20.七番隊決起集会2
「それにしてもアリス先輩はすごいですね。最年少隊長なんて」
「うんうん!アリスくん、ほんとにすごいよ!」
エイリークの言葉に、リリィも同調する。
「何と言っても、アリスはアイリスと並んでうちら同期のエースだからね」
ローズも何故か少し誇らしげだ。
「そういえば、お前たちの代ではアイリスとアリスだけが『号持ち』だったな」
「あのアイリスと並べられると、ちょっと気が引けますが……」
ジルが言うと、アリスが苦笑する。
「まあ、あの子は全部が桁外れだからね」
リリィに取り分けてもらったサラダをフォークでつつきながら、ローズは肩を竦めた。
「『号持ち』で『異能者』で、訓練生時代は座学も実技も常に首位。まさに【一番星】ですよね」
エイリークがビールを一口飲んでから頷く。
「去年の大会ではアリスもボッコボコにされてたもんねー」
ビールをあっという間に飲み干して、自分とジルの飲み物の追加を注文しながら、ローズがカラカラと笑った。
アリスはちょっとだけ不機嫌そうに「ボッコボコって言うな」と小声で抗議する。
「でもさ、隊長昇任の早さはあんたの勝ちじゃん」
「いや、それは父の影響もあるだろうし……そもそもゴブリンロードの一件は、シュカたちやルシア隊長たちのおかげだし......」
アリスは串に刺された一口大の豚肉を食べながら、決まりが悪そうに首を振った。
「謙遜するな、アリス。お前も十分に優秀だ。……最近は人見知りも大分治ったようだしな」
ジルが穏やかな表情で微笑むと、
「最初は酷いコミュ障だったからねぇ。そのあんたが今や隊長なんてね」
ローズが今度はクスクスと笑った。
リリィは苦笑。
「……おれだって、この一年ちょっとで少しは成長したんだよ」
アリスはローズを上目遣いに睨んだ。
《光の剣》の使い手は、いつでも人手不足だ。
たとえ訓練生であっても様々な任務に駆り出される。
アリスも訓練生時代から多くの任務をこなしてきたが、そのどれもが指導官同伴の下。
外部との折衝は基本的に指導官が受け持つので、アリスはただ指導官の指示に従って魔物の相手をしていればよかった。
だが、叙勲を受け正式に騎士となると、そうもいかない。
分隊全員で任務にあたるときは良いが、とにかく人数の少ない〈星芒騎士〉は一人で各地に派遣されることも多くなる。
〈星芒騎士〉に課される任務のほとんどが魔物退治ではあるものの、その過程で依頼者との折衝や情報収集、戦闘員への指揮や非戦闘員への避難指示など任務遂行に付随して生じるコミュニケーションも、当然避けては通れない。
「ほんとかなー」
ローズは疑わしそうな表情を作って、また笑う。
「ホントだよ。ついこの間だって、国交再開のパーティにちゃんと出席したし」
「どうせ、ルシア隊長かカレン隊長あたりにエスコートしてもらったでしょ」
「うぐっ......」
さすが訓練生時代からの同期。アリスのことを良く分かっている。
「僕はアリス先輩が七番隊の隊長になってくれて、素直に嬉しいですけどね」
図星を突かれて返す言葉のないアリスに、エイリークが助け舟を出した。
給仕の娘が持ってきた追加のエールをジルに、ビールをローズに渡しながら、リリィもアリスの隣でうんうん、と頷く。
「それに何より、明日からは久しぶりの遠征任務で、ちょっと気分が高揚しますね」
「ああ、そう言えばエイリークはずっと養成学校の指導官だったな。でも向いていると思ったが?」
リリィからエールを受け取りながら、ジルがエイリークに尋ねた。
「ええ、教えるのは嫌いじゃないです。でも僕自身も任務をこなして経験を積まないと」
