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影響

 



 踏まれた足を抱える姿は、とても国の行事を纏める責任者には見えない。しかし痛みを我慢する姿さえ絵になるのが、逆に叶雨の神経を逆撫でた。


「あいたた……、じゃあ話しをしようか」


 空気の切り替えが独特で振り回されているのに、誰も不快感を表に出さない。顔の造形レベルがバリ高の生徒会役員が集まっていても、格の違いを見せつけられたような気分になったのだろう。神を自称するアッラーでさえ、生きた芸術を鑑賞し感心している。

 太陽の光が当たっていれば黄金にも輝く、茶色がかった山吹の髪。覗く方向で突き抜けるような空にも、静寂な深海にもなる紺碧の瞳。神が手ずから模ったような肢体は、叶雨とのじゃれ合いで手足の長さが無駄ではないと分かっただろう。彼の為にオーダーされたスーツが、一切の弱点を許さなかった。

 極め付けは黄金比率の造形美から零れる、甘いテノールボイス。天が二物どころか全てを与えた存在である。

 耐性が完全に付いている叶雨でさえ、偶に見惚れてしまうのだ。皆の言葉が出ない様子を、馬鹿にもおざなりにも出来なかった。


「今年の全国三校合同賦力競技大会運営委員会代表に任命されました、名前は……ケイにしようか」


 理性を取り戻したキャメロン会長が、四角く配置されたソファの最後の一角に座る。

 此処は高級ホテルのスイートルーム、一階層全てが部屋のようだ。段差のある床の中心に硝子のローテーブル、それを詰めれば大人六人は座れるソファが囲っている。今時の金持ち部屋の手本になりそうな内装だ、年中貸し切りにしているのかもしれない。この住みやすい空間を作る為に税金を使われているのかと思うと、感心ばかりもしていられなかった。

 長い役職に適当な自己紹介、どの校も反応に困っている。叶雨と近嵐先生はソファの後ろに立ち、会長らの付き人のような立ち位置。この面子に混じって腰を落ち着かせられる程、肝は据わってなかった。


「第一高校から、アッラー生徒会長に(リュ)智有(チユ)副会長、ジアンナ・ハッチソンの三名。第二高校から、聖里(ひじりさと)正義(まさよし)生徒会長に小澄(こすみ)(れん)副会長の二名」

「間違いありません」

「第三高校から、ヴィリアーレ・キャメロン生徒会長に原一喜副会長、そして……紅雫叶雨と近嵐未尋教授の四名。全員時間厳守で助かるよ!」


 招集対象の名前を読み上げ、責任者らしく出席の確認を取る。自分の名前を呼ばれた時の微かな反応で、誰が誰かは分かった。名前から既に個性が強い、叶雨の名前が普通に感じる。


「早速、大会の詳細を話そうか」

「その前に、この場に招集した人選の理由をお聞かせ願いたい」

「君にそれを問う権利は無いよ」


 情報が差し出されるのを無言で待てない人が居た、第一賦力高等学校副生徒会長柳智有。名前と顔立ちから中国人だと分かる。日本語に違和感はなく、それだけで彼女の優秀さが窺えた。

 強気だが当然の疑問だと思った、だがケイと名乗った謎の美形は半呼吸も間を空けず一蹴する。ケイは目を丸くした柳を更に追い打つ。


「用事が無ければ呼ばないし、その用事を君達に教える必要は無い。権利も無ければ意味も無い。分かったら黙って僕の話しを聞いてなよ、少なくとも君は人数合わせに呼ばれただけなんだし」

「なっ、この……!?」


 彼女が本当に聞きたかった事は、高い確率で叶雨と近嵐先生が呼ばれた理由だろう。

 わざわざ隠れて背後から接触するケイと叶雨の様子は、親密なものに見えたはずだ。大会運営委員会代表と仲の良い他校の選手、警戒し情報収集を図るのは自然である。大会の結果にどう影響するか心配もあるだろうが、それは絶対に無いと断言しよう。口に出して伝えはしないが。

 近嵐先生は賦力高校在学時にこの大会に出場していた、しかもかなり有名で危険な事件を起こしている。多くの人が目撃した危険性とそれを可能にする才能、先生の存在が大会をより複雑にする事も考えられた。

 ケイはその不安を察した上で、一切の配慮を含ず切り捨てる。人を選んで言葉を使い分ける所は、昔から変わらない。

 柳副会長は上げ掛けた腰を戻し、息を大きく吸って吐いた。昇った血圧を自分の意思で抑制出来るのは、十分優秀な証拠だろう。ケイが能力の高さだけで人を選んでいれば、優遇される人材である。


 各校生徒会長の思いは違えど、聞く姿勢は同じだった。アッラーが大人しく聞いているのは意外だが、ただ機嫌が良いだけだろう。あれだけ美女を侍らせていれば、不機嫌になる理由も無い。

 予選競技については、大雑把な決まりだけが説明された。


「さっき言った通り、此方が用意して指定した範囲内なら銀賦の使用は自由。ギミックは色々在るけど、難易度に比例した情報と成果を保証するよ。基本的にこのホテルから本選会場までの進路、そこから大きく離れた所に指定範囲は無いと考えて良い。会場までの移動手段も各校が確保し、各自の力で〝星〟を持って会場に入ってほしい」


