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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―参―
93/111

二十六

「亜人は、力持ちの鬼や鼻の利く犬・狐、夜目の利く猫、耳が良い兎に、それら全ての亜人を纏める役割を持つ龍の亜人がいるんだ。……医学特化型の四国に、常人を越える能力を持つ亜人。さて、亜人の使用目的は?」

「……奇襲作戦部隊?」

「アホか。救助活動を行う部隊だよ」


 さっき武装蜂起したって言ったじゃねえかよ。こいつは何を聞いてたんだ? 武装って意味理解してるのか?


「ああ、空爆で被害を受けた街から人を救い出すのか。なるほどなー」

「本当のことを言うと、二十人ぐらいいる亜人が日本帝国内にバラバラに分布してるから何の意味もないんだけどな」

「駄目じゃん!」


 ずがーん! と壱乃樹が拳を机に叩き付ける。スゴイ悔しそうだった。

 ……何故?


「……戦争のせいで全国の亜人は四国に戻れないんだろ?」

「しかも、普通の人間とは異なる容姿、能力を持つから負の感情を向ける的としては持ってこいだ」

「……どうにかできないのか?」


 何故そんなに泣きそうな目をするのだろうか。理解できなかった。

 だから、俺は話を変える。


「北海道って言うのは、いわば自然主義者の集まる土地だ」

「…………」

「彼らは小さな集落を転々と作り、高度な科学技術とは無縁な生活をしている。自然主義ってのは科学は認めるが、必要以上に高度な科学は生物を滅ぼすだけ、って考えだ。今回の戦争が始まってからこう言った意見を持つ人間が多くなり、北海道へ亡命する人が一時期急増した」

「……でも、科学でしか解決できないこともあるだろ」

「そう。それだ」


 俺は左手で頬杖をつき、右手で壱乃樹を指差す。


「科学に頼りたくない。だけど、高度な科学でしか治せない病気がある。このことが彼らを悩ませることになるだろうと俺は考えるね」

「そんなもんか?」

「誰だって、無駄な抵抗でもいいから抵抗してやりたいもんだよ。一矢報いたい。だから、科学を放棄してここに逃げたんだ」

「…………それは、お前もか?」


 今更可笑しな質問だった。

 我慢できず、吹き出してしまう。


「ぷはっ! あはは、バッカじゃねえの?」

「なんだよ、バカって!」

「あっははは、いやいや、だって、ねえ? その質問が見当違いだってことぐらい、お前だってわかってんじゃねえの?」

「まあ、それは……」


 俺は隣で眠りこけているキョウコに毛布を掛けてやりながら呟いた。



「……もうすぐ、俺達の存在意義もなくなるんだな」



「馬鹿言ってんじゃねえ、なくならせはしねえよ」


 壱乃樹の言葉に俺は顔を上げた。

 彼は真っ直ぐこちらを見ていた。


「……具体的な方法はわからねえけどよ、随分とまあ自信たっぷりに言ってくれるね」

「俺だって具体的な方法は知らないさ」

「……は?」


 あまりの衝撃に開いた口が塞がらない。

 こいつ、勢いだけで全て解決できるとでも思っているのだろうか。

 しかし、そうではないことがすぐに分かった。


「……関東へ行く。そこで、新たな扉が開かれるそうだ」

「新たな……扉……? 開かれるそうだって……」

「どこへ行けばいいのかならわかる。どういう結果が出ればいいのかはわかる。だけど、そこに至るための方法が全く分からない。わからないなら、下手に行動するよりも、戦力を集めてからの方が良いだろ?」

「まあ、そういうもんか。……ところで、どうして俺が北海道にいるってわかったんだ? まあ、ここに来てからもう三年は立つから、有名になってても可笑しくはないと思うが」


 言うと、壱乃樹が無言になっているのに気が付いた。

 何か迷っている風だった。


「どうした?」

「いや、真っ黒な少年って言えば、誰かわかるか?」


 あまりにも直球な言葉に、一瞬息が詰まる。

 俺はそれを悟られないように言葉を繋いだ。


「あ、ああ。白い回廊だろ?」

「そう! 良かった、知ってる人がいて。被はどうも知らないみたいなんだよなー」

「ふーん」


 興味ないので俺は適当に相槌を打っておく。

 そこで、一つ面白いことを思いついた。


「そうだ、壱乃樹。お前のこと聞かせてくれよ」

「はあ? ヤダよ」

「即答……かよ」


 何だその人を小馬鹿にしたような視線は。

 わざわざ頭を後ろに下げて、座ったまま見下せるような姿勢になっているのが何だか余計にムカつく。鼻で笑うところも、もう死ねばいいと思う。


「まあ、冗談は置いておいて」

「冗談かよ。ホント紛らわしいな、死ね」

「酷い!?」


 何事もなかったかのように話しだそうとする壱乃樹がとても気に入らなかったので、仕返しをした。本心を口にしただけだが。

 こほんと咳払いを一つしてから、壱乃樹は語り始めた。


「えーっと、俺はパラレルワールドから来た人間で本来この世界の壱ではありません。そもそも俺の世界に壱とか弐とか参とか言う概念はありませんでした」

「……もっと分かりやすく話して」


 壱乃樹の言わんとしていることはわかりかけているのだが、どうも頭の中でうまくまとまらない。

 パラレルワールドを信じる前に、壱乃樹の頭がどうかしているのではないかという考えが先行してしまうのだ。



「えっと、俺は、俺のいた世界――世界Aと仮定するか――で一度死んだんだ。その時は世界Aでは一度霊体として蘇ってだな、その時にもともと持ってた能力を失って奇妙な左腕を手に入れたんだ。『何でも喰らう事の出来る左腕』だな。この『左腕の管理・調整・利用を行うことが出来る』のが俺の超能力みたいだ。で、一時的に仮初の肉体を手に入れて俺を殺したにっくき人物プラスアルファを殺してやったわけだが、どうやらそこは俺のいた世界とはまた違う世界――世界Bと仮定する――だったみたいで、俺が親友だと思ってたやつに能力封じられてついでに左腕奪われてアッと言う間に死んでいきました、ってわけだ。で、世界A、Bの時間軸はほぼ同じだったんだけど、この世界――まあ、世界Cだな――は世界AやBよりずっと後の時代みたいで、気付けば俺は戦争で傷付いた街の中に一人ぽつんと立っていたわけだ」



 頭だけじゃなく、目玉までぐるぐるしてきた気がする。


「ああ」


 思い出したように壱乃樹が声を上げた。

 とりあえず、俺は耳を傾ける。


「死んだ後はいつも黒い少年の所へ行ってたぞ。そこに行くといつも死ぬ時に失ったはずの左腕がちゃんとくっ付いてるんだ。『ソレの管理をしっかりしてくれないと困る』っていう言葉と一緒にな」


 照れるように笑う壱乃樹を見て、俺は思わず彼から目を逸らしてしまった。

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