目的
臨時全校集会は、〝孤島噴火事件〟の終息宣言だった。
流石に生徒間で歓喜の声が上がり、生徒の多くが互いの無事を祝う。一生に一度体験するかどうかの大災害、その危機を乗り越え生き残れた自身を褒める。
喜びの表情を作れなかった者は、この事件の裏に在るナニカを察していた。
定期的に片付けても担任によって物が増える新発見部部室は、今日初めて今年の全部員が集合していた。
「何でこの二人が此処に!!?」
「うるさいなあ、どうでもいいでしょ」
「落ち着け、玲。彼らの動揺は当然だ、まさか自分が所属している部の部室に大企業の子息が居るとは、誰も想像出来まい」
「いや坊ちゃんだから驚いたんじゃねえよ!?俺らを殺し掛けた奴が堂々と居座っている事に驚いてんだよ!?」
部室に来た叶雨達を迎えたのは、見覚えの無い豪華な椅子に座る御曹司、ドルヴァス・マーフィー。そして彼に枝垂れ掛かる美少女、もとい男子生徒の野々玲だった。
力富の訴えに同意するが、ブランコ先輩と近嵐先生の反応は淡白だ。
「奉仕活動処分だ、今からミーティングをする」
「つまり、新発見部でボランティア活動しながら反省してるってこと。何時もは倉庫の片付けとか実験の手伝いとかで部室には来ないけど、今日は部のミーティング在るから、初登場しました~」
これが加害者と被害者をバッティングさせない配慮なのか、ただビックリさせたかっただけなのか判断に迷う。後者の可能性が高い分、正直に疑問を口に出せなかった。
野々はマーフィーにくっ付いた状態で、目線を鋭く叶雨達に刺している。マーフィー信者の野々にとっては、マーフィーの誘いを断った叶雨達が憎くて苛立たしいのだろう。こちらとしても入学早々いきなり脅されて要求を断った途端、戦艦の大砲を向けられた恨みは在れ同情は無い。
睨み返したいが力富のツッコミに近い叫びで、タイミングを失ってしまう。少なくとも野々は嫌々部室に来ている様子、今後もミーティング等がない限り部室で鉢合わせしないなら、なんとか飲み込む事にする。
出来るだけ視界に入れないよう椅子を確保し、話し合いのテーブルに着いた。
「お茶何にする~?僕のおすすめは、コーヒーとリンゴジュースと緑茶~」
「コーヒーを頂こう」
「あ、ごめん。コーヒー切れてた、ほうじ茶で良い?」
「見えてるからな愉楽狂!大丈夫だよルヴィ、僕がとっておきのコーヒー淹れるからね!」
「いや、ほうじ茶は嗜んだ事が無い。是非貰おう!」
「先輩、私手伝います」
「駄目だ雅、奴と奴の棚に近づくな。どんな危険が有るか知れたものじゃない」
「でも……」
「大袈裟だなあ星河、俺だって偶に触るから大じょ……先輩、なんでコーヒー豆がイカ墨に漬かってるんですか?」
「更に黒くなるかな~と思って!ねえねえ、誰も緑茶頼まないけど何で?校長室から取ってきた、高級品だよ?」
「ちょっと!私達まで怒られるような事しないでよ!?力富ぉ、私リンゴジュースが良いなぁ?」
「紅雫、俺の分の茶を」
「……」
人数が増えた部室は、一気に騒がしさのレベルが上がった。各々が自分のスタイルを曲げず、自由とルールの中を飛び回る。会話の濁流に付いて行けない。
もう誰も気にしないので、超能力でひっそり普通のお茶を確保する。目敏い近嵐先生に見つかったので、ついでに用意した。
ミーティングは十分後に行われた。
「―――さて、今回の議題は……み~んなお待ちかねの〝全国三校合同賦力競技大会〟~!どんどんぱふぱふ~!」
「「「「「「……」」」」」」
「イエーイ!」
「いっ……いえー……い」
「雅、無理せず無視しろ。力富うるさい」
「何で俺だけ!?」
