18.特殊な七番隊
かくしてアリス達七番隊は、ローレンス皇子のモンスターハントツアーの間、皇子と皇女に分散される警護団の増強要員として急遽動員されることとなったわけだ。
「まあ、そりゃ、皇女まで怪物狩りに連れてくわけにもいかねえしな」
「普通は皇子もダメだろう」
腕を組むジェイクに、脚を組むディートクリフ。
彼らはやはり、どことなく他人事だ。
「しかし、なんでお前が第三皇子に指名されたんだろな?」
「......おれといういか、おれたちは他の部隊よりちょっとだけ皇女殿下と面識があるから、かなぁ?」
コーヒーカップを片手に首を傾げるシュカ。
つられてアリスも同じように首を傾げる。
「何言ってる。消去法で言えばお前かセヴェン隊長しかないだろう」
対して、ディートクリフは「馬鹿かお前ら」という顔でふたりを見た。
「女隊長がダメだと言うなら一番隊だけでなく五番・六番も同じだ。それに二番隊と四番隊の隊長はあれだぞ。あの二人に国賓の警護を任せるなんて言うのは、リスク以外の何物でもない」
「……相変わらずお前は涼しい顔で猛毒を吐くよな」
「お前、二番隊だろ……」
表情を変えずに淡々と意見を述べる黒髪の男に、シュカとアリスはあきれ顔……というより、ちょっと引いている。
「七番隊の隊長は男だけど隊員には女の子もいるし、もともとお姫様とも面識もあるから、セヴェン隊長の八番隊より都合が良いってことか。たしかに順当だね」
セラフィナは一人納得したように頷いた。
「まあそりゃ、お姫様だって風呂入ったり便所行ったりするからな。そういや遠目で見た感じあっちの軍人は男ばっかりで、女どもは戦えそうもない奴等しかいなさそうだったわ」
「うーん、そうでもないと思うけど」
「ジェイク、あんた言葉に品がないよ、いつもだけど」
灰髪の少年に、兄妹がほぼ同時に別々のコメントをする。
「ほっとけ。……それより」
ジェイクはセラフィナの指摘を適当にあしらってから、テーブルに手をついて身を乗り出し、
「その護衛任務さぁ、人手が足りないならこの俺を……」
「雇う訳ないだろ」
「アンタなんかお姫様の前に出せるわけないでしょ」
再び兄妹が同時に答える。
今度はほぼ同じ意味だ。
「ちぇっ」
ジェイクとしてもちょっと言ってみただけのつもりだったが、兄妹のあまりに息の合った即答に、不機嫌そうに舌打ちしてドカッと椅子に座り直した。
ジェイクはゴブリン退治の一件で予想以上の報酬を得たことから、どうも味を占めたようだ。
ちなみに何度も危うく命を落としかけたことは、都合よく忘れている。
「それにしてもさ」
隣の席で不貞腐れるジェイクを無視して、セラフィナは話題を変える。
「お兄ちゃんの”隊長”としての初仕事は記念式典の祝賀パーティーだったけどさ、今回が”七番隊隊長”としての初任務ってことになるよね。急にあの七番隊の隊長なんて、お兄ちゃんに務まるのかなぁ?」
セラフィナがまた、からかうように兄の顔を見た。
「しかも初任務自体が、結構重い内容だしな」
シュカも頷いてアリスを見る。
「……それについては、おれ自身も不安しかない」
アリスがコーヒーカップに口を近づけてフーフーと冷ましながら、憂鬱そうな声で答えた。
「何?さっきもディートクリフが言ってたな。七番隊ってなんか特別なの?」
一瞬で立ち直ったジェイクが疑問を口にする。
「……まあね。〈星芒騎士団〉の中でもちょっと異質なんだ」
「七番隊には『異能者』が集められてるからな」
アリスの言葉に、ディートクリフが補足する。
「『異能者』?何ソレ」
「星芒騎士の中でも特殊な《光の剣》の使い手のことだ」
「同じく『異能者』だったセナ隊長が永らく七番隊を率いてたからね。そこに『異能者』たちが集められてたんだよ」
「なんのこっちゃ?」
ジェイクは余計に首を傾げるだけだ。
「ジェイクに説明しても分かんないよ、きっと」
「ああん?」
再び繰り返されるセラフィナとジェイクの応酬を尻目に、シュカがアリスに顔を向けた。
「しかし確かにいきなり七番隊長っていうのは少し意外だったな。普通なら九番隊からだろ」
「うーん、今回はセナ隊長がちょうどこのタイミングで引退したってのもあると思うけど……」
そう答えてからアリスはコーヒーを一口すすり、「熱っつ!」と小さく舌を出した。
〈星芒騎士〉に限らず、ナディア騎士団では通常、隊長職に昇格したばかりの者は最も数字の大きい隊を任されることが多い。
一、二、三番隊を除き、四番隊以降の隊長同士は原則として同格とされるが、それでも複数の隊が同じ作戦行動に動員される際は、番号の若い隊の隊長が指揮官となる決まりだ。
そのためどこか一つの隊の隊長が欠けたときは、多くの場合、その隊以降の隊長たちが一つずつ繰り上がるのが通例となっている。
「この間のゴブリンロード討伐の一件で、アリスの功績が高く評価されたってことだろう」
「いやそれ、全くもっておれ一人の功績じゃないんだけどね……」
ディートクリフの言葉に、アリスが苦笑いを浮かべた。
「でも七番隊はかなり特殊だからな。実際お前はどう思ってるんだ?うまくやれそうなのか?」
シュカがアリスに尋ねた。
「うーん、まだこれからだからなんとも言えないけど……とりあえずジルさんがいるから、何とかなるような気がする」
「ジルさんって、あの?」
セラフィナの問いに、アリスが頷いた。
「副隊長に頼ってばかりだと、お前が成長できないだろうがな」
そう言って、ディートクリフが鼻を鳴らした。
——その時。
アリスの耳飾りの魔石が突然キイン、キイン、という小さな音とともに赤く明滅し始める。
「なんだ、指令かぁ?」
ジェイクがシュカとディートクリフを見る。
だが二人は首を傾げていた。
二人の魔石は何も受信していないからだ。
セラフィナも、魔石に応答しているアリスを見守る。
彼女の右手の中指にある指輪にも、〈星芒騎士〉たちの標準装備である『呼声の魔石』と同等以上の機能が備わっているが、やはり今のところ魔力の反応はない。
「……分かったよ、行くよ、行くから」
短いやり取りの後、アリスはやや呆れたようにそう言って、魔石での通信を切った。
「何?緊急招集?」
セラフィナが兄に尋ねる。
「……招集って言えば招集なんだけど」
アリスは歯切れの悪い回答をして立ち上がった。
「七番隊の決起集会をやるから、今から酒場に来いって」
「そんなことに『呼声の魔石』を使うなと言っておけ……」
ディートクリフが呆れ果てた顔で言った。