 ケイが足を組んで話すのは、やはり概要だけだ。どんな障害を用意しているかも、何故今回だけ予選競技を大幅に変えて来たのかも、教える気はないらしい。何名かの口が開いては閉じを繰り返す、問い質しても無駄だと短い時間でも理解させられたからだ。


「繰り返すけど、〝星〟の情報や指定範囲の位置と規模等は自分達で集めてね。運営委員として話せる予選競技の情報は全て話し終えてます、後は各自の裁量」

「……今までは競技中の妨害防止や違反者の捕縛、負傷者の対応は運営委員の方が請け負ってました。そちらについても連絡事項は無いのですか?」

「無いよ、それで分かってくれてると思ったけど?」

「……」


 妙に第一高校副会長の態度が反抗的だ。上から目線が気に入らないのだろうか、それなら叶雨と気が合いそうである。挑発を含ませた問いに、どこ吹く風のケイ。殴りたい指数が秒で上がっていく。

 予選の競技はまだよく分からないが、運営委員側で考え得る対策は済んでいると見て良いだろう。この男も仮とはいえ責任者なのだ、選手達の命を蔑ろにはしないはず。だが何をするか殆ど分かっていないのにフォローは任せろと言われ、怪しむ気持ちはとてもよく分かった。

 イケメンだからって全てが許されると思うなよ。


「ああ、運営委員会からの要請。第一賦力高等学校ジアンナ・ハッチソンと第二賦力高等学校生徒会長聖里正義の大会出場権の辞退、その受け入れ」

「え?」

「何だその馬鹿げた要請は!?」


 白金の緩い三つ編みをした美女と、眼鏡の真面目そうな美男子が声を上げる。この二人が辞退を()()された当事者たちだろう、本人達の与り知らぬ話だった事は明白だ。


「誰の差し金だ!?」

「君達の親」

「そんな、お母様が……?」

「っ……あの人は……!」


 名指しされた二人の親は、運営委員会を通して選手の大会出場に口を出せる大物なのだろう。有権者がランダムに選出される大会運営委員に選ばれた、その可能性もあり得る程の。

 誰も質問以外口を開かないので予想になるが、この二人は前回の大会にも出場しているのではないか。生徒会役員は事務能力もだが、実力が重要視される。今年生徒会役員に任命されている者なら、二年あるいは一年生の時から大会選手に選ばれているはず。しかし出場を親が反対したのは今回が初めて、二人の顔を見れば分かった。

 つまり、この大会の危険度を物語っている。

 叶雨が気付いたのだ、他の優秀な先輩達が気付かない筈がない。


「質問宜しいでしょうか?」

「内容による、のでどうぞ」

「我が校の出場選手に、海洋マーフィー商会の御子息がいます。彼の出場について、マーフィー会長は了承されているのでしょうか?」

「さあ?」

「さ、さあ?」

「今回の大会競技内容の変更について、方々へ伝達する義務は無いから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 これには聞いたキャメロン会長も、他の生徒会役員も絶句を隠せなかった。生徒会役員じゃない叶雨と近嵐先生も、顔を見合わせケイの言葉が聞き間違いだったか確認する。

 世間体を気にするなら、一応賦力高等学校も教育機関の端くれである。子供を預かる施設として、保護者に子供が参加する行事の連絡は必要だ。義務と言ってもいい。特にこの大会は国の行事、参加選手は勿論補助要員の保護者にまで、学校側と大会運営委員会から通達はされて然るべきだ。前者はとっくに終わっているだろう、保護者も全く知らない事は無い筈。

 これだけ大掛かりな競技内容の変更は、保護者に連絡しなくても良い事態なのだろうか。叶雨には判断がつかないが、キャメロン会長や原副会長の表情を見るにそこまで見当違いな心配ではないと思う。


「……あの、此方から連絡する事は問題無いのですよね?」

「勿論!大会期間中とはいえ、外部との連絡にまで口出しはしません。大会の運営にはなんの問題も無いですし」


 国政に大きな影響を与える大会、四方八方から投資を受けている。賦力競技大会は国の行事だが、開催に必要な資金はほぼ民間から賄われていた。だから外部からの抗議や意見が大会の開催に影響を与えない、などとは決して言えない。

 それでもケイの笑みは美しいまま、本心を語っているようにしか見えなかった。


「これは個人的にも思っている事ですが、お二人がご両親の説得さえ直に済ませれば、参加は問題無いと思っています。ご家族とはしっかり、話しをなさって下さい」


 家族、無意識に視線が泳いだ。

 招集した生徒を此処まで案内した軍人達が、部屋の壁に張り付いて並んでいた。休めの状態から一切揺れず、上司なのだろうケイの命令を待っている。

 その中の一人、軍帽で目元が隠れていても分かった。

 視線を無理矢理切って、見なかったフリをする。正面から刺さる生暖かい視線には、ガンを飛ばして応えた。

 叶雨のガンを浴びた男は、足を組み替える。


「それでは、順番にお帰り下さい。紅雫叶雨ちゃんと近嵐未尋教授以外」


 ガンだけじゃ足りない、万感の想いが籠る拳を飛ばしたくなった。




閲覧有難う御座いました。

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