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暴走

お久し振りです、遅くなってすいません。

 



 空は昼時と分からない程薄暗く、皮膚に湿り気を与えていた。


「会長!!街への避難勧告は終了しましたが、船が不足していて完全な避難は困難です!」

「航空機を手配しなさい!旅客機でも戦闘機でも構いません!賦力士に非常措置を要請し、あらゆる手段で島外へ!第三学校代表として教師を一人同行させなさい!」

「会長もっと下がってください!この場も安全ではありません!」

「溶岩流は未だ時速三㎞で発生中!三年生有志による障害物も効果は低いと思われます!」


 山の半分を超えて広がる、灼熱の海が良く見える場所。急遽整えられた平地で、生徒会と数人の教師が避難監督に身を削っていた。

 事は前日から危惧されていた予想の一つ。可笑しな話しだが地震は目前の山に限られており、津波の心配は序盤から低く見積もられていた。班ごとに配置された監視で、()()()()()()()()()()()()。夜を徹して探したが見付からず、最悪の事態を起こさせてしまった。


 幾度と繰り返された地底への故意の振動、結果、溶岩が火口より噴出された。


 火山としては殆ど死んだ山である、誰もその危険を考えていなかったのだ。登山行事の監督役に呼ばれていない近嵐先生の助言が無ければ、対応は致命的に遅れていたかもしれない。彼の雑な助言は教師陣にも衝撃を走らせた。


「俺は教師としての役割を全うしているだけだ」


 締めくくった近嵐先生は校舎に戻ったきり、行方を把握していない。仮にも一時期賦力界を騒がせた男、避難を伝える必要は無いと判断した。この場にそれを行える余裕の人間が居ない事が、最も大きい理由なのだが。


 集中して銀賦を使っている者達の前に、巨大な剣が地鳴りとなって突き刺さった。溶岩が接近しても逃げられるだろう、本当にギリギリの位置だ。壁となり最終生命線となった剣は誰の力か、悩む時間は瞬きの間も無かった。

 島の危機に悠然と佇む鐘ヶ島先生は、張り詰めていた生徒会生徒の心を強く解きほぐす。数名の一般教師も、青白かった顔色に血の気が戻った。

 冷静に行動の真意を考えていたヴィリアーレ生徒会長の肩を、優しく叩く手が一つ。


「大丈夫だ、誰も死んでない」


 副会長の原は生徒の避難状況を監視しながら、ヴィリアーレの緊張を読み取った。生徒の命を守る立場のヴィリアーレも、本来なら大人の庇護の下この場を離れているべき人間だ。しかし強者である故の責任で足を止め、細い肩に想像もつかない重圧を乗せている。

 後輩の命も島民の生活も強者の誇りも、高校生でありながらEID運用資格三級を取得した事実が、ヴィリアーレを危険から逃がさない枷となっているのだ。

 一瞬の気の緩みも銀賦に伝えず、鋼の精神で避難誘導するヴィリアーレ。未成年の少女が隠す心の隙間を、原だけが気付き支えてくれる。その絆だけでヴィリアーレは涙を忘れられた。


「―――原君、状況を口頭で」

「現在危険領域に逃げ遅れた生徒はいない、例外を除き山中からの避難は完全に終了した。溶岩は後二十分もすれば山を潰す。速度が変わらず流れが続くようなら、一・二時間後には校舎まで飲み込むだろうな。愉楽狂はほっとこうぜ」

「あれでもメンバー候補よ、大丈夫かもしれないけど監視は必要だわ。校舎内を最終確認後、この場の撤退を開始する。九重」

「はい、会長!」


 いつの間に居たのか、視界の端から眼鏡の少女が現れた。バインダー片手に瞬間移動してきた少女は原を一睨みすると、ヴィリアーレの言葉を静かに待つ。


「港の指揮を頼むわ、第三高校として恥ずかしくない対応をしなさい」

「港の指揮、確と拝命しました」


 一切の未練を匂わせず踵を返す動きは、熟練の忠犬だ。主人からの命令に意見も疑いも持たない姿勢は、頼もしくもあり不安でもあった。能力に不足はないので、現時点での問題にはならないだろう。

 原は校舎を見回りながら、迫る赤い海に体を力ませた。大丈夫だと分かっていても、あの炎は肉眼で視える自然の代表的脅威だ。何も感じない者はいない。

 盾となって突き刺さる巨大な剣に、溶岩が近付く。肌が泡立つ緊張を裂いたのは、原にしか聞こえない遠吠えだった。


「え?」


 内容は到底信じ難いものだ。すっきょんとうな声を出した原を見るヴィリアーレに伝えるか、検討して否と言いたい程である。報告が現在の最優先行動であると考え直しても、口が迷う。その迷いで事態の変動に出遅れた。


「な―――!?」


 登山日和とは程遠い、暗く重い曇り空。まるで分厚い無限の雲が生きているように、溶岩が空へと昇っていた。雲に吸われている溶岩は三つの柱を形成し、大きな球体と成っていく。太陽が出来る過程を目にしている現実に、頭が狂ったのかと思った。

