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神様

 



 職員室から出る。珍しい人物がそこに居て、面倒な処理をさせられたからだ。


「まさか……公欠扱いになるとは……」


 部室に居ない近嵐教授を探していたら、本人が走ってきてその勢いのまま職員室に連れていかれた。署名を強要された書類は出島申請書と、教員との連名による技術躍進行動に基づいた外泊申請である。

 ようするに大会出場者が乗る飛行機便より数日早く島を出て、最新機材の揃った研究所で超能力を研究したいのだ。無茶苦茶な話だ、近嵐教授の無駄な熱意と実績が無ければ決して通らなかっただろう。署名を迫らせた時、近くに居た校長は痩せ細っていた。相当粘り強く、しつこく許可を求められたのだと分かる。

 一応は全国賦力大会のメンバーだ、期間は大会の開会式前日まで。叶雨に否は無かった。契約を忘れていないかだけが心配である、人権を理解している研究所の人がトップである事を祈るばかりだ。


 力富に面倒な先輩二人の仲裁をお願いしている、早く戻らなければならない。足が自然と早く回る。

 向こうも何故か慌てていたらしい、大きな足音に曲がり角の衝突を免れた。


「きゃ!?……あ、紅雫さん!?」

「生徒会長」


 頬を赤らめた生徒会長が、寸前で避けた叶雨に驚く。少しだけ息を乱して校則違反ギリギリの駆け足、叶雨の性別が逆だったらあえて避けなかったかもしれない。上気した頬にかかる金髪、思春期男子なら下衆な想像すら在り得ただろう。

 生徒会長は叶雨の横を抜けようとして、一瞬考慮の時間を挟んだ。体を反転させ、叶雨の肩を掴む。激しい動きに揺れる胸には、同性といえど目を奪われ掛けた。


「あの、人を見なかった!?他校の生徒なのだけど!」

「他校の、生徒?いえ、見てませんが」

「そう……、もし見かけたら生徒会室に来るよう伝えてくれない?絶対よ!無理矢理でも良いわ!」


 普段温厚な生徒会長に似つかわしくない、命令を示唆する表現。只事ではない様子に、興味が無くとも詳細を確かめたくなった。


「どうしたんですか?他校の生徒が迷子にでもなったとか?」

「違うの!そんな話じゃ……いえ、ごめんなさい。ちゃんと話さないと分からないわよね……」


 深呼吸する生徒会長。膨張する肺に、胸部装甲が更に膨れた。存在が性的に忙しくて、叶雨も変態親父みたいな思考になっている。別に興奮はしないが、妙に感心した。


「ふぅ……今日は賦力第一高等学校の方と直接話をしようと言われていて、会談の場として島までお越しいただいたの」

「何故わざわざ遠い島に、あ……事件の慰問か何か?」

「それと大会の相互激励、とのお話でしたんですけど……」


 口ごもる生徒会長を無言で急かし、大雑把な事情を聞いた。

 対談の提案は第一学校からだったらしい、公的な死者が出ていないとはいえあれだけの規模の事件。慰問だと言われれば、会長の立場上断れない。此方に大きな負担は無いし、島に来るのが第一の()生徒会長だと考えたのも許可した理由の一つだった。

 実は現在第三の副生徒会長、原一喜は島にいない。

 賦力大会が行われる会場の視察と、現地で行われる会議に出席する為だ。各出場高校の生徒代表が大会運営委員から招集を受け、詳細な規則と予定の打ち合わせを行っている。

 毎年代表には生徒会長が赴く、しかしあの事件からまだ幾月と経っていない。事後処理や島の防衛力を考え、今年は副生徒会長に出席を頼んだそうだ。

 そんな時期に第一学校から慰問の申し入れ、来るのは生徒会の役員か教員だと思っていた。そんなキャメロン会長の予想を蹴り飛ばし、港に出向かえば既に客は学校へ行ったと報告を受ける。しかも客の特徴を聞き、更に会長の焦りは募った。


「まさか、会議に出席すると思っていた生徒会長自ら島に来るなんて……」

「生徒会長だとまずいんですか?」

「生徒会長が駄目なのではないの、()()()()()()()()()()()()()()()()!」


 意味は変わらないと思うが、役職ではなく人物が問題だと言いたいのだろうか。怪しい人間が生徒の代表になれる程、第一高校は適当な学校なのか。個人的に親しい関係という様子でもない。


「どんな方なんですか?」

「一言で表すなら……神様?」

「……はい?」


 おふざけと一蹴するには、会長の顔が強張っていた。未知の生物に恐れを抱いているような表情で、会長は胸に手を添える。不安を閉じ込め、冷静に状況を分析していた。


「彼を評価する全ての者が言うでしょう、あの方こそ全能にして支配者。頂点にして絶対。過去は彼を尊ぶ為に存在し、現在はあまねく彼の足元に平伏す。そしてこれから訪れる不可視の未来すら、あの方に傅く時を坦々と―――」


 両手を力一杯打ち付けた。


 目前の叶雨が見えていなかったキャメロン会長は、鼻先の大きな柏手にその場で跳ねる。色々揺れた。瞳に光が戻った事を目視し、叶雨は会長の肩を掴み返す。激しく揺らしたりはしなかった。


