34.ドラゴンハント
「ドラゴンだと!?」
剣呑な響きを多分に含んだ銃士エーヴェルと、
「おお!!」
目を輝かせた皇子の対照的な感嘆の声が重なった。
言葉を発しなかった銃士メーリックも非難のこもった目で大男を睨んでいる。
「おっと、安心して下せえ。ドラゴンって言っても、相手にしやすい『恐竜種』ですんでね」
そう言ってバッガスは秘書に目配せすると、秘書は頷いてローレンスの背後に控える護衛達にも同じ資料を配布する。
「どうぞ」
秘書の女が最後にアリスにも資料を差し出す。
明るく可愛らしい笑顔だが、アリスが何となくイメージする「デキる秘書」のキリッとした印象とは少し違う、どこかおっとりとしたマイペースな感じだった。
「あ、どうも」
アリスも最後に資料を受け取ると、素早く資料に目を通す。
「今回のターゲットはブロンティス。『恐竜種』にもいろんな種があるんですが、こいつは『竜脚種』って言ってね。とにかくデカいんですわ」
全員に書類が行き渡ったのを確認すると、ギルドマスターは補足説明を始めた。
「普段はもっと闇の大地の奥深くの草原に群れで暮らしてるはずなんですが、こいつはどういうわけか群れとはぐれちまったみてぇで、この街の南にちょっと行った辺りでウロウロしてるようでしてね。普通なら草ばかり食ってる大人しいやつらなんですが、何せここは砂漠だ。ロクなエサにもありつけず、飢えで気が狂っちまったみたいで暴れているんですよ。しかも怪我をしているようで、自力で群れに帰るのはもう無理って話でね。近隣の村の農作物を荒らしかねないし、場合によっちゃあ民家や人身にも被害が出かねない。そこで、我々冒険者の出番ってわけですわ。近隣の村々から共同でクエストが発注されましてね」
「おお!『討伐クエスト』というやつですね!村の人たちを守るための」
ローレンスは興奮気味だ。
「ええ、もちろんそれもあるんですがね。でも、それだけじゃないんですよ。恐竜種っていっても、竜ですからね。やつらの皮も肉も骨も、全部が貴重な資源となる」
「なるほど!それはまさに『狩り』の醍醐味ですね」
「……ひとつお訊きしたいのだが」
盛り上がる自国の皇子とは裏腹に、警護団のテンションは低い。部下たちの剣呑な空気を察して、ハルドールが口を開いた。
「『とにかくデカい』と申されたが、実際にはどのくらいのものなのかな。我が国では、『恐竜種』と言うのは、人が住む街の近くに出ることはあまり多くないものでね」
「んー、そうですな、ブロンティスは首と尻尾が長い種でしてな。体長が二十メートルくらいで、体重が……そうですな、十トンと言ったところ……」
「二十メートル!?」
「十トンだと!?」
騎士クラウディスと銃士エーヴェルが驚愕の声を上げる。
「そんな危険な怪物狩りに、殿下をお連れするつもりか!?」
金髪の銃士メーリックの問いは、もはや怒気を孕んでいる。
「……今しがたハルドール卿も仰ったが、我々は『恐竜種』なるものを見たことがありませぬ。しかし、竜は時々相対することがありましてな。奴らの手強さは身をもって知っております。二十メートルに十トンのドラゴンともなれば町一つ滅ぼされかねん」
もう一人の銃士ロードリックが、憤る銃士たちを制し、落ち着いた声で告げた。
「ああ、いやいや。確かに竜の血を引く亜竜の一種ではありますがね。『恐竜種』ってのは亜竜の中でも一番血が薄くて、とにかく種を増やす方向に竜の力を使ったと言われてるんですよ。ブレスも魔法も持たんし、腕力も疾さも、同じくらいの図体の野生動物と、脅威度はさほど変わりません。要は、とにかく図体のデカいトカゲって言ったところでしてな……まあブロンティスは図体だけでも大物ですがね」
「二十メートルのトカゲというのも、それだけで十分に脅威ですがな……」
騎士クラウディスは少し困ったような表情で呟く。
「……ギルドマスター殿が、殿下のハントツアーにそのクエストを選んだ理由を教えていただけますかな?」
ハルドールが尋ねる。
「もちろん、お気に召さないなら別のにしても良いんですがね。ただ、こいつは十中八九、平原での討伐になります。デカい分、安全な距離をとって見学していただいても良く見えますし、警護の皆さんも見渡しの良い平原ならお守りし安いんじゃねえかと」
「ふむ、なるほど。それは一理ありますな」
バッガスの答えに、銃士ロードリックが頷いた。ローエンデール勢の中で、彼が一番冷静で、落ち着いているように見える。
「それにこの地域は、闇の大地の中じゃあ魔物も比較的少ないところでね。まあ想定外の事態は起こりにくいかと思いましてね」
「それはつまり、他の魔物と遭遇する可能性は万に一つもないということですかな?」
一方、銃士エーヴェルは納得していないようだ。
「いやいやいや、銃士の旦那。そりゃあゼロとは言えませんよ。何が起こってもおかしくないのが闇の大地ってもんなんでねえ。それでなくても最近は妖魔がやたら増えてるって話だ」
「ちっ」
それを聞いたメーリックは、隠そうともせず舌打ちをした。
「では当然、ギルドの中で最も腕の立つハンターを付けていただけると、そう考えてよろしいな?」
銃士エーヴェルも変わらず不満そうな顔だ。発する言葉も、『尋ねる』と言うよりは、ほとんど『詰問』に近い。
「え?あ、いやあ、それが生憎と、トップの奴らは遠方の遺跡探索に遠征中で今不在でして……」
バッガスが後頭部に手を当てて苦笑するが、それを聞いた秘書の女が首を傾げる。
「え?ギルマス、レンさん達なら昨日クエストを終えて帰ってきましたよ。さっき下の酒場で騒いでいるのを見かけたし……」
そこまで言って、はっとしたのか、両手で口をふさぐ。
「ばか、余計なことを……」
バッガスは苦虫を嚙み潰したような顔で、秘書を睨んだ。




