二十九
黒いローブの少女はビーという名前らしい。
さらに、弐騎継は彼女を示しながらこう説明した。
「悪い組織の一員だ」
「なにその説明!?」
一番驚いていたのは説明されていた本人だったが。
「うちの組織は悪い組織じゃないよ!」
「平気で人体実験してるそうじゃないか」
「まあね!」
「胸を張るところか?」
「え?」
人体実験が当たり前の組織らしい。人体実験するにも、頭数は足りるのだろうか?
弐騎継とビーがあれやこれやと言い合っている間、俺達三人は膝を寄せ合っていた。
「あれどう思う?」
「怪しいな。普通にあの攻撃避けてたし」
「だよなあ」
「あの二人、デキてますって、絶対」
「いやそういう話じゃねえよ」
なんでキョウコはずれてんだよ。久しぶりに外に出たせいで頭がやられたのか? 今は冬なのに……。
ちらりと弐騎継達の方を振り返ると、拳と拳で語りうんじゃないかと言う位の雰囲気で話し合っていた。どうしたらあの話題からここまで行きつけるのだろうか。
「――つまり組織の名前を知らないと?」
「――知らないというより、存在しないって感じかな。名前は本質を表すから、組織の本質を悟られないようにあえて組織名を定めてないんだよ」
「――どうやって組織の人間を見分けてるんだよ」
「――勘かな? どうだろ、見たらわかる感じ」
「――そりゃ全員黒いローブだもんな。見たらわかるだろ」
「――あ、そっか」
「――やっぱお前アホだろ?」
「――なんだとー!? パンダちゃんのくせにー!」
「――抱きつこうとするな!」
「――むきゅう」
よくあの内容の会話で険悪な空気が保っていられるな。呆れを通り越して感心してしまった。馬鹿なのだろうか?
「まあ、ビーは敵ってことだろ?」
壱乃樹は不敵な笑みと共にゴキリと左手を鳴らした。それを見てキョウコが頷く。
「いや待て待て。落ちつけ」
「はあ? 俺は十分落ちついてるぞ?」
「なんですかその心底間抜けな顔は」
「キョウコ、お前はちょっと黙っててくれ。無闇に挑発するな」
「わかりました」
「で、なんだよ」
「ビーは弐騎継に懐いてるだろ? それを利用して弐騎継は今ビーから出来る限り情報を引き出しているのがわからないのか?」
「敵って言っても、俺達の敵なんて行く先々に現れて、むしろ味方の増やし方を教えて欲しいぐらいじゃないか。て言うか、どんな情報かもあやしいだろ。これから乗り込む近畿について全く触れてないみたいだしさ」
「それはまあ、確かにな」
今だって、美味しいカレーライスとは何かをビーが弐騎継に講義している。弐騎継は隠れて欠伸しているようだが。
「だけど、俺達に必要な情報も混じってるかもしれないだろ?」
「そうかもしれないけどなあ……」
若干不安そうな表情で壱乃樹は言う。
まあ、その不安はわからないでもない。
なにせ、話している内容が機密レベルから今日の夕食レベルまで様々なのだ。
しかもお互い突発的に話題を提供し合っているせいで外野に回っている今の俺達では一体あそこで何が起こっているのかわからない。
加えて、あの殺伐としか雰囲気が二人に近寄り難くしている原因でもある。無駄に殺し合いを始めそうな雰囲気を纏っているくせに、話している内容が内容なのだ。
これはもう、一種の技能だろう。
隣でキョウコが声を上げるのを聞いた。
「そうですよ、いー姉さん。あの二人に混ざれば後で弐騎継さんに聞かなくても済みますよ。二度手間を省けますよ!」
「それが出来れば苦労しないって。……近寄り難いんだよ、あの二人」
「ああ、まあ、それはわかります。近寄り難いですよね、あの二人は」
絶対俺の言ってる近寄り難いとは違う。
しかしまあ、物は試しだ。
難しいと思っていたこともやってみれば案外簡単だったと気付くこともある。
そう思って弐騎継達の方を見ると、ビーがこちらに気付いて手招きをしてきた。
「なんか手招きしてるぞ」
壱乃樹がそちらを指差しながら言った。
「はわわわわ……」
キョウコは両手で赤くなった顔を隠しながら慌てふためいている。こいつこんな感情表現豊かだったか? と言うか、何に対して照れているのだろうか。
「あー、とりあえず、行ってみるか」
俺はそっと手の平に収まるサイズのナイフを創りながら、そう言った。




