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説明

 



 大会開催を宣言した声が、一呼吸の間を作る。


「〈……必要は無いかもしれないが、一応伝えておく。私は今回の大会運営委員会責任者、決して不審者でも犯罪者でもない。更に言えば君達の声は此方に届かないので、どれだけ喚いても意味が無い。それを理解した上で、時を置かなければいけないなら十秒だけ待とう。早くしてくれ〉」


 天井から現れたモニターは、砂嵐だった。誰も映っていないし、声は機械を通している。日本語が堪能な事以外、大会運営委員会責任者と名乗る者の情報は掴めなかった。

 この声を聞いている者は皆、大会関係者だ。周囲を見渡すが、いつの間にかホテル関係者が何処にも居なかった。展開を呑み込めず、聞こうにも対象が居ない。疑問と不安が反応し焦燥が出来る、ざわめきは一秒ごとに膨れていった。

 切り裂いたのは、各校の生徒会長である。


「うるさいぞ下民共、醜く喚くな」

「これより誰一人、私語を禁ずる。食事も手を付けてはならない」

「皆さん落ち着いて!大会運営委員会からの連絡です、静かに聞きましょう!」


 高校生とはいえ、腐っても国政行事参加資格を得た者達。十秒は妥当な時間だった。

 三校全ての静寂を聞いていたかのように、モニターから声がする。


「〈……よし。ではこれから試合の形式を簡単に説明しよう、星取競技だ。君達は明日の午前零時~午後二十三時五十九分五十九秒までに、大会本選参加資格となる〝星〟を探しだし会場に辿り着かねばならない〉」

「星?」

「〈会場は事前に布告した通り、時間内なら選手達の行動に制限は無い。このホテルのチェックアウトは明日の十二時まで、のんびりしていても構わないよ。制限時間内に〝星〟を持って会場に着きさえすればいい、条件を満たした者は自動的に大会本選出場権を手にするんだ。大会運営委員会が指定した範囲に限ってなら、無制限の銀賦行使も許可されている〉」

「は……何を」

「〈もし制限の無い銀賦使用を危険と思う者が居るなら、構わない。直ぐに帰っていい。……この予選競技の参加対象者は開始時刻、明日の午前零時に()()()()()()()()()()()()()()()だ。補欠も補助も例外なく、参加資格所有者とカウントされる〉」

「なっ!?」


 これには自分は関係ないと思っていた補助メンバーが、最も顔色を変えた。補助とは文字通り、選手達が競技に専念できるようサポートする要員だ。雑用係と言ってもいい。つまり賦力の強さではなく大会に関わりたい、選手を支えたいと思っている人達。当然選手が何らかの形で出場不可能になっても、代理の候補にすら上がらない。代理となるのは補欠メンバーだ、彼らにとってはまたとないチャンスだろう。

 突如大会という晴れ舞台に引きずり込まれた生徒達の動揺を余所に、機械声が淡々と説明を続ける。


「〈勿論銀賦の使用は大会運営委員会(こちら)が指定した範囲内のみ、他の場所で使用が確認された場合即失格。大会出場資格を永遠に剥奪するので悪しからず。指定された範囲、〝星〟についての情報は自分達で収集してくれ。それすら出来ないなら本選に参加する資格も、実力も無い〉」


 えらいことになった、これは荒れる。

 生徒会が集合している、教師も入って何か話し合っていた。概要を聞いただけで乱戦が予想される競技だ、放送が終了次第危ない生徒をホテルから出す計画かもしれない。

 力富は瞬き一つせず、モニターに釘付けだった。居眠り常習犯ヘッドホン男子ですら、しっかり目を開いている。席に着く前から妙にテンションが高かった気はするが、今は放送に集中しよう。