特に誰も議題については聞いていなかったが、驚く者も居ない。殆ど近嵐先生の趣味で動いている部活で、ミーティングなんて本来全く必要無いのだ。そうなるとわざわざ部員全員強制招集させるほどの話題は、噴火事件か〝全国三校合同賦力競技大会〟位しか浮かばない。
噴火事件は今日正式に終息して、目新しさの無い過去の事件。ブランコのテンションが高くなるとは考えにくい。ならば賦力大会が議題だろうと、察しも付く。
楽しそうに腕を振るブランコのノリには、力富以外誰も付いて行けなかった。
「何で部活でこの話するかっていうと、新発見部からメンバーが五人も選出されるからです!」
「はあああ!?何それ、一年生も選ばれてるってこと!?」
隙あらば携帯か鏡を覗いている八色の疑問、ノッてくれたとブランコは目を輝かせる。新発見部は教師を除き、一年五人二年一人三年二人の八人だ。数を考えれば一年生が入っていることは直ぐ伝わった。
「一年生は叶雨ちゃんと神代ちゃんと星河くんか~、一年生から選ばれるなんてレアだよ!すごい!」
「紅選ばれたのか!?凄いな!」
「……有難う」
「わ、私は……控えですから……」
「ふん!」
凄いと褒められても、素直に喜ばない三人。そんな普通とズレた反応を見せる叶雨達を、変な目で見ないのがこの部活の特徴と言える。良くも悪くも、常識だけで生きる者が居ない。
叶雨と星河は大会に興味が無いし、雅は周りに必要とされ褒められたから対応しているだけだ。大会への出場を夢見て、将来の為本気で取り組む他生徒には思う所も有るが、進路も何も決めてない叶雨にとって賦力競技大会出場の肩書はただ重かった。
出場を勧めた師の言葉を思い出し、怒りに歪む表情を抑える。
「どした?なんか眉間の皺深いけど」
「いや、大丈夫……」
落ち着こう、感情に直結する超能力の制御に怒りは最も危険だ。ただ一つの例外を置いて、感情の底は簡単に表に出してはいけない。だから感情の底を見せないよう言葉にする。多少乱暴な言葉も心の安定を図る目安、それを知っていて師は叶雨を揶揄うのだ。
「まあ思う所は在るだろうけどさ~、決まったもんは腹を括ろう!聞きたい事が有ったら僕に聞いてね!」
「はい!」
「はい、シルヴァーくん!」
「競技の詳しいルールとか知りたいです!」
「よろしい、教えてあげましょう―――近嵐教授が!」
「えええ!!?」
「どうでもいい」
「だって、残念だね~」
「ブランコ先輩に聞いて何故か近嵐先生に断られた!?」
進行係のテンションが高いせいか、話が進んでいない気がする。
「……結局、ミーティングの目的は何なんだ」
キレ易い星河が最初に業を煮やした。雅にしか興味が無い星河にとって、ブランコのふざけた態度には苛立ちしか沸かないだろう。むしろ怒鳴らなかっただけ成長を感じる。
ブランコは近嵐先生を一瞥し、珍しく行動前に一呼吸を使った。
「そうだねえ~……簡単に言うと、君達には全競技で優勝してほしいんだよ」
「……はあ!?」
〝全国三校合同賦力競技大会〟の完全勝利、ブランコは興味が無かった叶雨達すら目を丸くする願いを口にした。
それがどれだけ困難で現実的ではないか、全く知識が無くても難しいと分かる。毎年テレビで中継されるような大会だ、出場する選手は皆必死で勝ちに行く。己の未来を賭けて人生すら代償にする、一世一代の大舞台。そんな大会でやる気を出さない叶雨達が優勝出来ると、ブランコは本気で思っているのだろうか。
阿呆を見る表情の星河、野々は更に侮蔑も混ざっている。顔を青くする神代に、他人事ながら信じられないと言葉を無くす力富と八色。マーフィーは一人考え込む仕草、ブランコの言葉の裏を読もうとしているのだろうか。
予想通りの反応を示してくれた部員に、ブランコはにやけ面を濃くした。
「ぶふふふっ!何を隠そう我らが近嵐教授は、出来るだけ多くの銀賦観察をお望みなのです!これを叶えなくては、部員として申し訳ないと思わないかね諸君!?」
