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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―参―
89/111

二十三

 歪みを潜り抜けた瞬間、重力が逆転した。


「うわっと!?」


 俺は慌てて歪みを閉じ、九州とは違った緑色の地面に着地する。……少し肌寒いが、緑の良い香りがする丘のようだ。薄汚れた空気はそこにはなく、一呼吸ごとに澄んだ空気が肺を通じて全身に広がっていく。

 青い空に浮かぶ真っ白な雲を見ていると、まるで日本ではない別の国にやってきたような気になってしまう。


「……ん? 火薬臭い……」


 俺は鼻につく嫌な臭いを感じとり俺は丘の上に上り、眼下の平野を見下ろす。

 そこには、青い鎧を着た銃器を持つ二十人程度の集団と、防寒具を幾重にも重ねて着て石槍一つで戦う六人の集団がいた。


「む……」


 胸が邪魔で下が良く見えない……。

 何だこの脂肪の塊は? 前の身体の持ち主が筋トレ大好き、肉体改造大好きだったせいで運動しなくても筋肉が無くならないとか言う意味の分からない身体にしてくれたおかげで重さは感じないのだが、邪魔で邪魔で仕方がない。

 どうしてこの胸の脂肪を胸筋に昇華させなかったのだろうか? 女は胸だとでも考えてたのか? 胸だけが女じゃないだろう。って言うか、気にならなかったのか? 取り巻きの男二人の事なんか気にせずに筋肉にしてしまえば良かったものを……。


 ……するか?


 そう思い至り、胸に手を伸ばそうとしたとき、右にずっと離れた場所に銃弾が通り過ぎていった。下の方に目をやると、青い鎧の集団がこちらに向けて銃を向けていた。狙撃中のようだが、あんなふうに脇に抱えたまま立って撃つようじゃ、狙いが外れるに決まっている。


「ふんっ」


 俺は鼻で笑い、丘から風の様な速さで駆け下りて青い鎧の集団の前に踊り出た。見ると、小さな子供から年老いた老人まで、様々な年齢層がいた。彼らの足元には無数に穴が開いた肉塊が赤黒く鉄臭い液体に浸かっていた。

 彼らは一様におびえた目でこちらを睨んでいて、銃器を握る手は、ガタガタと手が外れてしまうのではないかと思う位小刻みに震えていた。


「し、死ね!」


 パンッ、と渇いた音が俺の頭を貫いた。それを引き金に、次々と俺に向けて鉛の塊が吐き出される。

 俺はそれら全てを手で掴み取って見せた。銃弾もそれ程残っていなかったようですぐに弾は尽きたようだが、それでもこの人数だ、多くの銃弾が俺を殺さんとして放たれた。それらを全て掴み取って見せたのだ、十分に目の前の集団を恐怖に陥れることが出来ただろう。

 そう悦に浸っていると、青白い閃光が俺の腹を貫いた。


「……あぁ?」


 焦げ臭さと共に、不快感が腹からじわじわと広がっていった。

 眼前に意識を向けると、一人の青年がガタガタと震えながら、みっともなく腰を抜かしながら、俺に向けて万年筆を向けていた。

 顔面を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら青年は叫ぶ。


「ば、ァばッ! バケモノめ!」


「…………呼んだか?」


 腹に意識を集中させて、亜人が生まれ持った自然治癒能力を促進させ一瞬で腹の傷を塞ぐ。ぐちりという音と共に傷が無くなった。

 彼らの顔から血が引いていくのが見え、面白くて俺は一歩後ろにさがってみた。更に彼らの顔が良く見える。


 弾を撃ち尽くした銃で俺を威嚇しながら必死に地べたを這い逃げる者。


 超能力を使って俺を殺そうとするも、恐怖でガスの切れたライター程度の炎しか出せないもの。


 生きることを諦め信じてもいなかったであろう仏神に祈り始める者。


 あまりのことに脳の理解が追い付かず、呆けた顔で立ち尽くす者。


 涙を止め処無く溢しながら俺に許しを請う者。



「……くく」


 可笑しくて思わず笑いが口の端から零れてしまった。止めようと思っても、何故か俺の意思に反して笑いが次々と溢れ出す。


「くくく……、ふはははははははは! あはははははは! 嗚呼、愉快だな、可笑しいな! 最高だよ、『日本ニッポン』!」


 悲鳴もなく、一人の少女を除く青い鎧の集団は血だまりに沈んだ。彼らの後ろで隠れるように泣いていた少女の前身は鮮やかな朱に染まった。




「いや……やめて……狐さん……」


 少女はガタガタと震えながら、胸の猟銃を強く抱きしめた。

 俺は血だまりの中心に立ち、改めて少女の顔を見下ろす。


「……お前は俺を攻撃してこなかったわけだが、どうするんだ? 死にたいんならその胸の銃を俺に向けて引き金を引くなり何なりすればいいし、まだ生きていたいんなら、自分の足で立って見せろ」


 それだけ言うと、俺は踵を返し、さっき俺が立っていた丘へと歩いて行った。

 しばらく歩いき、もうすぐ丘の頂上へと辿り着くだろうというところで、後ろから何かが勢いよくぶつかってきた。

 首を捻って肩越しに確認してみると、血と土に塗れた少女が俺に抱きついていた。少女は肩で息をしながら俺の目を見て言う。



「私を…………生かして下さい!」




 何故俺はこの少女を助けようと思ったのだろうか。


 鴨の子のように俺の後ろを着いてくる少女に意識を向けていると、気が付けば俺はふとそんなことを考えていたのだった。


 おそらく、三冬燐火の存在がその理由と深くかかわっているだろう。

 彼女の抜け落ちすぎた記憶の意味を知ってしまったからだろう。

 知ってしまったというよりか、思い出せなかったものを思い出したような感覚か。

 抜け落ちた彼女の記憶が、彼女の人生の無意味さを物語っていた。


 彼女は、最初から俺をこの時期に呼び出すために造られ、調整されていたのだ。

 多くの失敗作を産んだ末の完成品、『参』、そして失敗作達『亜人』。

 全ては禁忌の域に踏み込んでしまったがための負の遺産だ。この戦争でさえも。


 その戦争を止めるために必要なパーツが『壱』から『参』の化け物達のチカラだ。世界を滅ぼすことも救うこともできるなどと言う曖昧なチカラではなく、世界を殺すことが出来るチカラだ。

 そして、時代を次へシフトさせる。

 その後のことはお偉い方がやってくれるだろう。

 要は、俺達『壱』『弐』『参』は道具なのだ。

 道具ならば、きちんとした使い方で使われなければならないだろうと思う。



 腹の底に何を閉まっていようが、使用者には知ったこっちゃないだろうがな。

 カウンター技『日本』

 一言説明:一撃で相手を葬り去る程の威力を持つ過剰防衛な技。

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