29.グンゼル=バーグナーという男
「あ、えーと……グンゼルさん」
「いやぁ、すごい!なんですか、あの光の矢!?あのバカでかい頭に大穴を開けるなんて!星の騎士様の《光の剣》ってやつぁ、体から離れては、魔法の力を失うと聞いていましたがね!?」
グンゼルは明らかに興奮した様子だ。
「グンゼルさん、お詳しいですね」
アリスは苦笑で答えた。
「それにそちらのお嬢さん!まさかそれは鞭ですか?鞭にまで光の奇跡を付与できるんですか!?もう一人のお嬢さんの二刀流のそれは何ですか」
商人の好奇心は止まらない。
「それはどうも。まあ鞭って言っても、魔導銀製なんだけどね。非金属を『光剣化』できるのはあたしたちの師匠くらいしかいないんだ」
サービス精神旺盛のローズは、そう言っては手に持ったその白色に輝く彼女の得物をグンゼルの前に差し出す。
「それからこの子の武器は戦扇。あたしのと同じ魔導銀製だよ」
人見知りな性格のリリィに代わり、ローズが続けて説明する。
「魔導銀製の鞭と扇!なるほど、なるほど。いやあ、それにしてもこんなにも美しいお嬢さんたちが、これまた何とも美しい戦い方をするものですなあ!思わず見惚れてしまいましたよ。まるで舞を踊っているようでね」
「良く分かってるねえ、オジサン」
「……あ、ありがとうございます……」
「あの、そろそろいいですか」
このままだと延々と話が終わらなさそうなので、アリスは商人の長と二人の少女の会話に割って入る。
「ここはまだ危険な砂漠の真っ只中です。先ほどの怪物の死骸に引き寄せられて、また新たな魔物が寄ってくるかもしれません。早々にこの場を離れましょう……あちらもちょうど片付いたようですし」
アリスが指す先では、隊商の商人と用心棒たちがアビスワームに止めを刺した後、巨大な魔物の死骸から何かを回収し終えたところのようだった。
「……そうですな。この話はまた今度に致しましょう」
グンゼルは額をペシッと叩いて、ニカッと笑った。
「私たちはサンダリアンに戻りますが、グンゼルさんたちはどちらに?サンダリアンならお送りしますが」
ジルが尋ねると、グンゼルは首を振った。
「そいつは、ありがたい提案ですが、我々はこれからファウンティナに行かなくてはならないのでね。何、大丈夫です。ワタシらは『砂漠渡り』。あんな怪物にでもまた出くわさない限りはどうということはありませんので」
それからグンゼルは少しだけ真顔になって、深々と頭を下げた。
後ろに並ぶ商人達も、同じように頭を下げる。
「最後に、改めて御礼を言わせてください。ワタシらは砂漠に点在する街々を回って商売をしているんですが、本拠はファウンティナでしてな。ファウンティナにお寄りの際は、是非ウチの店にお越しください。『バーグナーの店』と言えば、ファウンティナでは誰に聞いてもすぐに分かるはず。この度の御礼、しっかりとさせてもらいますんでね」
「聞き覚えのあるお名前だと思ったら、グンゼル=バーグナー。貴方はバーグナー商会のご頭首でしたか」
ジルは少しだけ驚いた顔だ。
グンゼルは顔を上げると、答える代わりにまた人懐っこい笑顔で「それでは」と告げ、踵を返した。
商人達、用心棒たちも口々に礼を述べてから、グンゼルの後に続いて街道へ向かっていく。
だが、先頭を行くグンゼルがふと馬を止め、振り返った。
「あ、そうそう、ご存じかと思いますが、この辺りじゃ最近やたらと妖魔が出るようになったって話を、商人連中からよく聞きます。星の騎士の皆さんにとっちゃ妖魔なんてどうってことねえでしょうが、用心に越したことはないですからね。くれぐれもお気をつけて!」
「ありがとー!グンゼルさん達も気を付けてねー!」
口に両手を当てて、ローズは隊商全員に聞こえるように大声で応えた。
グンゼルは手を振ってから、また馬を進め始めた。
「……『オアシスの街』ファウンティナか。この砂漠じゃ観光名所のひとつだな」
対称を見送りながらジルが言うと、
「今度休暇取ってみんなで行こうよ!」
「行きたい!」
ローズとリリィが目を輝かせる。
「いいですね!それにバーグナー商会と言えば、確かファウンティナではいろいろなお店を経営する大商会ですよね。ちょっと期待しちゃいます」
とエイリーク。
「そうだね……まあ、この分だとおれたちはいつ休暇を取れるか分からないけどね」
アリスは苦笑してそう答えた。
お読みいただきありがとうございました^^
グンゼルさんのイメージは私の中ではかの有名な戦う商人、トル〇コさんです。
(でも流石に武器はそろばんにはしませんでした。。)
このエピソードで第二章『【異能】の七番隊』は終わりです!
次からは第三章『皇子と〈血塗られた聖女たち〉』がスタートです。
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