17.次の任務は
二部から読み始めてくださっている方ののために、二部初登場のキャラの説明描写を少しだけ加えて修正しました。
より詳細のキャラ説明は零章『セラフィナ先生の『星アリ教室』補習授業』を見ていただけると嬉しいです。
そしてさらに興味を持ってくださった方は、第一部を読んでいただけると超嬉しいです^^
ここは王都レグルス城下町のとあるカフェ。
城下町の中でも王宮の目と鼻の先という好立地の割には価格もリーズナブルで、何より気取っていなくてカジュアルな雰囲気。
アリス達の行きつけの店だ。
今は午後四時を回ったところ。
春の柔らかな西日がテラス席に降り注ぐ下で、アリスと三人の少年、それに一人の少女が長方形の木製のテーブルを囲んで座っていた。
「——ふうん、で?第六皇女のご指名で、急遽一団の帰途の護衛っていうこと?」
少女がテーブルの上に両肘を置き頬杖をついて「いーなー」と付け加えた。
雲一つない蒼穹のような藍玉の瞳。
小振りな鼻、白い肌。
肩まで切りそろえた明るい艶やかな亜麻色の髪は緩やかにウェーブが掛かっている。
朱色の制服の上に深い紅色のマント。
少女の名はセラフィナ。親しいものは『フィナ』と呼ぶ。
アリスの一つ下の妹だ。
「いや、今おれの話聞いてた?皇子殿下のご指名なんだってば」
「あの国では皇女に決定権などはないからな」
妹に呆れた顔でアリスが答えると、長い黒髪の少年が補足した。
エメラルドグリーンの瞳は、前髪で片方が隠れている。
彼はディートクリフ。
アリスと同期の星芒騎士で、二番隊の副隊長だ。
アリスもディートクリフも、腰にミスリルの細剣は下げているものの、今日は鎧を身に着けていない。
アリスは午後から、ディートクリフは終日非番だからだ。
「それにそんなよかねえだろ。最高レベルの要人警護なんて、ドラゴン退治より骨が折れそうだ……正直、お前が代わってくれて助かったぜ」
三人の騎士の中で唯一白色に輝く板金鎧——星芒騎士の正装だ——を纏った少年は、心なしか申し訳なさそうに苦笑した。
赤銅色の短髪だが、特に短く刈り上げられた後頭部と側頭部はやや暗めのトーンの暗褐色。
瞳の色は明るい琥珀色。
左の頬から顎にかけて古い傷の痕がある。
そしていかにも健康そうな褐色の肌。
彼の名はシュカ。
ディートクリフと同じくアリスの同期の星芒騎士だが、年齢は一歳上の十七歳。
アリスが七番隊の隊長に就任したことで、現在はその後任として一番隊の副隊長になっている。
「他人事だと思って」
アリスはちょっとだけ恨めしそうにシュカを睨む。
「うーん、そう言われると、確かにシュカの言う通りかもね。なんか気疲れしそう」
一方、セラフィナはシュカの話に納得したように頷くが、
「でもさ、うまいもの食えるんだろ?」
彼女の隣の席の少年は、まだ目を輝かせていた。
どうやら多くの市民と違って、隣国の皇族に憧れがあると言うよりは、彼らの食事に興味が向いているようだ。
この灰色の髪の目つきの鋭い少年は、ジェイクという。
彼は星芒騎士ではない。
というか軍人でもなければ、役人でもない。
一応、ギルドに登録している冒険者だが、普段は王都の地下街で暮らしている少年だ。
本来ならアリス達とは違う世界の住人だが、何年か前にちょっとしたきっかけからアリス達と関わりを持ち、その後は何となく腐れ縁が続いている。
彼に言わせると、冒険者ギルドからシケたクエストを受けるより、国から直接仕事を受けたほうが実入りがいいらしい。
アリスが隊長に昇格するきっかけとなった先日のゴブリン王討伐にも、ちゃっかり加わっていた。
「いや、殿下と同じ食卓で食事する訳ないだろ。むしろ補給なんて採れるときに交代でサクッと、だよ」
「なーんだ」
しかしこの少年も、呆れ顔のアリスの回答を聞くととたんに興味を失ったようだ。
「で?初任務の割にいきなり責任重大だけど、大丈夫なの、お兄ちゃん?」
セラフィナが心配そうに……と言うよりはどちらかというとからかうように兄に視線を送る。
「しかもあの七番隊だしな」
ディートクリフがコーヒーを啜りながら、涼しい顔で言う。
「うーんまた予想外だったよ......」
アリスは憂鬱そうに溜め息をついた。
アリスも出席した国交正常化記念祝賀会は、もう今から三日前のこと。
ローエンデールの一行は祝賀会の翌日、つまり一昨日まではレグルスに滞在していたが、昨日王都を発って南に向かい、今はナディア第二の都市サザンクロスに訪問している。
