八
「俺と千尋は九州防衛隊鹿児島支部に行くからお前はここで待ってろ」
とのこと。一週間後には戻ってくるらしい。泊まる場所はないので、赤毛の老人の家に泊めてもらうことになった。
お爺さんは三人分の武器を一週間で造り上げると意気込み、もう三日経つのにご飯も睡眠もほとんどとっていない。大丈夫なのかと思うのだけれど、私はあのお爺さんが苦手なので、貸し出された部屋から一歩も出ていない。
引きこもりではない。
「うーん……」
やることが無い……。
いや、昨日は一日中腕立て伏せしてたけど、それもどうなのかな。
「はぁ……」
ベッドにごろんと横になる。
しばらく洗われてなかったようで、昨日と同じようにふわりと埃が宙に舞った。
「…………」
それを能力で創った穴に吸い込ませる。
穴はすぐに閉じた。
「暇だなー」
「なあ、燐火って千尋のことは好きなのか?」
「え? あ」
九十九の予想外の発言に、手の中の竹刀がすっぽ抜けた。瞬時にそれを掴み取り、先ほどと同じように振り始める。
「んー。どっちの意味で?」
「恋愛感情的な」
「じゃあ、好き、ではないかな」
「家族愛的な意味では?」
「大好き」
千尋がいなかったら私は今生きていなかったし。
「ふーん」
「どうしたの、急にそんな質問して」
「いや、なんとなく」
「言っておくけど、九十九はただの友達ぐらいだから」
「俺もそれぐらいでいいわ」
千尋のことは好きか、か。
好きか嫌いかでいったら、申し訳ないけど嫌いかな。
理由は特にないけど、でも、たぶんそれは無いんじゃなくて、認めたくないんだと思う。
自分が、千尋の力に嫉妬しているなんて。
絶対に認めたくない。
だから私は今日も剣を振り続ける。
「…………」
いつからだろうか。
こんなにも力に執着するようになったのは。
思い出せない。
頭の中に靄がかかり、輪郭がぼやけていく。
ああ、頭が痛い。
私は、どうしてここまで捻じ曲がったのか……。
もう、人を殺しても構わないと考えてしまっている……。
殺すために、あんな凶器を欲してしまったのだ。
確実に殺すために、あんなものを……。
「…………っく」
私は、窓からそっと出ていったのだった。
「…………」
膝を抱えた私の前で、泡が砕ける。
「……どうしちゃったんだろ、私……」
答えが返ってこないとわかっていながらも、虚しさを振り払うように私は呟く。
当然、答えはなく、余計に虚しくなって、顔を膝に埋めた。
「……力が欲しい。でも、誰かを殺すためじゃない。誰かを守る力が欲しい。欲しがるだけじゃない。手に入れるためならどんな努力だってする。どんなに辛くても、絶対に手に入れてみせる。だから、力が欲しい……」
ぽつりと水面に波紋が出来る。次第にそれは増えていき、数えるのも億劫になるほどまで増えた。それは、際限なく増え続ける。
「…………」
雨に身体を濡らされながらも、私はその場から動こうとは思えなかった。
誰かが私の後ろに立った。
傘を持っているようで、私を濡らす雨が止んだように錯覚した。
「…………」
「帰るぞ」
赤毛のお爺さんは、そっと言うのだった。
「……はい」
しかし、しばらく立ち上がる気にはなれなかった。
家に帰り、ここ数日悩み続けていたことを赤毛のお爺さんに話すと、覚悟が足りないと叱られた。
しかし、答えを無理に見つけようとせず、存分に悩めと励まされた。
一体それがどういう意味なのかと尋ねると、お爺さんは笑ってこう言った。
「そんなもの、自分で考えろ」
「むうー」
そんなこんなで、再び自分の部屋。雨水が窓に幾筋もの線を描いている。
「自分で考えろ、か……」
まるで突き放すような言い方だが、しかしちゃんと私のことを思いやった言い方だと思う。
自分としっかり対話し、自分が納得できる答えを見つけろ、という事なのだろう。
自分が納得する答えを見つけて、覚悟を持って戦場に立て、という事なのだろう。
「私が戦う理由……?」
一体なんだっただろうか。
そもそも、戦いたくなどなかった。九十九が現れてから、全てが変わった。世界が引っ繰り返った。自分が持つ、負の感情を目の当たりにし、怖くなり、だけど、野性的な感情も生まれ、戦いたいと思う様になってしまった。
力がないことに劣等感を感じるようになり、力がついてくることに喜びを感じていた。もっと強くなりたい。誰よりも、この世界の誰よりも強くなりたい。
何故?
自分の可能性を目の当たりにしてしまったから。
貪欲に、力だけを求めた。力だけでは勝てないと悟れば、技術を盗み、開発した。技術でも駄目だとわかれば、素早さを求めた。素早さでも駄目なら、道具を使う、などと、ただ千尋に勝つことだけを考えていた。
誇張ではなく、おそらく私はいつの日か千尋に勝てるだろう。
だが、その後は?
さらなる強者に勝つために、鍛えるのみ。
一体それに何の意味があるのか。
私は何の覚悟もないまま、己の望むまま、本能のまま欲望のままに剣を振い続けた。
なにもない、空っぽの剣を振い続けた。
あのまま私が千尋を越えても、私の振るう剣は破壊するだけの剣になっていただろう。
なにも守れやしない、ただ破壊するだけの、低俗な剣に。
「…………」
この私の能力だってそうだ。
望めば何だって手に入る、この能力。
この能力だって、守るために使わなければいけない。
どんなに強大な力だって、使い方次第で善にでも悪にでもなれるのだ。
ならば、私はこの力をどう使うのだろうか?
「私は……」
ぎゅっと右手を握る。
空いた左手で、そっと握った右手を包み込んだ。
「私は……」
もう一度、同じ言葉を呟く。
私は、間違えない。
この力を守るために、正しい方法で使って見せる。
開いた右手の中には、小さな宝石が生まれていた。
ストックが無くなってきてますね。
もしかしたらしばらく休載かも……。
フラグか?