「〈さて、粗方説明し終えた。詳細は私が直接伝えよう。今からモニターに表示される生徒は、一時間後最上階まで来てくれ。案内が居る〉」


 モニターには第一~第三高校に区切られた枠、その中に二人~四人の氏名が映し出された。第一高校の枠に表示された〝アッラー〟の名、隣から怒気が揺れ立つ。

 基本生徒会長と副会長が呼ばれている、三人目四人目は何か他の理由が有るのだろう。


 そうでなければ最後尾に、紅雫叶雨の名が表示される理由が分からない。


「ゴブぅふううウぅゥゥ!!???!?」

「うおお!?大丈夫か紅!?」

「げっほぉ!!ゴホッゴホッ!……ぐふぅっ……わ……わたしの、ごほぉ、肉じゃがは無事かぁ……!?」

「大丈夫だ!でも皮付きポテトは止めとけ!」


 予想の枠を跳び越え過ぎた現実に、気管が大ダメージを負った。フライドポテトには申し訳ない事をした、まだ半分は残っていたのに。

 毒でも吐いているような咳に注意が集まる、そんな些事に気後れしている場合じゃなかった。

 何故あそこに叶雨の名前が在るのだろうか。


「……何で紅が?」

「私が知りたい」


 本当に理由が分からない、生徒会以外では叶雨と近嵐先生の名が表示されている。近嵐先生はいくらでも理由の候補があるだろう、実績による協力要請や過度な援護に釘を指す為かもしれない。叶雨だけが表示されている者達と共通点の無い違和感、生徒会や教師からの視線が痛かった。

 モニターは砂嵐に戻る、針の筵が終わりまた声が聞こえた。


「〈さて、君達の疑問に一つだけ答えよう。賦力学校生徒諸君は、今回の本選出場選手選抜方法に困惑を覚えている事と思う。毎年それぞれの競技で順当な予選を行い、本選と変わらぬルールで正しく覇を競ってきた。勝敗は定められたステージで、己の全てを駆使して決する。何も可笑しな事は無い〉」


「〈()()()()()()〉」


「〈銀賦とは星の輝き、賦力とは人の未知。押し込められた場所で他人が決めた規則に従っていては、人の進化が訪れる訳もない。まだ、まだ行けるはずだ。人はもっと先へ、新しい世界の舞台に上がる時が来た。死線の一つや二つ潜らずに未来を牽引するなど、賦力士の名が泣くだろう?〉」


 砂嵐の向こうが見えた気がした。両手を広げ、叶雨達を導くように演じる姿が。


「〈この理不尽を超えた者こそ、新しい世界の導き手となる。どうか常識も非常識も破り捨てて、新世界を生む神の子となってくれ。君達の健闘に期待する〉」


 電源が落ちる、モニターが天井に消えていきホテルの従業員が戻って来た。しかし彼らが仕事を再開する様子に気付ける程、どの高校も余裕は無い。


「補欠・補助要員は三十分後、この階の応接ゾーンに集合して下さい!選手は今直ぐ此方に集まって下さい!」


 生徒会長の号令に席を立つ、力富とヘッドホン男子も一緒だ。選手だったらしい、知らなかった。

 離れた席から鋭い視線を感じる。力富の傍に嫌いな女が居れば、睨みたくもなるのだろう。更にモニターの効果か、普段は力富に行く視線も叶雨に刺さっている。胃が痛くなってきた。


「お前、何かしたのか?」

「してねえよ、ふざけんな?」


 珍しく星河から声が掛かったと思えば、名誉棄損だ。理由が何であれ声の主に一言物申したかった、これで理由までふざけていたら殴る。


 そうだ、あまりにもふざけていないか?


 何かが脳裏を過るも、核心には至らず。生徒会長の声が入学式の時と同質のものに変わっていた、戦場に立っているような面持ちである。


「これから各自部屋に戻り、即仮眠を取って下さい。そして正面玄関に零時の十分前には集合、他校との非接触は予選が始まっても継続して下さい。不要な接触は絶対避けて下さい」

「補欠・補助要員は競技に参加させるんですか?」

「……此処に居る皆さんが大会に勝つ為の最適メンバーである事は、変わりありません。予選への対応も玄関に集合した後、伝達します」


 思ったより慌てる人も恐れている人もいない、むしろ一部の選手はやる気全開である。予選への参加者選定は当然として、参加権を認めるかどうかも含めて、判断は生徒会に任せるべきだろう。例え予選の競技内容が全く分からなくても、学校単位での戦いになる事は間違いないのだから。

 簡潔な連絡を聞き、食事の席へ戻ろうと反転する。だが強く肩を掴まれて、足は一歩も進まなかった。


「お前は駄目だ」

「……はい」


 副生徒会長のギラついた目に、抵抗の余地はなかった。一緒に残ってくれている力富には感謝しかない、ただ理由が気になっているだけかもしれないが、それでも良い。

 教師陣からも熱い視線が突き刺さる。第三高校に随行を許された教師は三名、一人は近嵐先生だ。後二人は体育教師の鐘ヶ島(かねがしま)斐都(あやと)と、養護教諭の(かなばさみ)(ひらこのしろ)である。養護教諭は初めて見るが白衣なので推察は出来た、名前は全く読めなかったが。


