部活動
「この数日で把握した能力を伝えよう」
新発見部部室から廃棄物が完全に除去され、少ない女子力を駆使して整理された。幾つか他の部活で使えそうな物を寄付すると、代わりにまだ使えそうな物を貰った。特に美術精巧部からは妙な拘りが映える木工の机を貰い、美術大型部からは大きな電灯を貰う流れに。
この学校、賦力活用を前提とした部活が多く変な名前が多々ある。新発見部もそうだが、浪漫部とか活動内容も分からない。分かりたくない。
こうして細々とした不一致は有るが、部室内は整ったと言えるレベルまで整頓されたのだ。パンチングマシーンは廃棄処分となった。力富だけが残念がっていた。
脚先まで細工された立派な机を囲むのは、叶雨が入部した新発見部所属の男三名。
襟足が気になりだした銀髪イケメンのクラスメイトで同じ新発見部新入部員、力富・シルヴァー。悪ぶった子供口調が玉に瑕だが、人当たりの良い人気者である。最近異性とのトラブルで死に掛けた。
肉感が圧倒的に足りない細身で、絹の如き金茶の髪を束ねる三年生のプレート・ブランコ先輩。高い鼻が外国の血を感じさせ、薄い体に収まらない血沸き溢れる気配をばら撒いている。好印象はにやけ面で三秒と保たれない。
片耳イヤホンのマイクに独り言を吸い込まれる不衛生な天才、新発見部をほぼ公認私物化させている顧問の近嵐未尋。肩まで伸びたパサつく黒髪を放置し、興味の矛先に全生命力を注ぐ成人間近な問題教員である。不安だが、叶雨の力を研究してくれている協力者だ。
見事に我の強い男ばかりだが、此処が叶雨の目的を果たす足掛けである。
相変わらず容姿を眼中に止めない近嵐が、手に持つ資料をめくる。そこにはここ数日で叶雨が使った力の実験と結果が、近嵐にしか読めないような雑な並びで書かれていた。
「まずは念動力。これは仮名であり正式名称の固定は実験を繰り返し、その効力と原理を正しく理解してから―――」
「はいはい、で?」
「手を触れずに物を動かす力。現時点での効果範囲は視覚に直結していて、肉眼で捉えている物になら力を伝えられる。念動力そのものに神経との繋がりは無く、意識していない物に力が及ぶ事は無い。逆に存在を把握していれば真後ろに有る物にでも、見ないまま念動力を行使可能だ。瞬間最大ワットは八十前後、ガソリンでも飲まないとエネルギー循環が説明できない」
「飲んでないよ」
「では光合成でもしているのか?寿命の前借が無意識に行われているなら、脳の負担は恐ろしいことになっているぞ」
「あのー。ようするに、紅の念動力の源が分からないって話しか?」
「まだ実験は終了していない!安易に不明と断ずるのは早計だ!」
「すんません……」
超能力と仮称する力を知る程に、疑問が増えていく。近嵐教授の知識欲は消えないが、薬物投与も解体も駄目と言われ思う所があるのだろう。誰にも聞こえない独り言を呟きながら、内容を手元の資料の空きスペースに書き殴る。耳に着けているイヤホンマイクから音が拾われ、同じ内容がパソコンに入力されている事を忘れていた。
書き終わって机から零れた資料を、ブランコが拾い丁寧に重ねて置いた。実験結果発表が途中で止まり、部活開始数分で手持ち無沙汰になる。
「力富・シルヴァー君居ますか失礼します!!!」
細長いお洒落なグラスでメロンソーダを飲んでいた力富が、突然の名指し攻撃に吹いた。グラスは異力を炎に変換する火炎放射器と交換で、熱血永焼部から貰った物だ。どんな部活かは叶雨もよく分からない。色んな食器を貰い、お茶を用意するブランコが一番喜んでいた。
元気よく早口で扉を開いたのは、見覚えのあるふわふわ茶髪美少女である。細かく言えば同じクラスで力富にガチ惚れのあまり、異性の友達というだけで叶雨に敵意丸出しで、暴走が行くとこまで行って力富まで殺し掛けた、八色蜜葉という女子力激高美少女だ。
「ゲホッゲホっ!?……は、八色!?何でここに……?」
「絶対仕留めるって言ったもの!部活入ったって聞いたから私も入る!」
「いや、ちょっと違う、そうじゃない!そもそも監視処分期間じゃ!?」
「カラカラが面倒だから観察処分にして、今度の中間テスト上位に入れば解放するって言った!」
「テキトーかよあの担任!?」
大人として枯れている一年一組担任教師空武式は、国語担当の大分だらしない人だ。長く喋るのが怠いらしく、酷いと授業内容をプリントで渡し自習にする。身長が百九十あるので猫背が目立ち、生命力を枯れさせている教師に生徒が着けたあだ名がカラカラ。若者の怖いもの知らずは恐ろしい。
