32.誰に向かって言ってるのさ
「あの、オルフェ隊長……?」
すでに第三皇子始め、ローエンデールの警護団幹部たちも部屋を退出している。
最後の一人——あの軍兵だ——の背を見送ってから、アリスは恐る恐る三番隊隊長に声を掛けた。
「何?」
オルフェは不機嫌そうだ。
「あいや、おれ……いえ私も行くのでしょうか」
「はあ?あったりまえでしょ。何言ってんの」
「いえ、でも私たち七番隊は皇女殿下の護衛のはずでは……」
アリスの精一杯の抵抗に、オルフェは眉間にしわを寄せて大袈裟に溜め息をついた。
「宿で待ってるだけなんだから、ジルさんと他の三人で十分でしょ。”サンダリアンの最高級ホテルで物分かりの良い皇女と待機”と”冒険者ギルドに殴り込みに行く破天荒皇子の付き添い”とどっちが面倒……もとい、どっちが危険かなんて、馬鹿でもわかるでしょ」
「殴り込みって……あと今”面倒”って……」
「何?ボクに文句でもあるっていうの?」
「な、何でもありません……」
オルフェはもう一度、大袈裟に溜め息をついた。
「ボクも付き合ってやるって言ってんだから、感謝してよね」
(——三番隊はもともと皇子殿下の護衛では……?)
思わず上官の顔を見るアリスに、オルフェはまた「何?」と睨み返す。
そしてアリスが何も言わないのを確認してから、ふと話題を変えた。
「——それよりさ、さっきのローエンデールの軍人たちだけど、キミはどう見た?一応、聞いといてやるよ」
唐突な問いにアリスは少し考えてから、思ったままを答える。
「え?ええと……ハルドール卿とロードリック卿、それにラーク卿は良い人そうでしたね。クラウディス卿もですが。エーヴェル卿と……メーリック卿は、あまり私たちを良く思っていないようですが……」
「はあ?——キミって、もしかして馬鹿なの?いつ誰がキミの的外れな人物評価なんて聞いたのさ」
オルフェは呆れた顔でアリスを見る。
「え……す、すみません……」
オルフェは視線をアリスから外し、今しがた部屋を出て行った彼らの方に目を向ける。
「ウデだよ、ウデ。——あの場にいた六人、全員まあまあできるよね」
「ああ、なるほど……はい、少なくともあの四人は私と互角以上かと感じました」
アリスは頷いた。
「特にあのロードリックって銃士は別格だね。たぶん、キミじゃ手も足も出ないよ。正直、アレはヤバい。アレでローエンデール自慢の『三銃士』じゃないってゆーんだから、腐っても元大帝国、ってやつだよ」
「腐ってもって……」
万が一にもプライドの高いローエンデールの警護団に聞かれでもしたら……とびくびくしながら呟いた後で、アリスはふと気になったことを口にする。
「……もしかして、オルフェ隊長でも、ですか?」
オルフェは三度、溜め息をついた。
「やっぱりキミって、本当に馬鹿だったね」
そして不敵に笑う。
「——それ、一体誰に向かって言ってるのさ」