「大丈夫ですか、会長」

「あ、わたくし……まさかもう術中に!?」

「術中?」


 第一の生徒会長の人柄を聞いた途端、会長の意識が朦朧としたのが見て分かった。精神に何らかの異変が起きたのは、経過を見ていた叶雨には一目瞭然である。その状態を術中と言うなら納得するが、何の術なのかが全く分からない。術という言い方にも疑問が湧く。異常イコール賦力と関連付けるが、術という表現は聞き慣れなかった。

 狼狽する会長は、叶雨の腕をおもむろに掴んだ。事件時の強引さを思わせる牽引。


「ちょっと!?」

「また私が可笑しくなったら目を覚まさせて下さいな!下手人は見当がついています、今から向かいましょう!」

「何処に!?ていうか下手人!?」


 言い方の古さは置いておくが、大事な部分は引っ張られていても問い質す。会長は振り返らず、廊下を疾走していた。校則違反である。


「この術、間違いなく……第一賦力高等学校生徒会長―――アッラーですわ!」

「凄い名前だな!?」


 アッラー、確かアラビア語で〝神〟。











 〝神〟が天に座していた。


 本当に座っているのだ。何もない宙にまるで玉座が在るような態勢で、傍からは力富が忠誠を誓う騎士に見えるだろう。謎の重力さえなければ直ぐに立ち上がり、その男に問いたかった。

 お前は何だ、と。


「そこな二匹、余が戯れに覗いてみれば……なんと滑稽なお遊びか」

「は……な、ぃ……」


 日に焼けた肌が纏っているのは、賦力高校の制服だ。力富達のソレとの違いは色だけ、此方は青いが男の袖や襟の色は赤い。長い赤褐色の髪と合わさって、男の為に仕立てられたような制服だった。

 天から見下ろす金色の瞳、浮世離れした輝きに空之岳の声はどもる。


「鏡と言を交わすなど、そこまで無能を晒す意味が分からん。児戯にも劣るわ」


 単位には物申したい所だが、二匹とは空之岳とランスタインの事だろう。二人に話し掛けているのか、視線はまるで虫を見ているようだ。自分勝手で人を数か物としか思っていない態度、言葉も対話を前提にしていない。独り言に等しい、罵詈の連鎖。


「時間の無駄だな……千金に勝る余の時を塵にした罪、同じ塵となって贖え」

「まっ―――」

「消えろ」


 空が光った、座った態勢の男の背後だ。天井が消えている事など疑問に値しない、怒涛の展開。直近の危機に意識を集中させる。


「……ぁ、ぁぁああああああああああああ!!!!!!」


 意味は無い、力富にしか。地に着いて動かない膝を叱咤して、縮んでいた背筋を鼓舞する叫びだ。

 誰の言いなりにもなりたくない、相手が例え『神』だとしても。


「〝銀の(スリーブロ・)怒り(グニーヴエ)〟―――!」


 見えない拘束を千切り、水銀は空に反逆する。何を迎撃したのかも分からないが、ありったけの力で光の攻撃に抵抗した。未知の攻撃に削られる感触を耐え、言葉にならない絶叫が上がる。

 何発かが床を穿ち、力富の制服を破った。皮膚の薄皮は許容範囲だ。この規模を防ぐには、何処までの被害を許すかによるだろう。臥せったまま立ち上がれない先輩二人の被害に関しても、現状中傷までは許容してしかるべきだ。それほどの理不尽、それだけの規模。

 耳鳴りが鼓動を上書きして、やっと攻勢の波が止んだのだと知る。水銀は霧散して丸腰に等しいが、軽傷で済ませられた。

 一分にも満たなかった時間で、何倍もの寿命を消費した気がする。力富に残っている力は、頭上の存在を睨むだけとなった。


「なんなんだ……お前!!?」

「不届き」


 一蹴。

 力富が全身全霊で防いだ光が、また空を塗り潰す。圧の増した神罰に、今度こそ抵抗の心が失われた。

 死ぬのだろう、なんて呆気ない。



「―――光よ!!!」



 空気の振動速度を上回る、世界の消失。

 視界を白一色に塗り潰す衝突は、永遠に近い刹那で残響だけとなった。


「おお……おお!久しいな、我が伴侶!」

「我が校の生徒に手を出すなんて、何を考えているのかしら。第一賦力高等学校生徒会長」

「其方には名を許していると言うに……、相も変わらず奥ゆかしい」


 視力が回復して最初に映ったのは、キャメロン生徒会長の背中だった。眩しい金髪も今は目に優しく、威圧を物ともしない立ち姿は力富の恐怖を拭う。

 星が消えるような白光を防いだ手段を聞きたかったが、自重を支える力すら使い果たした。

 理不尽な存在を前に、絶対倒れないと意地を張っていた心が緩んだ。生徒会長の力を知っている冷静な思考が、肉体の限界を訴えたのだろう。理不尽な男と臆せず話す生徒会長を見たい気持ちも在ったが、頭が床に向かうのを力富は止められなかった。


 瞼が落ちる手前、床に激突するはずだった頭部が受け止められる。キャメロン会長は此方に背を向けているし、先輩二人は恐らく立ち上がる事すら出来ていない。

 可能性を消していった力富は、辿り着いた答えに全身の緊張を解く。


「……あと、たのんだ」


 それだけ伝えられればいい、それだけで十分だった。

 力富を包む腕の力に、瞼が完全な休眠状態となる。薄れゆく鼓膜が拾う言葉は、意味が理解されず流れ落ちた。


「頼まれた。―――」

「―――んだ、お前は!!?」


 暗転。




閲覧有難う御座いました。

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