前回の事件を起こした表の犯人は八色でその担任が空武式、罰則を与え無事学生生活に復帰させる役目は担任の責である。それが凄く簡単に済まされようとしている、被害者からすれば複雑だった。
まだ紙とパソコンに独り言記入している近嵐を、八色が見つける。
「うわ、また不潔教師……。この部活に入れて下さい!」
「うるさい」
「ありがとうございます!これからは部活でもよろしく力富!」
「言ってない!良いとも、駄目とも、言ってない!会話をしろ!」
何も聞いてない顧問の近嵐に、聞いた気になっている八色。修正しようと声を張る力富、面白そうに見物するブランコ。どこから割って入れば部活動出来るのだろう。
実は正式な部活動を知らない事実を忘れ、とりあえず開けっ放しの扉を閉めに立つ。
「ひぅ……!?」
廊下になんか居た。
新しい登場人物に、話しを巻き戻すきっかけを得た。八色と並べてみると、可哀そうな位怯えている。正反対の美少女二人に、叶雨は顔面偏差値が爆上がりの新発見部退部を検討した。
「えーと……どちらさん?」
「ごめんなさい……!」
「え、なにが?」
「こいつあれじゃん!ウチのクラスの女子!」
「マジか、どちらさんとか言って悪い!」
「いえ、あの……私みたいな根暗が来てすいません」
「謝ったら謝り返された!?」
「ひっ!?すみません!」
「ちょっとさっきから謝ってばっかりじゃない!しつこいんだけど!」
「す、すみま、ひいいい!?……ごめんなさい……!」
八色だけの時とは種類の違う停滞状況に、頭が冷やされていった。涙目で震える黒髪黒目美少女は確かに叶雨達と同じクラスだが、名前は憶えていない。しかし顔は憶えていた。
入学式の日に行われた最終試験、教室に戻って来た途端崩れ落ちた少女だ。濡れ羽色の腰まである長い黒髪に庇護欲を誘う大きな瞳、性格さえもう少し明るければ学年一位を取れる可愛さだろう。
怖がりな気質が話しを進ませないなら、少々強引に本題を引き上げるまで。
血の気が引いてきた少女の肩に手を乗せると、目敏い近嵐が観察眼を光らせた。
「大丈夫?」
「はい!えっと、ごめんなさい……」
「落ち着いて、二人は怒ってないよ。怒ってるように見えるかもしれないけど、ちょっと目つきが悪くて嫉妬深いだけだから」
「俺の目つきは悪く……ねえよな?」
「嫉妬なんてしてないし!力富の目はワイルドって言うの!」
「なにその微妙なフォロー」
「ちゃんと話すの初めてだね?私は紅雫叶雨、よろしく。名前聞いていい?」
「あの……神代、雅です……よろしくお願いします」
「新発見部に来たのは何か、相談事がある、とか?」
「!?」
「新発見部ってなによ?」
「おま!?部活の名前すら知らずに入りたいとか言ったのかよ!?」
力富と八色がツッコミとボケで仲を深めている。あんな事があったのにそれを欠片も匂わせない態度は、力富の人の好さの表れだろう。叶雨はそこまで人間出来ていない。
部活内容を説明する力富から離れ、一対一を意識した場所に椅子を置く。冷えた手に触れ体温を移すように寄り添う。無意識だろう、神代の口から細長い空気が出た。
「力になれるかは分からないけど、聞かせて」
「……わ、私……」
「うん」
抑えきれない涙が零れる、頭を下げていて叶雨以外は誰も気付かなかった。
「……入学、最終試験……合格で……出来ないん、です……!」
嗚咽が漏れる神代の悲しみが、とても綺麗だった。
泣いてる姿が美しいとかではない、そうだけどそうじゃない。手に触れその純粋な心を読んでいると、ある存在が神代を守っていると知った。それは抱き締める様に背後から神代を包み、外からの害悪を近付けない。
目が慣れてくるとソレは陽光で形を成し、神代を守る為に存在した。
まるで守護霊、否、守護神だった。本人が知っているかは分からない。
「試験で、石……を変えられなくて。中間までに、やれ、て……」
人によって心を読みにくい者が居る。常に感情の抑制を心掛け、平常を保つ者の心は読みにくい。しかし神代は心配になる程明け透けだ。妙な気が起こる余地も無く、退学になるかもしれない憂いは自身により他人に傾いていた。
折角学校に入れてくれた家族への申し訳なさ、応援してくれた幼馴染にも同等の罪悪感を抱いている。歯を軋ませ力の使用を止めた。
つまり神代は入学試験で出された課題、鉱石の変形に失敗したのだ。そして言い渡された中間までの猶予で何とかしたかったが、期間が迫り自力での解決は困難だと判断。教師にアドバイスを聞くのは怒られそうなので、助けてくれそうな人を探していると部活勧誘ポスターを見付けたそうだ。
