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解決

 



 国立賦力第三高等学校を中心として栄えた島は、正式名称を捨てられ広がった別名が賦学島。学生が島の二割程度であっても、その恩恵と影響力が関係していた。


「乗り過ぎです!中型船は大人五十人、未成年を含めても八十を越えたら転覆します!そこ!水夫は船一台に一人です!浮かすだけなら一人で出来るでしょう!しなさい!」

「君!賦力高校の生徒だろ!?早くあっちの定期船に避難しなさい!」

「私は賦力士民間資格四級を所持しています、民間人の保護も義務の一つです!分かったら貴方が乗りなさい!!」

「はっはいい!!」


 正確には自己防衛時の銀賦使用を許可されているだけだが、この手の避難誘導妨害は七回目だ。怒鳴るような説得にも、苛立ちが上乗せされる。

 敬愛する生徒会長の指示で港の避難誘導を始めて三十分。港から溶岩が宙に浮く馬鹿げた光景を目にして、焦りが大きくなっていた。会長の指示か安否、ギリギリで前者に傾いている九重の顔は般若の面と化している。


 港の責任者と簡単な話しを済ませ、正式に全体指揮を任されている生徒会書記、如月(きさらぎ)九重。ある行事でテレビに映った生徒会長の姿に一目惚れ、乗り気ではなかった賦力高校入学に全身全霊で挑んだ会長信者だ。

 実は銀賦関係者には、信者がいる者信者になる者が多い。現実を捻じ曲げる程の妄想力の影響か容姿が優れている者が多いし、妄想激しい者は一つの物や人に執着しやすく、それが優れた銀賦を創造する力になる。

 銀賦が使えるから優れているのではなく、何かに優れているから銀賦が使えるのだ。

 その点で言えば、家が古い如月家は厳格な遺伝子主義。優れた血との交わりこそ生まれた意義であると、そして生まれたからには優れていなければ生きている意味が無い。

 物心付いた時から記憶力がずば抜けていた九重は、周りの期待が重く自信に欠けた性格だった。一目惚れした会長を追いかけ出会わなければ、そのネガティブな自分のまま周りに流されて生きていただろう。


 如月九重が生まれた理由は、ヴィリアーレ・キャメロンに尽くす為だ。


 会長への尊敬を以って、胸中の不安を取り払う。必死の形相で指示を出し続ける九重に、見えない何かが近寄った。


 ―――ワン!

「!?あ、原一喜(かずき)の……!?」


 生徒会で生徒会長は勿論、生徒会メンバーの銀賦を知らない者はいない。例えどれだけその男を九重が気に入らなくても、生徒会員として有能な事は理解している。

 理性が不快を捻じ伏せ、携帯の振動に手を伸ばした。


「―――はい」

『船での避難はもういい、噴火による被害はもう出ない』

「はっ!?なん……、分かりました。私はどうすればいいですか?」

『犯人を捕まえる、お前が一番近い。護衛は付けるから接敵しろ、出来るな?』

「捕まえなくていいんですか?」

『法に奴を裁かせるつもりは無い』


 理性の蓋が割れてしまいそうだ。

 生徒会長と長い付き合いの原一喜は、九重の強い正義感も会長への尊敬も分かっていて()()()()()()。今回の災害の犯人が愉快犯ではなく、どこか計画的で単独ではない可能性を会長は示唆していた。

 原は正しく法の下で犯人が裁かれないと考えた上で、九重の性格に釘を刺している。

 古い家柄の九重にとって、法を順守する心は常人より強いと自負していた。法律を守るのは日本国民として当然の義務だし、悪を断ずる側が悪であってはいけない。

 しかし原はその正義感を曲げろと暗に言っている。どうせ闇に消える犯人なら、()()()()()()()()()()()()()と思っているのだ。

 賦力高校を狙った明確な悪意のある犯罪だ、今後も何か仕掛けてくる可能性は在った。学校に何かされれば、生徒会長は必ず問題の渦中に自ら入って行く。今回以上の悪行に、生徒会長が無傷で済む保証も無い。

 そんな未来、会長を敬愛する九重が許せる筈もなかった。


「……分かりました。接敵後、奴を()()()()()()()()

『それでいい、後はこっちでやる』


 返事に安堵が混ざっている気もしたが、些事に掛ける時間が勿体無い。足元の剛毛を頼りに、犯人の下へと向かう。携帯で港の責任者に電話して、最低限の情報提供と指揮の引継ぎを頼んだ。

 副会長に沸く感情も、頭に響く罪悪感も、不満が絡んで重い足も、全ては尊敬と忠誠を捧げたあの人の幸せの為に。






 切れの悪い噴火を続ける天穿山と海の間。普通の手段では人の足が入らない場所に、透明な部屋が浮いていた。

 頭が可笑しくなったと言われても仕方がないが、事実をそのまま口にすればそうなる。噴火を誘引した地震のせいか、激しい高波が崖に体当たりを繰り返していた。透明な部屋は波飛沫を防ぐ為、壁も屋根も完備した特別性である。

 呑気にスナックを見えない椅子に座って食べているブランコの様子が、異質なそれを部屋と称する要因だ。机も有るらしい、未開封の菓子袋が幾つか並んでいる。

 椅子一つ分離して同じ椅子に座る叶雨は、立ち姿も凛とした会長の様子を窺う。眼下に荒れた海を見据え立つヴィリアーレは、硬い雰囲気で副会長の合図を待っていた。

 件の犯人確保は近嵐教授と生徒会副会長が、その成功を合図に叶雨と生徒会長、ついでにブランコ先輩が災害に対処する役割だ。


「遅いね~、犯人まだかな~?」

「忍耐力が足りないのね、後輩を見習いなさい」

「僕は観戦者だから!趣味の一環として此処に居るだけで、仕事してる会長達と同じ心構えだと思われる方がいい迷惑。しかも紅雫ちゃんのスーパーパワー間近で見れない、教授の八つ当たりに遭う未来が~!憂鬱……」

