二十一
気が付けば、私と戦闘を行う大公は私以外の前線に立つ兵士を全滅させていた。
隙を見ては襲い掛かる兵士を振り返りもせずに吹き飛ばし、兵士同士を衝突させて、殺しはしないが放っておいたら後遺症が残るのではないかという程度の怪我をさせて戦意を喪失させたのだ。
「もう諦めたらどうだ?」
大公は私の大刀を踏み砕きながら言う。
「嫌だ……。絶対に殺す……」
私はがんがんと煩わしい頭痛に舌打ちしながら、左手で腰の十手を引き抜き、右手のひび割れた大刀の残骸を構える。
そんな私の様子を見た大公は困ったように眉を顰めた。
「私は人を殺すなと言われておるのでな。諦めてくれたら貴様を気絶させるだけで済むのだ。どうだ? 負けて死ぬよりは生きていた方が良くないか?」
「誰が……あんたなんかに……! 人間のくせに……! 敵のくせに!」
「貴様の仲間も人間であったのだが、それについてはどう解釈するつもりだ?」
「うるさい! 千尋も九十九も人間じゃない!」
「やれやれ……」
割れて尖った大刀で大公を全力で突く。大刀は大公に片手で受け止められ、膝で蹴られとうとう柄と鍔だけになってしまった。
あっけなく、大刀は崩れ去った。
それでも、私は攻撃をやめない。
「うるさい! うるさい! うるさい!」
涙でぼやける視界に、そこに誰が立っているのかもわからずに、目の前の人影をひたすら殴り続ける。まるで、幼い子供が癇癪を起したかのように泣きわめきながら。
「うるさい、うるさい! うるさい……! う、うぅぁぁああああああん! うるさいってばぁ! もう、やめてよ……! 悪くない、私は悪くないのに……」
一体誰に向かって話しているのだろうか。
わからない。
ただ、私はひどく悲しい気分になっていた。
わけもわからず涙を流していた。
そっと、誰かに抱き締められた。
「ひっ!?」
びくりと体が震える。
「安心しろ」
聞き覚えのある女性の声が、優しげに言った。
私は耳元で聞こえる声に安心感を覚え、その抱擁に私の全てを包み込まれているような感覚を覚えた。
女性は続ける。
「安心しろ。何故ならば、『私は貴様を助けることが出来る』のだから」
「あ…………」
す、と体中から力が抜ける。頭の中がぼうっと霞み、急に瞼が重くなってきた。
そっと仰向けで地面に寝かせられるのがわかるが、不思議と嫌な気はせず、むしろ心の中が幸せで満ちていくような感じだった。
ああ、このまま眠ってしまいたい……。
じゅくり……。
頭の中で何かが生まれた。
じゅくじゅくじゅく……。
何かはだんだんと大きくなり、次第に頭の中を埋め尽くすぐらいにまで大きくなろうとしていた。
「……いや……」
じゅくじゅくじゅく……。
「いや、いや……。いやぁあああー!」
「なっ!? どうしたのだ!?」
誰かが私の身体を触ってくる。
とても嫌なものを感じ、私は力任せに払いのけながら立ち上がった。
「いや! いや! なにこれ、やめて! 私は、わたしは……!」
「落ちつけ! 一体どうしたというのだ!?」
「触らないで!」
「っ!」
いつの間にか収まっていた頭痛も今では先ほどの何倍にもなってぶり返してきている。ちかちかと明滅する視界に私は不快感を押さえられず思わずその場に座り込んでしまった。
胸が苦しくなり、言い知れない寂しさが込み上げてきた。一体これはなんなのだろうか。
「いや、やめて、千尋、九十九、どこにいるの、いや、一人にしないで、いや……いやああああああああああああ!!」
「貴様!? 何をっ!」
目を覚ますと、目の前が真っ白で驚いた。
『お目覚めかい?』
「うおっ、誰だよ」
頭の上から声が降ってきた。俺は慌てて起き上がり声の主を探す。すると、真っ白な肌の少年を見つけた。肌はやけに白いのに、着ている服が黒い革の服で隠せる部位を全て隠しているため、真っ白な背景のせいで服が浮いているように錯覚してしまう。
『酷いなあ。君は前の僕とは面識がある筈なんだけどな」
「はあ? ……ああ、黒いのか! いやー、久しぶりだな! 元気にしてたか?」
『僕の顔を見てそんなことが言えるのかい?』
俺はまじまじと黒い少年の顔を見る。幼いが、男の子と認識できる程度の顔つきだ。髪が長く、皮膚は青白いけど。
「元気そうだな?」
『首を傾げながら言う台詞かい?」
あらすじの『日本帝国歴三百二十二年七月十三日』って、すげー適当な数字だなー、って思いました。




