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強盗

遅くなってすいません、新作RPGやってました。

 



 廊下の端から隅まで響く足音。嫌な音だ、聞く方に圧迫感を思わせる。

 足は何処かの扉前で止まり、鼓動が外に零れる静寂。第三賦力高等学校の資料室は、例え生徒会長でもおいそれと入れない部屋だ。鍵はあるEIDで一部の教師が()()()()()()()()。他人の頭を覗ける者がいなければ、侵入は不可能な防犯である。


 しかしその足の主―少女は、おもむろに片腕を上げ扉に振り下ろす。三本の長い爪が固い扉を紙のように裂き、部屋に侵入した時には元の長さに戻っていた。


 資料室は床と融合した棚に、まとめられた冊子が正しい順序で並んでいた。

 鉱石の異常な発見と研究の連続で急進化した化学。それでも情報の転写に紙媒体が用いられるのは、管理と秘匿のし易さ故だろう。電子の文字を何時何処からどうやって探られるか分からない状態より、一カ所に集中保管し侵入方法を自由に決められる方が良い。

 少女は棚の間を通り、更に奥の部屋の扉を全く同じ方法で破壊した。天井の灯りが赤く点滅し、危険な状況だと視覚に訴える。だがその叫びに気付いたのは破壊の主犯だけ、本来なら鳴っている警告音は抗う様子も無く沈黙していた。

 強固だった扉を二枚潜った先、数ミリで神経を犯す毒の空間。無味無臭で透明な罠は、少女の動きを妨げる力を発揮しない。防犯を設計した者がこの場に居れば、卒倒していただろう結果だ。

 毒の中に置かれている正方形の石は壁と融合していて、体内に隠された資料を屋外に出さない姿勢である。少女の体積を優に超える複数の石、その一つに迷いなく近づいた。一本だけ伸びた爪が石と壁の接着部を裂けば、石は床を割りながら簡単に壁を離れる。


 ブー―――ブー―――


 ポケットで携帯が震えた。何かの合図なのか、緩慢だった動きに僅かな焦りが生まれる。両手を広げても挟めない大きさの石に、爪を刺し指一本で持ち上げた。非常灯の赤い点滅に目も細めず、自分の部屋のように自然な足取りで退出する。

 学校史上最悪の強盗事件は、島史上最悪の災害の裏でひっそりと初まり、三分と待たず終わった。




 学校が資料室の異常に気付き、盗られた中身を知った時、職員が一体感を持って首を傾げた。資料室の最重要管理物として扱われていた中では、最も価値が低い資料だったからだ。

『国立第三賦力高等学校所属生徒銀賦記録表』。

 今年度入学した生徒の確認されている銀賦を含めた、第三学校の生徒の賦力早見表だ。個人の色が強い銀賦は、その有用性も貴重性も測りにくい。閲覧する人間の価値観で、重要の意味が大きく変わる。勿論賦力学校にとっては生徒の個人情報に当たるので、かなり気を付けなければいけない情報だ。

 しかしこの情報はある程度賦力関係の資格を持つ者なら、簡単な情報を学校に申請し入手可能である。全ての情報を閲覧できる訳ではないが、命の危険も在り得る防犯設備を掻い潜って手に入れる情報としては利用価値が低いと、職員の誰もが考えていた。


 そして奪われた情報よりもそのタイミングに目が向くのは自然な流れである。

 盗人が資料室に侵入したと思われる時間帯、学校はもぬけの殻だった。溶岩が地面に叩き付けられ、予想以上の広がりで島を攻撃していた頃である。噴火が人為的な方法で起こった可能性が有ると知れば、誰もが災害誘発者と強盗犯との共謀に疑いを向けるだろう。

