表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/47

忠告

 



 状況はよく分からないが、取り敢えず敵が誰かは明確だった。

 手を引かれながら目に付いたのは、数十分前まで自分が居た倉庫。手のかかる先輩と頼りになる友が待つ建物。その屋根が消えていると理解した叶雨は、逆に掴まれていた腕を引っ張った。


「頼まれた。……で、アンタ誰?」


 叶雨が頼んでいた先輩二人を守り、疲弊した力富を後ろに寝かせる。上空で悠々とふんぞり返る男がどんな反応を示しても、背後には何も通さないと覚悟した問い掛けだった。

 胃を弄る熱で力が暴走しないように堪え、視線と言葉に感情を乗せる。重いそれらを受けた男は、キャメロン会長の登場で喜色満面だった表情をしかめた。突然現れた知らない誰か、正常な反応に思えた。そこまでは。


 神、とまではいかなくとも偉そうなアラビア系イケメン。支配者然とした男はしかめていた顔をゆっくり広げ、鋭い目尻を無くすほど目を丸くしたのだ。

 イケメンの驚愕顔、迫力あるな。


「……な、何……()()()()()()()()!!?」

「先に聞いたのはコッチだっての」

「おま、お前、ソレは何だ!?……お前は……人間の形をした、お前は……なんなんだ!!?」

「……人の友達殺そうとして、挙句の果てに人外扱いとは……」


 張り詰めていた弦が音を立て、限界を超え引き絞られる。指という理性を外すには十分な、敵意の合図だった。


「殺す」

「―――待って」


 忘れていた。

 体を張って間に聳える金色が、叶雨の敵意を僅かに逸らす。薄まりはしないが、思考を挟む余地が生まれた。


「双方、どうか矛を収めて」


 手の平を見せ静止を強調するキャメロン会長、男は狼狽を表情に留めた。叶雨も一旦、浮かし掛けた凶器を離す。ここ数日振り回していた石柱が武器として馴染み、無意識に使う所だった。

 頭上から見下ろし続ける男への敵意を前方に、現状を冷静に解析しようとする思考を後方に向ける。

 力富はまだ気を失っていた、それだけで男の危険度は跳ね上がる。あの力富が後ろに先輩を庇っていたとはいえ、ほぼ一方的。間違いなく銀賦だろうが、建物の屋根を消して自身は宙にふんぞり返り謎の発光。全く分からない。

 先輩達も床に倒れて意識を失っているが、目立った外傷は無さそうだ。呼吸が安定している事も、遠目にだが確認した。


 改めて敵意に集中する。男は間違いなくキャメロン会長が言っていた、第一賦力高校の生徒会長だろう。平常心を乱していたとはいえ、神と仮称するに値する風貌と態度だ。

 男、アッラーは息を整え透明な背もたれに身を倒す。


「ふぅ……小娘、頭を垂れよ。心身の献上を許す」

「会長、何ですかアレ?馬鹿なんですか?」

「違うの!アレがアッラー会長の平常運転というか……」


 アッラーの対応が大気圏飛び出す勢いで、怒りを忘れ掛けた叶雨。

 賦力の特性を鑑みれば、性格や人格に突出した個性が在るのは仕方ない。しかしここまで尖っていて、よく普通に生きていられるなと思った。

 銀賦を形成するのは、極端な話妄想や思い込みだ。日頃から銀賦に適した『自分』を演じるのは、銀賦強化には有効な手段ではある。髪型や服、口調や趣味で銀賦は形を作り現実を侵す。

