜ。会ったら後悔するかもっていうか……それでも、ですか?」
「ええ、是非に」
ローレンスはさわやかな微笑みを絶やさないまま、断言した。
「殿下のご希望ですぞ。出し惜しみをしなくて宜しい。さっさと連れてきたらいかがですか」
メーリックの苛立ちを隠さない声。
「ああ、もう。わかりましたよ!でも先にこれだけは言っておきますが、やつらは荒くれ者の頂点ですからね。口も悪いし態度も悪いし、困った連中ですよ。正直言って俺の手にも負えねえ。多少の、いやかなりのご無礼は予めご承知おき下せえ」
「なんだと」
「なんと貴公は殿下に条件を提示するおつもりか」
メーリックとエーヴェルが色めきだつが、
「メーリック卿、エーヴェル卿。よしなさい」
ハルドールがそれを制す。
「もちろんです。委細承知いたしました」
ローレンスが穏やかに答えた。
「殿下!」
メーリックが思わず声を荒げるが、ローレンスは相手にしない。
「助かります。何せ、アイツらは私でも御せませんのでね……」
バッガスは溜め息をついてから、後ろに控える緑の髪の秘書を振り返り、
「——ライラ、やつらをここに呼んで来い」




