三十三
「っ! 落ちつけ!」
混乱する俺に向かって弐野継が叫ぶ。
俺はハッとして彼の顔を見た。
彼は真剣な顔でこちらを見ていた。
それがとても恐ろしかった。
「やめろ、見るな……、俺を見るなっ!」
俺は胸で眠るキョウコを突き飛ばし、後ろに跳び退る。壱乃樹が驚いた顔でこちらを見ながらキョウコを抱きとめた。
「なっ! 急にどうなっちまったんだよお前!」
「やめろ、見るな……、見るな……!」
誰に向かってそんなことを言っているのだろうか。それすらもわからない。
「ん……いー姉さん……?」
「っ!? 落ちつけ参幅霧! こいつにそんな姿を見せていいのか!?」
キョウコが目覚めかけている。そのことに慌てた壱乃樹が弐騎継と同じような事を叫んでいた。
そうだ、キョウコにこんな姿は見せられない。
道具としての勝ちしかない、醜い亜人の姿など。
「やめろ、俺を見るな……見るなぁぁぁぁぁあああああああ!」
俺は勢いよく後ろに跳ぶ。着地した瞬間、俺と彼らの間に大量の岩石を創り、積み重ねることで岩の影に隠れる。
ズキリと頭が痛んだ。
「――ぅぁああああああぁぁぁぁああああああああ!」
痛みが大きくなり、まるで体中に痛みが広がっていくようだった。
俺は意識を失わないように、地面に倒れてしまわないように踏ん張る両の足に力を込め、頭を抱える。
「いー姉さん……?」
「ッ! 来るなぁ!」
「で、でも……」
「近づくんじゃねぇええ!」
俺は自分の周囲に暗闇を創る。
しかし、俺は暗闇の向こうから視線を感じていた。
「……視るんじゃねえよ……俺を……」
「どうして……いつものいー姉さんじゃないですか……」
「それでも、駄目なんだ……」
こんな情けない俺を見ないでくれ……。
「いー姉さん……」
「悪いな、キョウコ……」
俺は一歩下がり、暗闇の中に創った裂け目に飛び込む。
「いー姉さん!」
「キョウコは頼んだぞ!」
俺は彼らの返事を聞くことは無かった。




