11.月下の皇女2
「ご、ごめんなさい、驚かせてしまって」
その声に驚いて、慌てたように謝罪する隣国の皇女。
「と、とんでもありません……!」
アリスは思いっきり恐縮する。慌てて跪く。
「……どうかご無礼をお許しください。私はナディア王国〈星芒騎士団〉七番隊のアリス=レーゼと申します」
アリスが畏まって礼をすると、
「ご無礼なんて、そんな。突然後ろから声を掛けた私の方が無礼でしたわ。それに……先ほどは我が国の銃士がアリスさま方にとんだご無礼を。こちらこそ、本当にごめんなさい。どうしてもひとことお詫び申し上げたかったのです」
可憐な皇女は恐る恐る、と言った感じで言葉を紡いだ。
「い、いえ!滅相もございません」
さらに恐縮するアリスに、
「……アリスさまとおっしゃるのですね」
皇女は少しだけ不思議そうな顔をした。
「……え、ええ。女性のような名前ですよね……両親が何故このような名前にしたのか、実は私も良く分からず……」
思わずそう言ってから、アリスは(ど、どうでも良い話をしちゃったかな……)とひとり後悔した。
「いいえ、いいえ!とても素敵なお名前ですわ。それに……お名前をお伺いできて嬉しいです。先ほどはご挨拶できなかったので……」
しかし、幼い姫君は首を振ってから小さく微笑んだ。
「み、身に余る光栄にございます」
アリスは首を垂れたまま、ゆっくりと、できるだけ丁寧に答えた。
「あの……レーゼ卿」
セシリア皇女が控えめに口を開く。
「よろしければ、アリスとお呼びください」
幼い皇女は少し驚いたようにその大きな瞳を揺らし、そして口を開きかけたが、
「……ナディアでは、家名で呼ぶのはあまり一般的ではありませんので」
皇女の驚いた顔に慌てたアリスがすぐに理由を付け加えると、セシリアは「そ、そうなのですね……?」と小さく答えた。
元来『星の民』や『大地の民』は出自を重んじる民族だったが、ナディア建国以来の民族融和政策により、現在では特に王都や大都市を中心に、よほど畏まった場面でなければ名で呼び合う習慣が浸透している。
「ところで殿下……私に、何か……?」
気づかぬところで何か粗相があったのかと内心ヒヤヒヤしながらアリスが尋ねると、
「え、ええ。その……」
幼い皇女は少しためらってから、
「……もしお邪魔でなければ、その。少しだけ私とお話していただけませんか?……アリスさま」
小さな声でそう言った。
アリスにとっては、あまりに予想外な展開だった。
その真意を測りかねて、少しだけ頭を上げてちらっと侍女の顔を見る。
「よろしければ、是非」
侍女は柔らかい微笑みを浮かべて小さく頷いた。
「……は、はい、私などでよければ、是非。殿下」
少女の顔がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!……ではよろしければ座ってお話しませんか?……アリスさまもどうぞお掛けになってください」
そう言って、セシリアはテラスに置かれた椅子の一つに腰かける。
アリスは緊張しながらも彼女に続いて向かいの席に着いた。
「あの、不躾で失礼にあたるのかもしれませんが……」
アリスが席に着くと、セシリアが遠慮がちに口を開いた。




