三十一
「『零』」
そう言って、ビーはホワイトボードに大きく『零』と書いた。『レイ』って読むんじゃないのかあれ。
俺は俺の胸で眠るキョウコを抱きかかえながら首をひねった。
「これは国産の『壱』、『弐』、『参』と違って、組織が秘密裏に外国の施設で作って密輸入感を漂わせながら日本帝国に持ってきた物です」
物扱いかよ。
「外国産ってことか?」
「はい、見た目日本人ですけど」
国産ってことは、やっぱり俺達も作られた人間ってことか。
いや、俺は亜人だったか。
ん? 作られたのは人格か?
「『零』は当初世界転覆とか言うくっだらない目的で作られてたみたいですけど、『零』の元となった人間の超能力が零の能力と拒否反応起こして、そのせいで『零』は暴走してその施設は壊滅しました」
「へー。その『零』ってのはどんな超能力を持ってるんだ?」
「えーっと、『他人の超能力を理解出来た場合のみ、自らもその超能力を使用できる』と言った能力ですね」
「…………は?」
「いわゆる能力コピー系能力です」
何だその化け物じみた能力は。
あ、いや、零は俺達と同じ化け物か。
「因みに、元となった人間の能力は『超能力による攻撃を無効化しその超能力の仕組みを理解する及び物理的障害を一切受け付けない』能力です」
思考が停止した。
「…………二つ?」
「一つです」
「いや二つだっただろ!」
及びってついてたぞ! 能力が二つあるじゃねえか! て言うか、おかしすぎるだろ! 絶対能力コピー出来るじゃねえか!
『零』もバケモノなら元も化け物ってか!?
「普通、超能力者でない人間を基盤としてオリジナルナンバーの人格を植え付けるんですよ。説明書にもそう書いてありましたし」
「おい、説明書って何だよ」
「それはパンダちゃんでも言えないかなあー」
「そうか」
「いやそうかじゃねえよ」
全部そうかで返してないかお前。いいのかそれで。
「超能力を持つ人間に『化け物の人格』を植え付けると、拒否反応が起こるってことか。しかし、どうして拒否反応が起きたんだ? 元の人格の能力と『零』の能力は相性は良さそうだろ」
弐騎継は俺のツッコミに構わず話を続ける。
話を聞かない奴多いな。
「相性良過ぎて、世界が拒否反応起こしちゃったんですよ。たぶん」
「たぶん?」
「あの時代は可笑しな時代だったので、複数の人間が同じ、あるいは似たような超能力を持っているのは当たり前でした。なので、組織は一つの個体に複数の能力を持たせる実験をして、成功例も僅かながら存在しました。……その成功例も戦争が始まる直前の異変で全滅してますけど」
「おいおい、聞きたいことが沢山出てきたぞ……」
ガシガシと頭を掻きながら壱乃樹は言った。
聞きたいことも多いが、知らなきゃいけないことについてまだ触れられてない気がするのだが。
「異変って何だ?」
「戦前末期、大量に人が病死しました。あまりにも不自然な数だったので、組織では異変と呼んでいます」
「どうして成功例が出来たかわかるか?」
「相性の問題です。関係無さすぎる能力程失敗し、親密性が高い能力同士程成功します。複数と言っても、一人当たり五つが限界でした。真っ先に異変で死んだのは五つ星と呼ばれる能力を五つ持った少年でした」
「相性が良すぎて世界が拒否反応起こしたってのは?」
「相性と言うより、都合がよすぎてでしょうか。丁度良い素材が手に入ったので『零』を植え付けたところ、何の障害もなく成功したらしいです。――ああ、能力を複数持つという事は、能力の分だけ人格を有するという事を覚えておいてください」
「でも、暴走したんだろ?」
「成功データが送られてきた直後、施設周辺地域は大きなクレーターと化しました。その後、仮死状態の『零』は九州を通じて近畿に運ばれ、地下深くで研究資料として保管されていました」
ホワイトボードが黒くなるぐらい情報が書き込まれていく。
情報を引き出せるのはいいのだが、何か釈然としない。
胸の中の違和感を探ろうとしたその時、ビーが衝撃の事実を述べた。
「そして、『零』を封印する目的で作られたのがあなた達オリジナルナンバー00Xです。『零』が食欲の『壱』、知識欲の『弐』を殺すことで『零』の能力を縛り、創造を司る参が『零』に殺されることで『零』の人格を縛ることが出来ます」
「……結局、殺されるのかよ」
俺はキョウコを抱く腕の力を強めながら言った。腕の中でキョウコがもぞもぞと動く。
「はい。本当は殺される必要もないのですが、『零』は能力者の心臓を食すことによりその能力者がどのような能力を使うのかを理解できる体質になっています。組織がそう体質改善した、と言うべきでしょうか。その方がつごうがいいので」
「じゃあ、俺達を日本中にばらけさせないで、組織の持つ施設で大事に育てておけばいいじゃねえかよ」
「それでは、まっとうな人格に成熟しないでしょう? 人間らしい人格がオリジナルナンバーを昇華させ、より完璧な存在に近づけさせるのです」
言っている意味がまるで分からない。そんなの、記憶を操る超能力者とかに任せてしまえばいいではないか。
「そうもいきません。いかに人間らしい、醜い性格にするかが鍵なのです。人工的な性格なんて、理想的すぎるうえに淡白すぎます。とてもつまらない物に仕上がってしまいます」
いつからか、死んだような目でビーは話をするようになっていた。
「オリジナルナンバー達をどれだけ人間らしく育て上げるか。それが日本中に散らばった組織の人間の使命でした」
「……は?」
「黒いローブは組織の人間であることを表す、いわば記号でしたが、あえてそれを捨て一般人に扮装してオリジナルナンバーと直接、あるいは間接的に関わりあなた達を導いてきたのです」
「……待てよ、おい」
「『弐』は既に知っていると思いますが、言秀誘は組織の人間です」
「待てって言ってるだろ!」
俺は天に向かって吠えた。
「じゃあなんだ!? 俺は、いや、俺じゃあない、三冬燐火ってやつは、ずっと騙されてたってことか!? ありもしない記憶を植え付けられて、人間らしい性格になるように誘導されてたってわけか!?」
「それはあなた自身が良くわかっているでしょう。彼女の記憶はあなたが全て知っているはずなのですから」
「わかったような口聞いてんじゃねえよ!」
声が裏返る。
涙が零れていた。
何故、泣いているのだろうか。
わからない。
思えば、肉体を手に入れてからわからないことだらけだった。
「弱竹は大切な友人じゃないのか!? 一行だっていつも馬鹿やって一緒に怒られてたじゃないか! あいつらが悪いやつな訳ないだろう!?」
「……現実はいつも非道です」
「…………ッ!?」
「詳しいことは知りませんが、彼らはとてもいい働きをしてくれたみたいですね」
「てめぇ……!」
「落ちつけ。キョウコが起きちまうぞ」
「うぐ……」
俺は怒りのあまり立ち上がろうとするが、それを弐騎継が止めてくれた。
しかし、それでも三冬燐火を傷付ける者を許せなかった。
それはおそらく、俺に身体を譲ってくれたことに対しての感謝の気持ちから来ているのだろう。
そして、そんなことに感謝する俺自信が、俺は醜く感じていた。
ああ、どうして肉体なんか欲したのだろうか。
ほぼ深夜テンションでした。
……鼻血でるかと思う位ハイでした。