 島の危機という状況で、誰も強盗の危険を予知できなかった事実は、噴火と同等の衝撃を賦力界に伝えたのだ。


 何かが起きている、輪郭すら覚束ない敵が居る。

 無知とは多くの人間の〝恐怖〟なのだ。












 遠く、どこか遠くで、何かが壊される音を聞いた気がした。

 聴覚の復活を自覚した叶雨は、意識を揺り起こす為呼吸を深くする。横たわった体を支えるのは地面ではない。曇り空しか見えない高度で、耳が仕事をしてくれた。


「―――では本当に、紅雫叶雨暴走の原因に心当たりはないんだな?」

「死んだ曾爺さんに誓って!やっぱその時の周囲の状況になんか……過去のトラウマみたいなものがあったんですよ!」

「少し安易な連想だが、他に検証出来る材料も無いか。よし、紅雫が超能力を発動させた時刻の状況を出来るだけ詳細に―――」



「――――――お菓子の、パッケージですよ……」



「説め、い……起きたのか!?体に異常は無いか、頭に痛みや違和感は有るか?」

「もうビックリしたよ~!いきなり魔王みたいな顔すんだもん!」

「魔王は、言い過ぎ……」


 手首を握られ、恐らく診察されている。起き抜けの虚脱感が残っているが、痛みも違和感も無かった。

 正直に告げると近嵐の無表情から、気のせいかと思う程度の硬さが消える。

 心配したのか分からない感想を述べたブランコが、叶雨の覚醒後第一声を掘り返した。


「あれ?ていうか、お菓子って……あのお菓子?僕が出したお菓子?あれがどしたの?」


 上体を起こすと、寝ていたのは相変わらずブランコが作った足場の上らしい。暴走して落下してからまた戻ったブランコの手の平は、噴火口を観察出来る場所を陣取ったままだ。


「プレート・ブランコ、貴様また人体に変化をもたらす飲食物を仕舞い込んでいたな!」

「え~!?言い掛かりですよ!今は心を入れ替えて、ちゃんとNILEN(ナイルン)で購入できる一般の菓子類しか買ってません!」


 凄く危険な話しを聞いてしまったが、今は置いておき弁明する。


「いや、あの……お菓子の中身じゃなくて、袋の絵ですよ。えっと、蛇のデザインのやつ……」


 二人の全く話しに付いて行けない表情は、平常時なら笑い話になっていただろう。しかし今は溶岩の熱気に関係無く、羞恥で顔が燃えるように熱かった。意地で熱を飲み込み、吸収されたそれを言葉に変換する。


「だから、蛇が―――怖かったんだよ悪いか!!!?」


「……蛇の、絵がか?」

「蛇なら何でも怖いんだよ!!絵だろうが本物だろうが写真だろうがぬいぐるみだろうがあ!!」

「人形も駄目なんだ……」

「心の準備をさせろよ!!そしたら数秒ぐらい直視出来るよ!?しかし十秒以内に視界から消えてくれ!あまりにも前準備もなく見ちゃったからあ!?久しぶりで!?ちょっとアレしちゃったじゃんかビックリした先輩こんちくしょおおお!!!」

「えっと、なんか……ごめん」

「誰にだって怖い物の一つ二つあるでしょ!?生理的に無理みたいな!幼稚園で昼寝してたら目が覚めて目の前にガチの蛇とかトラウマあるでしょだれだってえ!!?」

「だが超能力が暴発する程のトラウマなのか、それは」

「ゴキブリ見たら殺虫剤撒くのと一緒だろ!?溶岩上げて落としたのは申し訳ないとは思ってますごめんなさいけど駄目なもんはだめなんだよおおお!!!」

「あ、ホントだ。ちょっとリアルな蛇が菓子袋にプリントされてる、知らなかった」

「ぎゃああああああ!!!???」

「げふっ!」


 胸ポケットから問題の蛇がプリントされたお菓子を取り出すブランコ、一瞬で叶雨の拳が顔面に飛んだ。今回は足場だけでなく壁も銀賦で作っていたらしい。叶雨の落下が教訓になったのか、第二の転落事件は起きなかった。

 殴られた顔面と転がって見えない銀賦の壁に強打した後頭部をさすり、ブランコは珍しくにやけ面以外の表情を作る。真実の発見は望んだ展開ではあるが、想像を上回る幼稚な理由で災害が散布された現実に、複雑な顔と第二次災害犯人の顔が突き合わされた。


「とりあえずブランコは、二度とその菓子を購入するな」

「え~?流石に横暴じゃ―――」

「次視界に入ったら殺虫剤直接吹き掛けてこの世から抹消します」

「待って。蛇の絵に殺虫剤っておかしくない?何を吹き掛けるの、それホントに殺虫剤、それとも殺虫剤的別物?」

「後で大抵の無機物を無力化、或いは融解させる薬品を渡すので殺虫剤は止めろ」

「教授権限と頭脳で、殺虫剤より恐ろしい物サラッと渡さないで下さいよ~!僕も一緒に死んじゃう」


 慣れてきた透明の部屋、思い思いの態勢で座る叶雨達。振り返れば災害の被害範囲が良く見えた。


「学校がまだ無事って事は、そんなに気絶してなかったのか」

「二分から三分程度だ。しかしあの騒ぎで、犯人らしき影が上空から消えた」


 雲に触れる高度まで飛んでいた、人工災害事件第一容疑者は叶雨達の頭上から居なくなっている。災害の対応が最優先とはいえ、犯人を取り逃がす事は今後を想えばかなりの痛手だろう。きっかけが己の暴走だという自覚がある分、叶雨の胸は痛んだ。