「新発見部のポスターって、ブランコ先輩が作ったんですか?」
「うん。新たな世界が開けますよ~、てね!」
「宗教の勧誘みたいですね」
今のままでは駄目だと考えた神代は、藁にも宗教にも縋る思いでその部活に直撃。しようとしたら同じクラスの八色が勢いよく突っ込んで行ったので、タイミングを逃したらしい。廊下で帰ろうか悩んでいる所、叶雨と目が合ってしまったそうだ。
「試験用の石って、ようするに銀賦使う時頭から出る異力。あるじゃん?それを少しでも意識して使った波みたいなのが有れば、まぁ~なんとかなるよ」
「……なる、ほど」
ブランコの真剣か適当か分かりにくいアドバイスは、参考にならない。希望の眼差しで見られても、叶雨は超能力で石を砕いたので不可だ。
「こう、ぐわあああ!と体の奥から気合を捻りだす!」
「ぐわあ、あ?」
「才能無いから出来なかったんでしょ、頑張る意味無くない?」
「うっ!」
力富は効果音で八色に至っては止め刺してる。役に立たない奴ばかりで申し訳ない。
「……その棚に試験で使用する物と同じ鉱石がある、やってみろ」
全ての資料に落書、メモを終えた近嵐がぼやいた。独り言の延長に聞こえたが、ブランコは素早く応じる。硝子扉付きの棚引き出しから、授業でも見た正方形の石が出てきた。
一気に青白くなったが、震える手で石を受け取る。腹を据えて石に向かう神代を、叶雨達は見守った。
五分後、神代は泣いた。
「わた!私……さいのー、ないんだあああ!」
「落ち着けよ神代!精神状態は重要だ、もっかい深呼吸してから試そうぜ!」
「力富見てみて!この色良くない?」
「八色ちゃん銀賦出来ない子の隣で、銀賦のマニキュア見せびらかすとか鬼畜~」
哀楽が入り乱れる空間に耐え切れず、車輪付きの椅子で後方に滑った。すると小声が聞き取れる距離まで、近嵐が顔を寄せる。
「今度は超能力で冷静にさせないのか?さっき肩に触れた時していただろう」
「……あんまりサイコメトリーし過ぎると自分と他人の境界線があやふやになって、普段は乱発しません」
「では何故今回は使った?」
教員とは思えぬ相手なので、戸惑いに詰めた息を吐く。
「……心が無防備だったり感情が激しい人間に触ると、勝手にその人の記憶が視えるんです。偶に」
「ほう、精神感応系の超能力は操作が不安定なのか。人間にのみ反応するなら、練習が難しい分野ではあるな……」
「最終入学試験が終わった神代さんに触れた時、無意識だけど、カンニングみたいに記憶が読めちゃって。わざとじゃないけど、少し借りがあるから」
「勝手にして、勝手に恩返しか。律儀というより、損な性格だ。いつか変な奴に付け込まれるぞ」
「気を付けます。それより、私は神代さんに協力したいので、終わるまで実験は無しです」
「なんだその理屈は、それは横暴が過ぎるぞ!」
至近からの抗議に耳を塞ぐ。力富達の視線が此方に固定されていると気付き、気持ち近嵐と距離を取る。爪を鮮やかにした恋真っ盛りの少女は、玩具を前にした子供のように笑った。
「なによ~、男いるならそう言ってよ!」
「いない。そもそも言ったら喧嘩吹っ掛けるの止めた?」
「吹っ掛けてないし!けど男の趣味悪いはあんた……」
近嵐の容姿を再検査する八色は、目の色に変化を持たせじりじりと寄っていく。
異性が内緒話ししてたら色恋を連想させる八色に、悩んでた自分が馬鹿だと思った。己の世界を作れと勧める学校に入ったのだ、そんな場所で発生する青春パワーが先日の騒動を引き起こした。被害が無かった結果を認め、器を育てる試練だったと受け入れよう。
にじり寄る美少女に、近嵐は眉間を深くするだけ。
「……なんだ、後誰だ」
「へ?いやさっき喋って……なかったね、そういえば。会話はしてなかったね」
「分かった!私の入部最初の活動!」
「あ……もう入部したんだ、八色の中では……」
授業で片鱗を見せ騒動で完全に覚醒した八色は、試験用の鉱石で銀賦を生造する。その速さと自然な動作は、素人の枠を逸脱していた。手には美容室で目にする、髪切り用の鋏だ。これを反絶力場内で使われていたら、叶雨も力富も此処に居なかったかもしれない。
嫌な妄想をした叶雨を他所に、楽しそうな顔で八色が近嵐を指さした。
「私の技術力を駆使して、この不潔教師をイケメン教師にしてやる!」
放置された神代が白くなっている。
少し待ってほしい、この茶番が済んだらまた相談に乗るから。
閲覧有難う御座いました。




