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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―参―
78/111

十二

「やだよぉ……!」


 少女の言葉が頭から離れず、私は何かに取りつかれたように様々な場所を走り回った。山を尻目に通りを駆けずり回ったり、潮風に髪を撫でられながら土を抉り、脳裏に焼き付いた少女の瞳を振り払いながら風を切った。


「私は……、どうして……!」


 あの子を助けられたのに!

 どうして見殺しにしたの!?

 私の能力なら助けられたのに!


「う、うう……っ!」


 情けなくて、涙が出てくる。

 結局、怖かったのだ。

 あの時、少女を助けた時に向けられる人々の視線を想像して、怖くなって、何も出来なくなった。奇異の視線に耐えられないと、目の前の助けられたはずの命を見殺しにした。


 私はなんて奴なんだろうか!

 そんなに自分が愛しいか!


「情けないよ……」


 いつしか、足は止まっていた。

 ジワリと視界が滲み、見つめていた足先の輪郭が曖昧になる。



「『化け物』に成りたくはないか、『亜人』の娘よ」



 瞬間、心臓が跳ね上がる。


「誰っ!?」


 私は涙を拭いながら、勢いよく振り返った。

 そこには、いつか見たマッドサイエンティストのような男がいた。

 驚いて辺りを見回すと、あの時と全く同じ場所に来ていたようだった。


「もう一度問おう」


 マッドサイエンティストのような男が口を開く。


「『化け物』に成りたくはないか、『亜人』の娘よ」


 気付けば、じっとりとした汗を背中に掻いていた。

 いつの間に……?

 大刀を握る手に力が入る。


「私達亜人は、あなた達人間から見てすでに化け物でしょう?」

「ああ、違うよ、そういう意味じゃない」


 私が質問をし返すと、男は右手で大袈裟に額を押さえた。白衣がバサリと音を立てる。


「確かに僕の言う『化け物』は比喩的表現だが、君の言うのとは全然違う。『化け物』としか表現できない『化け物』になりたくはないか、という事だ」


 私は男の言う事の意味を頭の中で反芻し、返事の言葉を紡ぐ。


「それって、つまり、私に死ねってこと? 人間でも、亜人でも、人ですらない存在になれってこと?」

「そうだな」


 男は即答した。


「このっ!」

「まあ落ちつけ。僕の話はまだ続く」


 大刀を握り直し、振り上げようとした矢先、男は手を前に出して私を制した。


「『化け物』と言っても、人の形をした『化け物』だ。超人的な身体能力を持つ者を人は怪物、化け物などと称すが、君は誰がどう見ても『人の形をした化け物』ないし、『亜人の形をした化け物』と成る可能性を秘めている」

「……はあ」


 どうしてだろうか、急に彼の言葉が頭に入ってこなくなった。と言うより、何を言われているのかさっぱりわからない。


「既に三種の内二種の『化け物』の宿主の目白はついた。後は、仮にも参の名を冠する君……三冬燐火が『化け物』に成れば、日本は一気に変わる!」


 バサァ! と白衣を大きくはためかせながら男は言う。

 やはり、何が言いたいかさっぱりわからない。

 何故か名前も知られているようで、身の危険を感じ数歩後ずさって様子を見る。


「既に壱は零の糧となり、残すは四国に居る弐と未だ現れない参のみ! 戦況がどうにか弐を動かすだろうが、しかし参が目覚めなければ、この戦争の意味がいつまで経っても見出されないではないか! 全ては零の完成のためのオリジナルナンバー達! 僕の研究成果が一番生きるための布石としてのこの戦争だ! くふ、くふふふはははははははは!」


 うわあ、大通りにもあの人の独り言が漏れて聞こえてくるよ……。

 やっぱり何言ってるかわからないし、戦争のせいで頭がどうかなっちゃった人なのかな……。戦争は金になるとか、邪魔者を消せるだとか、千尋によればありもしない幻想まで抱き始める人とかもいるらしいし、たぶんあの人がその類かな。


 戦争教、なんてね。



「あ、燐火! 探したぞこのこのやろー!」

「あ、千尋じゃん」


 慌てた様子で走ってくる千尋に向けて、私は軽く手を挙げる。千尋は表情を一変させると、速度を上げてこちらに突っ込んできた。え、なに、ハグ?

 じゃあその握り拳は何?


「千尋じゃん、じゃねえ!」

「うわあっ!」


 目を金色に輝かせながら、千尋は全力で殴りかかってきた。

 反射的にその一撃を大刀の腹で受け止めると、衝撃で地面に跡を残しながら私は後退した。

 舞い上がった砂埃が風に流されていく。


「なに――」

「どんだけ心配したと思ってんだ!」

「わぶっ?!」


 ゴン! と腹の底に圧し掛かるような重い音が通りに響き渡る。続いて、吹き飛んだ大刀が自重で地面に沈み込む音がした。


「……………………!」


 涙目で、もう少しで死ぬところだったと訴えるが、千尋は気にも止めずに私の真横の大刀を指差す。


「おら、帰るぞ! 九十九が待ってる」

「…………!」


 あまりのことに、私はただ頷くことしかできず、大刀を拾い上げ、さっさと立ち去る千尋の背中を慌てて追いかけた。


「ご、ごめんってば!」

「どうせ都会慣れしてないんだから単独行動は避けろって言っただろ」

「……言われてないよ?」

「じゃあ今言った。次から気を付けろよ」

「はーい……」

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