 そのどれの手段を言い訳にしても、アッラーのソレは異様に見えた。


 まるで本当に、己を〝(アッラー)〟としているようだ。


「まず攻撃理由を言えよ、後屋根どこ?」

「我に言葉を捧げて良いのは、我が種の受胎資格を得ている者だけである。貴様は要らん」

「何ですかアレ??頭おかしくないですか???」

「お、落ち着いて!本当にアレがあの人の普通なの!」

「余計頭おかしいでしょ?」


 話しが前進する気配が無い、ひたすら時間の無駄である。色んなグチャグチャを胃に任せ、拳を強く握った。


「……三人を保健医に診てもらいます。会長はあの頭おかしい人を、早く生徒会室にでも引っ張って下さい」

「分かりました、彼らの事は―――」

「くれぐれも!知り合いだからって、犯罪の隠蔽だけはしないで下さいね。……ね?」

「も、ちろんよ!直ぐ行くわ!直ぐに連れて行くわ!!」


 此処は退くが許したわけじゃねえ、眼力の意味を会長は正しく読んでくれたらしい。アッラーとかふざけた名前の男が犯した罪を、正しく裁いてくれる事を祈る。

 それに近々、あの学校とも賦力大会で出会う。そして戦う。

 不幸中の幸いだが、あの男を合法的に痛めつける機会が在るかもしれない。初めて大会を楽しみに感じた。生徒会長が大会のメンバーでない可能性は低い、もしも叶雨と出場競技が同じで、もしも対戦相手にでもなったら、やる事は一つだ。




 キャメロン会長が必死に説得し、屋根の無い倉庫からアッラーを連れて行った。アッラーも会長の言葉なら、多少寛容的な態度である。見た目の問題だろうか、美人に弱いのは万国共通らしい。


「っ、ぐぅ……」

「力富?」


 三人を浮かせ、負担を掛けないようにゆっくり寝かせた。浮遊感に刺激を受けたのか、力富が寝かされた直後に目を覚ます。先輩二人も瞼の下や指先に動きがある、直に目を覚ますだろう。

 何故か倉庫に保管されていた国旗で作った枕の傍、膝を着き薄っすらと開いた青を覗く。朦朧とした意識に視線が泳ぎ、叶雨を見付けて目の色を変えた。


「っは……あの、男は!?」

「生徒会長が連れて行った、取り敢えず此処にはいない」

「……っ!」


 気を失う前の出来事を詳細に記憶していたらしい力富は、警戒を解いた表情を歪める。

 憤怒だ。

 怒りに染まった力富は歯を鳴らし、まだふらつく体を支える手にも気付かない。まだ短い付き合いだが、彼のこんな反応は珍しかった。苦虫を百匹噛み締めても足りない、屈辱に満ちた姿。


「あの男は第一賦力高の生徒会長、アッラー。ふざけた名前だけど、恐らく他人の精神に干渉出来る知覚か触覚型の銀賦。自分で神を自称してるくらいだから、相当異力が強いんだと思うよ」

「……」

「体は?保健室で一度診てもらった方が良い」

「……なあ、紅」

「なに?」

「今からでも、大会のメンバーになれると思うか?」


 此方の問いに答えない力富の視線は、この場から消えた敵を射抜いている。灼熱を帯びた瞳が叶雨を焼く前に、分かり切った返事をした。


「生徒会長に聞いてみないと分からん、なんで?」


 力富は握り拳を叩き付け、腹の底から出た言葉に怒りの火を再度揺らす。


「あの自称神様野郎……ぜってえ、潰す……!!」








「先日の噴火、人為によるもののようだな。何処ぞの不逞の輩よ?」

「……何の話でしょう」


 生徒会室にはキャメロンとアッラーの二人だけ、他の生徒会役員は不在だ。

 大会が近く忙しい事もあるが、この男と長く机を共にして精神を害されない筈がない。キャメロンは役員達の身を守る為に、アッラーとの対面を一手に引き受けた。臨戦態勢を解かないキャメロン、アッラーの強烈な初手が精神を容赦なく揺さぶってくる。

 噴火と頭に付けば、話しの軸が固定されたも同じ。問題は人為的な災害だと言い切った事である。山を爆発させられる者など居ない、そんな常識を一切加味しない男。それが〝アッラー〟だ。