大海に面して作られた港湾都市サザンクロスで観光がてら三日間滞在し、明後日には今度は東へ移動。
ナディア第三の大都市にして『砂漠の交易都市』サンダリアンに訪問予定となっている。
さらにサンダリアンでも三日間滞在した後、ローエンデールへの帰路に着く……ということになっていた。
移動はもちろん、最も安全な列車を利用するが、それでも市街と市街の間を移動する以上、護衛は必須だ。
皇族の訪問なのだから当然と言えば当然だが、同行してるローエンデールの軍人だけでも十分すぎるほどの戦力を有しているので、ナディアからも護衛を出すのはある意味では一種のポーズと言えなくもない。
とは言え、ナディア国内の闇の大地で魔物の襲撃を受けるようなことがあれば、ローエンデールの軍人に先んじてナディアの護衛が身を挺して盾とならなくてはならない。
そして友好と信頼の象徴でもあるその役目には、やはりナディアの最高戦力たる〈星芒騎士〉が相応しい。
ただ、アリスが副団長から聞いたところによると、ナディアからどの部隊を護衛につけるかについて、ローエンデール側とちょっとしたいざこざがあったらしい。
当初、ナディア側は〈星芒騎士団〉から、一番隊と三番隊を出動させる予定で進めていた。
一番隊と言えば最強の【魔女】ルシアが率いる部隊だ。
しかし、ローエンデールの上級軍人たちから物言いが入ったのだと言う。
詳しい話はギルバートも教えてくれなかったが、どうやら”女性隊長”そのものが、彼の国では受け入れられなかったようだ。
(......あの怖い人かな)
副団長は詳細を語らなかったが、その話を聞いてアリスは真っ先に一人の若い銃士を思い浮かべた。
あの男も確か一つの分隊を預かる隊長だったはずだから、今回の使節団の中では警護に意見ができる立場だろう。
もっとも、現実的には彼ひとりの意見が採用されるとは考えにくいが。
かくしてローエンデール側は一番隊の護衛を『辞退』し、現在は三番隊のみがサザンクロスへ同行している。
「まあ、実際にはオルフェの三番隊がいれば十分なのは確かだ。とは言え、他種族の血を持つオルフェもまた、良くは思われていないようだったがな」
と言うのが、その時のギルバートの言葉だ。
ところが、だ。
ナディアも、ローエンデールの護衛団も想定していない事態が起きた。
昨日のことだ。
突然、第三皇子のローレンスが「冒険者の狩りがみたい」と言い出して、使節団の中ではちょっとした騒ぎになったらしい。
自由の国ナディアの冒険者と言えば、大陸の冒険者ギルドの総本山があるエリンドラの冒険者たちに次いで有名である。
それは良い意味でも悪い意味でも、だ。
そして——ローエンデールの護衛団にとっては都合の悪いことに——ナディアにおける冒険者ギルドの本部はサンダリアンにあった。
冒険者の街にして交易都市のサンダリアンでは、ありとあらゆるものが商売となりえる。
最近、冒険者ギルドが売り出したエンターテインメントの一つに、『モンスターハント見学ツアー』と言うのがあった。
要は安全を担保しつつスリルを味わいたいという金持ちの道楽である。
サザンクロスの観光中に、この話題が偶然皇子の耳に入ったらしい。
「え、さすがにそれは……ローエンデールの護衛団が承認しないのでは!?」
「当然、護衛団は大反対だったらしい。オルフェが荒れに荒れた会議の詳細を、恨みがましい顔で報告してきたよ。とは言え、使節団の”警護”に関する決定権は皇子殿下ではなく護衛隊長にあるが、訪問中の”視察先”の決定権は使節団の長たる皇子殿下にあるからな」
アリスの驚愕の表情に、副団長は苦笑で答えた。
「我々も多少の意見は言えても、正当な理由がなければ拒否などできん。冒険者ギルド主催のモンスターハントは別に国家機密に関わることでもないしな」
「いやでも、いくら何でも限度ってものが……」
「まあ、ツアーの同行も含めて皇子殿下の護衛は引き続き三番隊にやらせる。お前たちは皇女殿下のほうだ」
どうやら、ローレンス皇子の天真爛漫ぶりは、今回に始まったことではないらしい。
この一件で再度ナディア側とローエンデールの護衛隊とで打ち合わせをした際に、護衛隊の誰かがそのようなことを漏らしていたそうだ。
(あんなにも誠実で聡明な雰囲気だったのに、思ったよりやんちゃな人だった……)
改めて、自分には人を見抜く目はないのかも、とアリスは思った。




