十五
でも会ってもお互い成長してるからわからないかもしれないじゃん! と意味不明な心の叫びはさておき、私達は『何故か』地面にめり込んだまま動かない護送車に乗っていた。
流石護送車、というべきか。外も内も頑丈でもう、あれだね。スゴイね。すごい。でもおかげで地面に沈んじゃったけどね。
「おかしいな、さっきまで正常に動いてたはずなのに……」
運転手はしきりにエンジンに負荷をかけ、同行していた整備士は助手席から降り、しきりにエンジンの調子を確かめていた。
いや、エンジンじゃないから。
ていうか、タイヤのパンク音聞こえた? 聞こえなかったの?
私達を迎えに来た九州防衛軍の方々は護送車の中の、ど真ん中に置かれた私の大刀をちらちらと見ながら、「おかしいなぁ」としきりに首を捻りあっている。
九十九と千尋はお腹を抱えながら肩を震わし、何事か言っている。「アホ過ぎる」、だそうだ。
そもそも、あの時船が沈まなかったこと自体が奇跡だったもんなー、と。
私は天井を仰ぎ見ながらそんなことを呟きかけて、やめた。
言っても何の解決にもならないしね。
「すごーい、これが戦車かぁ……」
ごつい深緑色の鉄塊としか表現できない。一軒家一つ分ほどの大きさで、こんなものが町の中を走っている所を想像すると、何故か違和感しか感じられなかった。
「いや、やっぱりおかしいって」
振り返って千尋に言うと、千尋は私を指さして言った。
「いや、お前が原因だから。むしろお前だけ歩いて行けよ」
「えー、酷ーい。そんなこと言ってると、私一人だけはぐれるよ?」
「もういいよ、それで。どうせお前、戦えないだろ?」
「なにをー!?」
右手を振り上げると、千尋はウザったそうに、しっしと手を振った。その仕草にムッとしたので、あえてそれに従って見せる。
「ふんっ!」
「おお、怖い怖い……」
いらっ。
「いつか絶対泣かしてやるから!」
「へーへー」
あのやろーぜったいなかしてやる……。
……あれ? 戦車に私の大刀積んだけど、動くの? うーん……。
「…………」
「あ? どうした?」
私が急に立ち止まったことを不思議に思ったのか、後ろから千尋が声をかけてくる。あれ、九十九いない。
「そう言えば九十九は?」
「護送車の運転手に平謝りしてる最中じゃないのか? 借金が増えたって嘆いてたぞ」
「うぐっ。って、そういう事を聞きたいんじゃないよ!」
「はぁ?」
いつの間にか私の横に立っていた千尋は、右手の甲を反しながら戦車を指さした。なんだその動きは。
「お前のことだから、車酔いが心配なのか?」
「それは千尋でしょ」
「うるせー」
「ひはひひはひ」
私は、むぎー、と左頬を引っ張る右手をぺちぺちと叩きながら抗議をする。
「むうー……」
「睨むんなら言わなきゃよかっただろ」
「うるはい」
「へーへー。……で、聞きたいことって何だ?」
涙を拭いながら、私は千尋を見上げた。……背高いなこの鬼野郎……。
はっ! 言葉遣いに気を付けなければ。
「えっと、私の大刀を持ってくための、この戦車だよね?」
「そうらしいな。よくこんなに早く来れたよな」
今は日が完全に沈んだ直後で、肌寒い空気が吹き始めている。もうすぐ冬なので、やはり夜は冷える。
「重すぎて動けない、何てことはないよね?」
「大丈夫じゃないか? ここ最近は不思議なことにずっと晴れてたし、まあ、明日の昼には土砂降りになるかもな」
「この時期、雨が凄いもんね」
でも、それとこれとは何か関係があるのだろうか。それについて千尋に聞いてみると、千尋はそういやそうだよな、と笑った。
「地面がぬかるんでると、この戦車はたぶん、燐火の大刀よりも重いから、地面に埋まっちまうんだよ」
「あ、あー。だから、しばらく晴れてて、地面が乾燥してる今が良いんだね」
「そうそう。覚えておいた方が良いぞ。お前も雨の日は大刀を持って戦場に出ないようにしないとな」
「ふえー、どうして?」
「お前、生きたまま地面に埋まりたいか?」
「いやだー」
私はテキトーに返事をし、踵を返しその場から走り去る。
千尋の呆れた溜め息が聞こえた気がした。
「おい、今度は何処行くつもりだ?」
「千尋も突いてくればー?」
「俺は此処で見張りだよ」
「そ。じゃあねー」
早く帰ってこいよ、と言う千尋の声に、私は振り向かずに手を振って返事をした。
「なんだ、すぐに帰ってきたじゃないか」
「ごめん、トイレってどこ?」
「はあ……」