「なに。道中よく鳴く子猫を見付けてな、少し撫でてやっただけよ」

「我が校の生徒に手を出す事は許さないと、散々申し上げてる筈ですが!?」

「お前は道端から餌を強請って顔を出す子猫に、野良でないからと慈悲の欠片も湧かぬのか?冷たい女よ……、よい、許す。子猫にも配らぬその慈愛、全て我に捧げるがよい!」

「っ……!」


 彫刻が表情を変えたように、神の造形が笑顔を形どる。本気でこの男はキャメロンを非情と責め、それでも許すと笑って言ったのだ。

 恐ろしいのは許されたと感じ、その言葉に一喜一憂する自分の心臓だった。

 震えを押し殺し異議を申し立てた時と、許すと告げられた時。どちらもキャメロンの心臓は激しい拍動を奏でていた。前者では緊張に震え、後者では喜びに震えたのだ。

 これが自称神様の銀賦、同じ空間に居るだけで人は彼を〝神〟だと信じる。

 異力を振り絞り、不可視の支配に対抗する。それでも揺らされる心の機微を無視して、キャメロンは拳を机に下ろした。


「ふざけないで下さい!そもそも何故此方に!?会場で最終会議が行われると、事前に公布されていたでしょう!?」

「何故俺が顔も知らぬ者の言葉で動かねばならない?」

「このっ……!」


 厚顔不遜、心が高ぶるのを抑える為に異力を絞れば、些細な言動にも反応してしまう。冷静を保ちながらアッラーと会話できない時点で、キャメロンの不利は確定していた。


「どうせあの犬が調べているのだろう、身元が判明次第報告せよ。我が伴侶に手を出した報いを受けさせねばな」

「勝手に決めないで下さい!貴方に嫁ぐ気なんて全くありませんから!」

「神の膝元に増さる幸運など在りはしない。我は寛大だ、沈静の後嫁するが良い」


 キャメロンの反論を猫撫で声と思っているような半笑いで、席を立つアッラー。

 生徒会室から去ろうとする背中に、安堵する鼓動を察して歯を食い縛った。後輩を痛めつけたアッラーに叱責したいと考えていても、体が離れていく存在を止めない。生物・無機物に関わらず広い範囲で影響を与えるアッラーの銀賦、その力の詳細を知っている者はいなかった。

 他者を屈服させたいと思う者は居る、しかし()()()()と願っている時点で、それは非現実の妄想。存在を疑わない銀賦に昇華される事は無い。

 つまりアッラーは他人が自分を神だと感じるのは、常識だと思っている。疑問にすらしていないのだ。どう育てばこんな人間が出来るのか、存在と同じくアッラーの出生も謎に満ちている。

 気に入った異性を誰でもかれでも嫁にする行為も、キャメロンには理解できなかった。


 扉を開き敷居を跨ぐ、後ろに足を片方残し動きが止まった。迷いや悩みに無縁な自称神様としては、かなり珍しい反応である。

 アッラーは体の向きを変えず、初めて見る表情で口を開いた。


「忠告する。()()は疾く切れ、人に余る」

「……何を、言って……?」


 最後までキャメロンの問いに真面な返事は無かった。今度こそ迷いなく去ったアッラーを港まで送っていく気力は無く、立派な会長席に全身を投げる。無駄に金が掛かっていると思っていた椅子は、疲労し倒れるように座る生徒会長を優しく支えてくれた。

 平常の間隔を取り戻しつつある鼓動で、思考が淀みなく回る。アッラーが最後に零した『忠告』、その矛先にやっと思い至った。


「紅雫、叶雨……」


 〝神〟に囚われ掛けていたキャメロンを正気に戻し、先日の噴火被害を抑える立役者となった後輩。賦力学校が一年で最も力を入れる大会のレギュラーにまで選ばれた後輩が、最も危ない男に警戒されている。

 あの忠告をどう受け取るか、キャメロンには判断がつかなかった。




閲覧有難う御座いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