三十二
『おや、思ったよりも早かったね』
突然、本を眺めていた黒い少年が声を上げた。
私は首を傾げて問い返す。
「なんのこと?」
『参が覚醒するかもしれないってことだよ』
「ああ、じゃあ私はやっと死ねるのね」
私はホッと溜め息を吐く。
ようやく、私と彼はこの世の束縛から解き放たれるらしい。
『死ねると言っても、君達は覚醒した参に摂りこまれる形で世界に存在することになると思うけどね』
「でも、私の役目はもう終わりでしょう?」
『さてね……』
全身を真っ黒な服で包み込んだ、色白の少年は首を振りながら言う。
しかし、それに続く言葉が語られることは無かった。
「終わらないの?」
『君の役目はもう既に終わっているかもしれない。まだ終わっていないかもしれない。それを決めるのは僕じゃなくて覚醒した参だから』
「あなたにもわからないことがあるのね」
『さて……どうかな』
「私はいつまで経ってもあなたのことがわからないけどね」
そう区切りをつけて、私は上を向く。
相変わらず真っ白な天井だった。
「……気付かないうちに、私は彼の能力を借りてたのよね」
『むしろ、彼が目覚める前の君が一番覚醒した参に近いのかもしれないね』
「どういうこと?」
『今は教えられないかな』
パタンと本を閉じながら、黒い少年は平坦な声で言う。
『直にわかることだろうしね』
「意味わかんない……」
『その方が良いよ』
そう言って、黒い少年は再び黒革の本を開いた。
『……もうすぐだね』