 アレが落ちればどうなるか、アレが消えればどうなるか。

 最悪と最高を並行して想像する思考は、精神の防衛本能に似ている。常識など当に壊れたと思っていた。


「……原君、あれは……」

「……分からん。でもあれは……()()()()()()()()()()()……!」


 外気に晒されていた溶岩は太陽と成り、熱と光を地上に与えた。本物の太陽なら宇宙に帰ってくれると助かるが、太陽の作成者はどうするのか聞くに聞けない。生徒会と言えど生徒全員の携帯番号は知らず、同学年という理由だけであの愉楽狂(ドラッグマン)の携帯番号も知っている事にはならないのだ。死に一番近い特等席で事態を把握している男に電話して、詳細を尋ねられないのである。

 巨大な剣の最終防衛ラインを形成していた鐘ヶ島も、立ち尽くすしかない。自分達が止めなければならない災害が、形を変え謎の恐怖と化している。

 呆然と部外者の気持ちで眺めるしかない不甲斐無さ。爪が手の平に食い込む刺激を感じないでいると、事態は更に訳が分からなくなった。


 太陽は前触れなく崩壊し、地面に叩き付けられた溶岩の一部が此方にまで飛散する。












 数分前、火口が見下ろせる上空で呑気にお菓子を食べている第三の生徒。プレート・ブランコはやはり見えない椅子に座り、事態を俯瞰し続けていた。

 火山見学の片手間に説明されたブランコ先輩の銀賦、〝cinema consertar〟。意味はよく分からないが、自分が安全に物事を鑑賞する為の空間を作るらしい。銀賦は自身の思い入れと思い込みが核となる技術だが、ここまで趣味に走っている銀賦も凄いと思う。

 危険を見物する先輩を止めようとついてきた叶雨は、先輩の奇行に我慢の限界が近い。


「あの」

「ん~?」

「何時まで此処に?」

「事態が収拾されたと僕が分かるまで」

「それって噴火が止まるまでですか?避難終了するまでですか?犯人が捕まる―――」

「ああ!鐘ヶ島剣きた~!知ってる?あれ無形剣(むぎょうけん)っていうんだよ!」


 この先輩は恐らく自分が満足いくまで、観察を止めない。噴火がどうとか避難がどうではない、好奇心が途切れない限りブランコは誰の言葉も聞く気が無いのだ。

 大丈夫そうなのでとても置いていきたいが、まだ犬が監視をしている。此処から自力で帰ろうと思ったら、叶雨は超能力を使うしかない。身体能力強化に見せるよう誤魔化しても、近嵐の例もある、あまり使いたくなかった。


「先輩、先に避難したいので足場を作ってもらっていいですか?」

「え~何で!?こんな安全な場所他に無いよ!あっ!もしかしてお腹空いた?お菓子有るよお~」


 安全は多少信用するが、他人の掌の上に命を置いている感覚はあまり長く続けたくない。

 命を保証している先輩はどこ吹く風で、制服の胸ポケットから明らかに容量を超過している菓子が、次々と零れている。外国のお菓子が多いが、そこはパッケージの工夫。色やデザインで中身が大体分かった。熊とも兎とも判別不能なキャラクターがバーベキューしている絵や、果物が弾けている写真等。

 またスナック菓子の袋が落ちる。赤い背景に悲鳴を上げている女性の姿、恐怖を与える者は―――




「――――――ぁ」




 頭が理解し終わるより数秒早く、叶雨は意識を混濁させた。辛うじて自重を支える足が崩れる寸前の状態に、超能力が本能で体を持ち上げる。無意識と激情を残して何も無い肉体が、理性という枷から放たれた力を遺憾なく発揮した。

 山を覆っていた溶岩が透明な管を通って、空中に集まり初めたのだ。さながら太陽の創成を見せられているようだった。しかし思考も消えていた叶雨には、そんな些末事視界にも入らない。


「え、マグマが……何で……」


 熱は皮膚に浮かぶ汗を干上がらせるまで高まり、深い橙色の光がブランコの視線を焼く。状況が悪化し、ようやく叶雨の異変に目が向いた。全身から立ち昇る陽炎は鈍い赤。熱も何も無いその圧迫感に、内臓がすり減っていく。


 ユラリと揺れる頭部の影、奥で灯る紅い眼光が宙に軌跡を描いた。


「…………まえ」

「……へ?」



「その不愉快な物を仕舞えと言った、―――死にたいのか?」



 死神の鎌が人の形として出現したと錯覚した。徐々に広がる紅の力は、数秒後に溢れるブランコの血潮かもしれない。振り向かなくてもブランコは分かった。戸惑いがマグマの太陽を引き寄せ、不動が己の命と同価だと。

 叶雨の急変を考察する時ではない。原因の特定は不明だがタイミングから考え、直ぐに散らばった菓子の類をポケットに戻す。

 太陽が山を上回る大きさになった時、菓子類は全て叶雨の視界から消えていた。


「は……」


 気の抜けた吐息が口から飛び出し、抗えない虚脱感に意識の底まで侵食される。粘りを持った黒い感情が神経に纏わりつき、電気信号を微塵も通さない体となった。

 初めから無かったように紅い力、超能力が叶雨から離れて消える。何が自身をそこまで駆り立てたか、原因は分かっていた。言葉にしたかったがこの体たらく、瞼の筋肉すら弛緩している。

 頭から重力に従い落下する肉体、数瞬後の死すら受け入れる余裕が無かった。


 落ちていく、落ちていく、落ちていく、落ちていく―――。


 暗転の直前まで生きていた僅かな神経が、重力に反発した感覚を記憶する。その熱はマグマのソレと違い、人肌のようだった。




閲覧有難う御座いました。

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