23.なんでこうなってる訳?
夕方にサンダリアンに到着したアリス達は、荷物と馬を宿に残し身軽になると、中心街にある兵舎に訪れ、兵団長と挨拶を済ませた。
カペラなどの中規模の街とは異なり、サンダリアンのような大都市の場合、王都から派遣された上級騎士が兵団の長や幹部を務めている。
と言っても、アリス達が叙勲を受ける何年も前からサンダリアンに駐在している者ばかりで、アリスには面識のある騎士はいなかった。
ただ、ジルには何人か顔見知りもいたようだ。
今回、隣国の使節団がサンダリアン市内に滞在する期間は、皇族の周辺警護をローエンデール・ナディア両国の警護団が担い、市街全域の治安維持と警護体制強化はサンダリアン兵団が担当することになっている。
当然と言えば当然だが、アリス達が到着する前に、サンダリアン兵団とナディア側警護団トップとはすでに何度か遠隔で情報共有を行っているようだった。
兵団も突発的なルート変更の可能性を考慮し、何パターンもの市兵の配置を調整していた。
……ほとほと困り果てた顔で旧知のジルに皇子の”破天荒ぶり”を愚痴るサンダリアン兵団長を前に、アリスは苦笑いしかできなかった。
Ψ
アリス達は兵団の警戒体制の共有と明日の下見のチェックポイントなどの一通りの情報を得ると、詰所を後にした。
詰所を出る頃には陽は完全に沈み、紺碧の空には星々が瞬いていた。
だが、街は変わらず明るい。
物理的な明るさと言う意味でも、活気と言う意味でもだ。
夕食を済ませていないアリス達は、そのまま王都とはまた違った賑わいを見せる夜の交易都市の繁華街へと繰り出した。
いくつもの顔を持つこの交易都市は、国内最大のギルドを有する、冒険者たちの街でもある。
まるでそれを証明するかのように、王都レグルス以上に人間以外の種族を多く見かけた。
ドワーフやブラウニーと言った小人族の他に、比較的人間と近い外見の『亜獣人』や王都では滅多に見かけない『獣人』までもいる。
人里に下りてきた彼ら人間以外の『光に祝福されし子ら』は、それぞれの種族の秀でた才能を武器に、冒険者として活動する者が多い。
探せばもしかしたら妖精族もいるかもしれない。
アリス達は手頃な店で夕食を取り、翌日に備えて早々に宿に戻って就寝することにした。
ちなみに、ジルもローズも約束通り、酒は一杯だけだ。
「続きは任務を終えた後で!」と言いながら、ローズもすっぱりと切り上げていた。
宿に着くと、「明日はお酒は飲めないけど、思う存分サンダリアンを満喫するわ」と言いながら、自室に上がっていく。
「いや、だから観光じゃないんだからな」と一応溜め息をつくも、アリスも気軽な心持ちで自分の部屋へと向かった。
Ψ
「……で?なんでこうなってる訳?」
翌日。
彼等はサンダリアンから南東へ数キロの地点、広大な砂漠の真っ只中にいた。
都市から東に伸びる街道からも大分逸れている。
交易都市サンダリアンは、王都レグルスから続く広大な草原地帯と東南に広がる巨大な砂漠地帯の境界に位置している。
この巨大都市の西門から外界に出れば草原、北へ出れば荒野が見える。
そして東門と南門の先は延々と広がる砂漠地帯だ。
なお、同じ砂漠と言っても、南側は岩石砂漠であり、大きくはないが一応舗装された街道もあり、別の街へつながっている。
一方、東門を出て数キロも進めばそこは完全な砂砂漠。
街道を作るのは至難であり、結果として申し訳程度に設置された小さな街道も、それを守る魔物除けの聖石灯も、サンダリアンから数キロの地点で完全になくなる。
そこから先に進むことはすなわち『闇に魅入られし子ら』の領域に足を踏み入れることを意味していた。
そのため、サンダリアン以東には、ナディア国内と言えど人の住む町や村はほとんどない。
この都市の東門から外界に出る者は、街道の終着点にある通称『オアシスの街』に用がある者を除けば、ほとんどがこの砂漠のみで入手できる貴重な植物や魔物の素材を求める者か、砂漠に点在する遺跡を目的とする冒険者かのいずれかと言うことになる。
「アリスくん、後ろ!」
「大丈夫!」
リリィの言葉に短く答えて、アリスが振り返り様、輝く細剣を一閃する。
——ザンッ!
ずんぐりとした巨大なアルマジロのような姿をした魔物の、鎧のように固い皮膚を光の剣がバターのように切り裂く。
「ジャアアアアア!!」
悲鳴とも威嚇ともとれる唸り声を上げたかと思うと、その魔物は素早く後ろに転がって距離を取る。
その両脇には同種の怪物がもう二体、異様に長い舌をチロチロと揺らしながら、二本の脚で直立してこちらを威嚇している。
立ち上がった際の体高は二メートルを優に超える。
体重は恐らく二百キロ以上はあるだろう。
「なにこいつら。砂漠の野生動物?それとも魔物?」
「ただの動物じゃない。魔物だ」
ローズの問いにジルが落ち着いた声で答える。
「じゃあ、脅かして追い払うってわけにはいかないですね」
リリィがレイピアを鞘から引き抜く。
左の手にしたその剣の刀身が、みるみる輝きを放ち始める。
瘴気に精神を汚染された魔物たちは、大抵の場合、『光に祝福されし子ら』への殺戮衝動が生存本能をも凌駕する。
「つまり、やるっきゃないってことね……」
ローズも諦めて細剣の柄に手を掛けた。