「では避難して結構ですよ。貴方はこの作戦に絶対必要ではないのだから」

「やだよ、こんな面白い事見逃すわけないじゃん。ね~」


 話し掛けないでほしい、苦笑いで返しておこう。港では今頃大混乱だろう状況で、呑気なものだ。当事者ではあるが、ブランコ先輩と違って望んで居る訳ではないと言い訳しておく。


 雲に遮られた空にまで届きそうな遠吠え、合図だ。


「流石ね原君……、これより!島を救う為、危険物の除去を行います!ブランコさんは黙って足場と壁を維持していて下さい」

「りょ~」

「紅雫さん」

「……はい」


 頭がふわふわする。意識も超能力にも問題は無いが、他人の前でこれ程力を行使する自分に慣れない。

 幼少期の思い出を話しトラウマを捻らせた叶雨は、超能力の使用を控えていた。それこそ使わなくても良いなら、一生使わないでいたいと思っていた。

 この学校を選んだ理由も経緯も本当だ、兄と師の言葉が無ければ叶雨は此処に居ない。


「―――光とは波」


 魔王プレーしてしまった時より慎重に、そして緩やかに上昇する溶岩の海。巨大な獄炎の成長を眺めながら、生徒会長の立ち居振る舞いは落ち着いていた。


「紫外線も可視化出来ない光の一種だから、日焼け止め要らずで助かってるの」

「なにそれ羨ましい」


 生徒会長の銀賦は光の操作、操作範囲の幅によっては紫外線の無力化も出来るのだろう。女としては羨ましい能力である。

 つい口を突いた羨望の言葉に、生徒会長は振り返り微笑む。


「赤外線もそうね、紫外線とは全く違うけれど元は同じ波。波はどんな物質にも備わっていて、別々の固有波振動が在る。振動とは空間の波」

「はあ……」

「なら光を生み出せる私は、全ての物質に干渉出来ると思わない?」


 いや、思わないです。


 暴論に言葉が出ない叶雨は、呆けながらも溶岩の塊を作成する。これだけ時間が経つと、火山活動もほぼ収まってきた。少しばかり零れた溶岩も、会長の前に集まった塊へと合流する。

 両腕を広げ、手には無から現れた光。


 光は雲を突き破り、降臨した。



「光の波よ―――従え」



 視界が真っ白になる。永遠とすら感じた光の奔流は、時間にして一瞬だった。

 光柱に呑まれた溶岩は、余韻も残さず消えたのだ。

 港で多くの人間が恐れ慄き逃げ惑っている災害は、一人の女子高生によってこの世から消滅した。世界のエネルギー法則の根幹を踏み躙る力が、星という巨大な手の平の上を乱す。叶雨は自分の超能力(ちから)を棚に上げ、改めてこの学校の異質さに目を剥いた。


「生徒会長の銀賦は光そのものじゃない、光の波を介し物質に触れる力。ぶっちゃけ意味分かんないよね~?」

「……本当に、全ての物質を操作出来るんですか?」

「さあ?銀賦が万能じゃない事、知らない銀賦使いはいないでしょ」


 何らかの制限がある筈、それはブランコ先輩の予想だ。例えその予想が正しくても、制限が永遠だとは限らない。銀賦と名付けた現象に、現人類が追い付いていないのだ。

 ヴィリアーレ・キャメロンの力は、世界の支配権限を有している。

 その可能性を否定できる者は、世界に一人もいないだろう。


「さて、原君と九重は大丈夫かしら?」












 グチャ、ブチッ!


 後ろで何が起こっているか、原は知っていて携帯に夢中だった。録音情報の保存は勿論、気付いた事実を自分なりに纏め、整理していく。

 データにする危険は承知しているが、自分の頭の中に入れて腐敗しない自信は無い。凡人が上手く生きていく為にも、文明の利器は最大限活用している。


 〔―――ころし、て……ころして……くだ、さい〕


 操作を誤ってデータが一部再生された。後でちゃんとパソコンに転送し、要点だけを集約した状態に編集しなければ。ヴィリアーレ生徒会長は聞かなくても良い部分である。


 クウウゥーン―――。

「終わったか?……んな顔すんな、悪いな不味いモン喰わせて」

 ブルブル、ブルブル―――

「もしもし、ああ終わった。……分かってる、そっちに人手を送るから……あーはいはい」


 口煩い後輩の電話を切り、不可視の獣を撫でる。この牙が何時己に食い込むか、原は子供の頃から考えていた。頼りになる分だけ、恐ろしさが募るのだ。

 恐怖こそ原の銀賦、彼らの存在を世界に映し噛み痕を残す。


 咀嚼する音が止んだ時を見計らって、柏手を打つ。

 元が何であれ、仏には手を合わせるのが作法である。


「ごちそうさまでした」

 ワン!


 原が手を合わせた場所には何も無い。形無き獣の牙は、どんなモノにも届くのだ。

 生臭い死臭は風に流れ、潮風に掻き消されるだろう。






 後日、本土のニュースにまで流れた事件は、〝孤島噴火事件〟と呼ばれるようになった。

 ニュースは一気に全世界へ広まり、数日で影すら消える。唯の少し珍しい事件として扱われ、誰もがその驚きを忘れた。

 しかし本質を理解した者達は、後に事件の呼び方を変えたのだ。


 非現実(ファンタジー)事件。


 銀賦(かがく)未知(ファンタジー)に挑む切っ掛けとなった事件である。




閲覧有難う御座います。

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