「紅雫さん、運営委員会との会合に同行いただけますか?」

「呼び出しには応じます、理由全然分かりませんが……拒否はしませんよ」

「では指定時刻の五分前に、この階のスタッフカウンターで会いましょう」


 深く理由の心当たりを聞かれなかったの助かった、生徒会も忙しいのだろう。

 戻ったテーブルでフライドポテトを手厚く供養し、少し冷めた肉じゃがを食べる。このホテルは牛肉派らしい、豚も好きだ。


「結局、呼ばれる理由は全然分かんねえの?」

「分からない。……ただ」

「ただ?」

「私を呼びそうな人に、心当たりが、無い事も無い」

「誰?」

「……確信が無いから保留」


 舌を滑る言い訳だ、実に説得力が無かった。確信が無いと言いつつ、叶雨自身には他の心当たりは皆目見当がつかない。

 言葉少なく、御馳走を胃に収める作業を続けた。もしかしたら次の食事は、これ程豪華にならないかもしれないのだから。夜食用のご飯もタッパーに詰める。庶民的で申し訳ないが、それすらカバーしてくれるホテル側の気遣いに脱帽した。




 放送から約五十分後。何故か途中から同じテーブルに混ざり出した近嵐先生と共に、生徒会長・副会長と合流する。先にスタッフカウンター前で待っていたが、何か作業中らしい。生徒会は本当に大変だ、大会期間中が特別なのかもしれないが進級しても生徒会役員には絶対ならないでおこう。


「……お待たせしてすみません、行きましょう」


 キャメロン会長の一言で、カウンターから一人の従業員が出て先導に入る。従業員が懐から出したカードで、光が点いたエレベーターに乗り上の階へ。ホテルの階半ばで一度降り、別の案内人が叶雨達を先導した。

 新しい案内人は軍服だ、階級は少尉。一目で階級を確認できる位には、軍人を知っている。

 三回エレベーターを乗り換えて、やっと辿り着いた。


「遅かったな、我が伴侶。左に侍る事を許す」

「アッラー生徒会長、招集されていない人員の同行は止めたまえ」


 この場に力富が居なくて良かった、そこだけは呼ばれたのが叶雨で良かったと言える。

 明らかに高校生ではない美女も混ぜて、己の三百六十度を複数人に侍らせる第一賦力高等学校生徒会長、アッラー。一人真面目そうな女子生徒が座っているが、彼女が副会長だろうか。

 向かいのソファに眼鏡の男と、細身ながら長身の男。目の前でリアルハーレムが展開されていても、表情筋を微動だにしていなかった。真面目を体現する容姿は整っていて、眼鏡の位置を直す仕草まで型に嵌った美がある。気のせいか長身男が眼鏡男を見る目は、八色が力富を見る目と重なっていた。考え過ぎないでおこう。恐らく彼らが、第二賦力高等学校の生徒会長と副会長だ。


「……運営委員会の方は?」


 変わった挨拶位の認識なのか、キャメロン会長はアッラーの言葉を無視した。むしろ原副会長の表情が歪んでいる、喧嘩を売る程馬鹿ではないだろう。先日本選会場で先んじて行われた会議に生徒会長ではなく副会長が出席したのも、この邂逅を阻止する為だったのではないだろうか。裏を突かれ、学校に乗り込まれた訳だが。

 アッラーもキャメロン会長の反応に不快を示していない、可愛いな位に思っていそうだ。一瞬此方に目を向けた時、剣呑が灯り横切った。存在すら否定しようと頑なな様子は、怒りより疑問が湧く。


「まだだ、約束の時間にはまだ数分……」


 キャメロン会長の問いに応答した眼鏡男子は、何故か此方を見て動きを止めた。それは他の者達もだ、視線が何処か一点に集中している。

 視線の先を追って五感に意識を向けている途中で、背後の気配に気付いた。気付くのが遅過ぎた。

 咄嗟に出た肘は空を切る、外したのではなく躱されたのだ。叶雨と同じ動きで背中に貼り付き、離れない。空を切った肘の勢いを裏拳に乗せるが、読んでいたように手首を掴まれた。

 腹に手が回り叶雨をは後ろから抑えられる、耳元で囁く甘い声が鼓膜を震わせた。


「会いたかったよ……僕の天使」


 悲鳴を上げなかっただけ、叶雨はとても頑張った。

 生き残っていた理性が足を持ち上げ、溢れる怒りが振り下ろす踵に籠る。

 短い悲鳴、撃沈。




閲覧有難う御座いました。

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