「どういう意味だ?」
力富の疑問に他の者も同意見だが、マーフィーだけ何かを察した。
「そうか。会場の正式な観覧席で競技を観れるのは、審判と審査員、そして競技出場関係者だけだ。他の競技に参加している生徒であっても、観覧席への立ち入りは許可されていない。会場外に設置されたモニターでしかリアルタイムでの観覧は不可能なんだ」
「えええ……つまり、出来るだけ長く観覧席で銀賦眺めたいから、優勝出来る位ずっと競技参加選手でいろと?なんて自分勝手な」
「違うよ叶雨ちゃん、近嵐教授は自分に正直なだけだから!前回の大会でも僕の競技だけでも観察しようと観覧席乗り込んだんだけど、近嵐教授の大会での伝説を知ってた選手や審査員がビビっちゃって……」
「審査員もビビらせたのか」
「反省した近嵐教授は今年こそ全競技の観察を成功させる為、学校内での評価や点数稼ぎに邁進したのさ!頑張ったんだよ~!」
嫌な想像をしてしまった。正直気付きたくなかったが、今のブランコのセリフで分からなかったのは雅だけである。星河ですら、マーフィーと野々に同情の視線を向けていた。
「……ちょっと待って」
「ん~?」
「まさかとは思うけどさあ……私達を処分って名目で部員にしたの、近嵐教授担任の競技参加者部員を増やす為じゃないよね……?」
「あははは~、何言ってんの?」
嫌悪感丸出しでミーティングを聞いていた野々が、愕然とした様子でブランコに問うた。世界に絶望する一歩手前である。
叶雨はどういう経緯で二人がこの部に入部したか知らないので、例え答えがどちらでも自業自得だと思った。だが甘皮分位は、同情の余地がある。尊敬する誰かの為にひたむきだった野々にとって、他人の願望の為にその行動が利用されていたと知れば、自身の生きがいを汚されかねない真実。
他人の為に必死になれる点だけなら、叶雨は野々も星河も尊敬できる。
鼓膜に心音が響く静寂の中、誰かが喉を鳴らす。緊張で喉が無意識に水分を求めたのだ。野々の真剣さが伝わった部室で、誰もがブランコの胡散臭い微笑みを睨む。
「もう、野々くんたらさあ~…………そんな当たり前のこと聞かないでよ」
「―――うわああああああああああああん!!!ルヴィイイイごべんねええええええ!!!??」
「だ、大丈夫だ、落ち着け玲!!可愛い顔が台無しだぞ!?おい愉楽狂!!非が此方に在るのは承知しているが、これ以上玲の精神を痛めつけるなら許さんぞ!!」
「えええ~、何で僕が怒られるのさ?近嵐教授の作戦なのに~」
「日頃の行いだ、馬鹿」
可愛らしいピンクのキャラクター帽子をかぶった頭を振り回し、狂ったように泣き謝罪を叫ぶ野々。慰めてくれるルヴィの腕の中で、自己嫌悪と猛省に震えていた。
そんな野々と一学年差に見えないマーフィーは、冷静な対応を捨てブランコに反論する。原因はほぼ間違いなく泣き叫んでいる野々なのだが、現状ブランコの味方をしようとする者はいない。雅ですらジト目でブランコを咎め、ポケットティッシュを野々に差し出していた。
悪役の所業を平気で実行する近嵐教授にも、後で苦言を呈しておこう。反省はしないだろうが。
途切れたミーティングの中、八色は一人蚊帳の外を演じている。二人が起こした事件の被害者とは言え、自身の弱みを付け込まれ実行犯となった八色。
罪悪感を覚えているのか、はたまた吹っ切れているのか。避けられている叶雨にはもう八色の心の内は分からないし、知ろうとも考えていない。本来他人の心が分からないのが当たり前で、手段が在る方が可笑しいのだ。
時間は在る。これからゆっくりと八色は悩み、答えを出していく。叶うならその答えが、彼女の人生の大いなる一歩となりますように。
閲覧有難う御座いました。