「けどこれからどうしよ~?溶岩の出は落ち着いてきたけど、島の更地は回避不可能っぽい」


 火口を覗くと、溶岩は噴水から水漏れ程度まで弱くなっていた。犯人確保の目処が立たない現状、罪を償うチャンスが有るとすれば災害への対処だけだろう。

 事態の悪化を誘発した罪悪感で、嫌々ながらも叶雨は手を挙げた。手段はある。


「あー……、さっきの暴走で感覚掴めたので、多分溶岩退けられます」

「本当か?それは先程の規模と同等の出力で目下の障害を排除可能だと?念動力の出力が増強されたのか?トラウマを刺激された精神的衝撃に感化されたのか?精神が念動力に関係しているなら未成熟期の念動力はどうだったんだ?もしや操作が不完全な時期の出力は今以上だったのか?トラウマと対面する度に変動は起きていたのか?操作力向上の為に行っていた実験中に同じ事が起こったか?精神への負担で何処まで念動力に影響が―――」

「近い!長い!圧が、強い!質問が多くて近い!ちょっ!?先輩ヘルプ!」


 近嵐の白衣を掴み、白紙が挟まったバインダーを渡すブランコ。暴走を止め行き場も用意する手腕は、年季が違っていた。

 疑問をひたすら己にしか読めない字で書き殴る近嵐。止まらない教授の好奇心は置いておき、話しを先に進める。


「溶岩浮かせた後何処に落とすかも問題ですが……、犯人は逃げたと思いますか?」

「半々かな~?目的が攻撃だとして、()()攻撃したかったかが分っかんないし。それが達成されたのならお家に帰ってるだろうし……、まだなら何処かに居るんじゃない?」

「―――まだ目的が達成されていない、その可能性が高いでしょうね」


 どう成長しても叶雨には出せないだろう美声が、ブランコとの会話に割って入って来た。振り返れば上空百何メートルに居る叶雨達と、同じ高さで目を合わせる光が二つ。

 金髪美女、生徒会長は入学式でも見せた光を船の形に生成、己ともう一人を乗せて立っていた。会長の背後に居る男は柄が良くない格好に似合わない眼鏡、そして社会に揉まれたサラリーマンのような表情である。

 忘れそうだが、銀賦を扱う者にとって空中での自由行動の確立は、ある種のボーダーラインだ。

 例え常軌を逸脱する手段だとしても、銀賦は決して万能ではない。空中という日常と一線を越える世界での権利、それを得たいと望み得られる者は数少ないのだ。

 空への進出は多くの銀賦使いの理想の一つ。

 それを容易く行使するただの学生が、叶雨の前に二人いる。世界が彼らにひれ伏しているようだった。


「久し振りメロンちゃ~ん。大忙しの生徒会長様が、こんなとこまで来ちゃって良いの~?」

「その呼び方は止めてと、散々申し上げましたわ。ええ忙しいのです、だからこそ有能な人材を放置できる状況ではなくなったのです。避難の再開問題の解決犯人の確保、生徒会だけでは対処が困難だと私と、副会長は判断しました」


 ブランコの付けただろうあだ名に、目線は会長の胸に行く。大きい。副会長らしい背後の男も、視線を会長の胸部に向け直ぐに逸らした。男子高校生の反応に場違いな安心感を覚える。

 協力を要請する会長の後ろで、静かにしている副会長。意識を明後日に飛ばしていると思ったが、寄り添う不透明な存在が耳元で囁いていた。念動力を放ち、存在の輪郭を捉える。間違いなく叶雨達を監視していたあの犬だろう。犬の主は副会長だった。

 生徒の居場所を把握している副会長、応用力を活かした多機能を発揮する会長。この二人に未だ底を見せないブランコの力を組み合わせれば、現状の解決に大きな一歩を踏めるかもしれない。


「一年一組、紅雫叶雨さん」

「……へ?あっはい!」

「貴方のお力も貸していただけないでしょうか?近嵐先生、研究も結構ですが教師の責務をお忘れにならないで下さいな」

「あんなんでも話しは聞こえてるから、作戦に入れてもいいと思うよ?あとウチの後輩ちゃん、勝手に誘わないでよ~」


 有能な人材、その単語に叶雨が当て嵌まっているとは露にも考えなかった。コバルトブルーの大きい瞳で見つめられては、首を縦に振らざる負えない。一気に三人の協力者を得た会長の表情は、勝利を確信していた。

 傍からは全く聞いてない、文字を書き殴っている近嵐。副会長が眼鏡を取り払い、目頭を押さえる。


「あー、犯人を見付けた。港へ向かっている」

「あら?上空からの逃亡が最も安全かと思いましたが……、では担当を決めましょう。此処に居る私達が、島を救うのです!」


 大袈裟な挙動で注目を奪い、いっそ清々しいベタな言葉で叶雨達を誘導する。

 正義は此方に在ると謳い、悪の断罪を是とする宣言。同調するように、島のあらゆる処から犬の遠吠えが聞こえた。




閲覧有難う御座いました。

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