「なるほど。そういう意味では、今回の任務は良い経験になるかもな」
「わ、私も緊張しますが、凄く光栄な任務……ですよね!」
リリィも銀色の大きな瞳を輝かせて、少し興奮気味だ。
「うーん。お姫様は可愛いし、久しぶりのサンダリアンはあたしも楽しみではあるんだけど……砂漠ってのがちょっとねー」
ローズがテーブルに頬杖をついた。
「うん、まあ、砂漠の周辺は魔物も強いからね……って言っても、今回はサンダリアン市街からは出ないはずだけど?」
意外にみんな乗り気だな……と感心しながら、半ば上の空で頷いた後で、アリスは首を傾げる。
「はあ?何言ってんの。敵は魔物じゃなくて、日焼けよ、日焼け。あと乾燥」
「いや、そんなの日焼け止め塗ればいいじゃん……」
「ばか。砂漠の日光舐めんな。塗っても汗で落ちちゃうでしょ」
ローズはビールが入ったコップの縁に口を付けながら、もう一度「何言ってんの?」という目でアリスを見る。
「確かに街中とは言ってもサンダリアン自体が砂漠に造られた交易都市だからな。それに護衛任務中にいつも日陰にいられるとは限らんし、気になるなら対策はしておくといい。俺は気にしたことがないから詳しくないが、まあ、何かあるだろう」
ジルが笑って言った。
「ローズ、日焼け止めはちゃんと高いやつをたくさん買っておいたから大丈夫だよ。濡れても落ちにくくて、肌にも一番優しいやつ!」
リリィも何やら楽しそうだ。
「やった!じゃあ、今日は心置きなく飲めるね」
「はあ?なんでそうなるんだよ……」
手に持ったコップの中身を飲み干すと、突っ込むアリスを無視してローズがまたビールを注文する。
「ねえねえ、そう言えば聞いた?【魔王】が出たって話。最近出現したダンジョンをいきなりぶっ壊したって」
「ええ!何それ!【魔王】って、あのヴァンパイアの?」
「ちっちっち。甘いわね、リリィ。【魔王】の正体はヴァンパイアじゃないんだよ。魔族……っていうか『ブルーブラッド』ってやつよ。たぶん」
「『ブルーブラッド』って、外の大陸にいるって言う青い血の魔人のこと?」
「そうそれ。それから最近やけに妖魔がたくさん出てくるのも、きっとあの【魔王】の仕業なんだって」
「ローズ、どれも初耳なんだが、お前はどこからその情報を仕入れてきたんだ?」
「ん、ビリーだよ、ジルさん」
「え、ローズ、それ誰?」
「聞かない名だな」
「え、知らないの?隣のお店の常連さんだよ?」
「いや、知らないよ……ていうか、それ、ただの飲み友達じゃん……」
「うーむ、軍人の情報源として、それはどうなんだろうな」
リリィとジルが苦笑する。
「いやいや、分かってないなぁ、二人とも。そう言う情報通のほうが、意外と世の中を知ってたりするんだって。後ね、これはケインズさんが言ってたんだけどね……」
「ケインズさんって誰?」
「それもまた聞いたことない名前だな」
「……今日は長くなりそうですね」
ローズ、リリィの他愛のないやり取りと律儀に突っ込むジルを一歩引いた姿勢で観察しながら、向かいに座るエイリークは苦笑を浮かべて小声でアリスに囁いた。
ローズが注文したビールを運んできた給仕の娘からカップを受け取り、代わりに料理を見繕って追加の注文をする。
「ローズ先輩、ちょっと飲みすぎですよ。明日ほんとに大丈夫ですか」
そしてローズにビールを渡しながら、年下の先輩を窘めるのも忘れない。
「大丈夫、大丈夫。明日はずっと列車移動なんだから。ジルさんもエール追加ね?」
「ん?あ、ああ。ありがとう」
ジルは苦笑しながらも受け入れる。
注文を受けてカウンターへ向かう給仕の後ろ姿を見送りながら、アリスは内心で
(今日は絶対早く帰ろう)
と固く心に誓った。




