七
自然に囲まれた与那国島に上陸すると、千尋は景色などには目もくれず、一目散に駈け出して胃の中の物を海面に吐き出した。
「いやー、すっきりした!」
「おう、良かったな」
千尋は若干ふらふらしながらも、良いとは言えない顔色で私達の先頭を歩いている。余程船から降りられたのがうれしかったのだろう。
そんな千尋に、九十九と私はこっそりと苦笑していた。
(千尋って、可愛いところもあるよな)
九十九が声を潜めながら話しかけてくる。
(ね、ね! あれでいて、植物が大好きなんだよ!)
(ぶはっ! 似合わねえ!)
九十九はひーひー言いながら、地面に蹲り、笑いを必死で殺そうと奮闘している。
「なあ九十九。……って、なにやってんだ?」
千尋が振り返り、蹲る九十九に気が付いた。
「い、いや、なんでも……ぶふぁあ!」
「うお!?」
九十九は痙攣する口角をどうにかしようと努力したみたいだが、千尋の顔を見て我慢できなくなってしまったようだ。九十九は大声で笑いながら砂利道をごろごろと転げまわる。
そんな九十九を見て、私まで大声で笑ってしまった。
「あっはははははは! あはは、はは、は……」
「お前、なんかあいつに吹き込んだだろ?」
「はい……」
肩に置かれた千尋の手は、やけに重かった。
なにごともなく、なんの事件もなく、私たちは目的地にたどり着いた。
「ここが前言ってた武器を造ってくれる爺さんの住む家だ」
「海が見える……」
千尋の言うとおり、家が海に沈んでしまわないのかと思ってしまう程、海がよく見える家だった。て言うか、柱は腐らないの?
「おら、さっさと入るぞ」
慣れているのか、千尋はさっさと家の中に入ってしまう。
私達は慌ててそれを追いかけるようにして、家の中に入った。
「お、おじゃましまーす」
「邪魔だと思うんならさっさと帰れ」
「うはぁ!?」
家の中に入ると、赤毛の老人に挨拶の言葉を真正面から斬り捨てられた。
大きく後ずさった拍子に、後から入ってきた千尋と激突した。
「ぐはっ」
「うぇえ!?」
「お前ら何やってんだよ……」
九十九の声がしたので、声の方を見ると、九十九は家の中を物色していた。明らかに手馴れている。
「なんだ、客人か」
突然、赤毛の老人は思いついた様にそう言うと、奥から椅子を二脚引っ張り出してきて、私と九十九に座るよう指示す。
「座れ」
「あ、どうも」
「はい……」
九十九のことはどうでもいいらしく、老人はさっさと話を始めてしまった。
「小僧はどんな武器が良い?」
「はい?」
「どんな武器が良いか聞いている」
前振りも無しにさっさと本題に入った。急いでいるのだろうか、それとも九十九から話を聞いていると判断したのか。
まあ、九十九から聞いた話と言えば、武器職人で、独特の話し方と技術を持っている、ぐらいだろうか。話を聞いたときは、変わり者のお爺さんで、あまり外界との交流を持とうとしないイメージを持った。
だからなのか、どうなのか、この人の最初の一言がそのイメージをさらに助長させ、偏屈爺さん、と言うイメージになってしまった。
「あー、えーっと、両刃の剣と、丸い盾ですかね」
「刃の長さは?」
「長さ……は、一メートルから八十センチがいいです」
「左手で持つのか?」
「いや、どっちの手でも持てるようにしたいです」
「盾も両方の手に装備できるような形にするか?」
「あ、盾は始めから両手に装備していたいです。小手と一体化しているような感じで」
「楕円形になるぞ?」
「じゃあ、楕円形で」
なんでそんなにすらすら言葉が出てくるの。
え、え? 私、何にも考えてなかったよ? いや、イメージはあやふやだけどあるけどさ。二刀流が一番使い易かったし、それでいこうかなー、なんて。いや、でもそれは竹刀の話であって、真剣は竹刀よりも重いんだから、いやでも、うーん……。
いっそのこと、ただの刀でいいかな?
「小娘」
「……え、あ、はいっ!」
「……お前はどんな武器を使う?」
「え、あ、えっと、大刀、ですかね?」
私は老人から若干目を反らし、頬を人差し指で描きながら言った。
どこで料理をしたのか、肉じゃがを頬張る九十九と目が合った。
…………。
九十九を睨んでいると、それに気付いたのか九十九は左手の碗に箸を乗せると右手で私を指差した。
え、なに。
「んぐ……。燐火お前、二刀流が一番強かっただろ」
「あ、いや、大刀以外にも使うから!」
「どんな武器をだ?」
やはりと言うべきか、老人が食いついてきた。千尋はなにも言わないが、目が興味津々だと語っていた。
たった三人だが、やはり視線が自分に集中していることを意識してしまうと、恐怖を感じてしまう。
「…………」
だいじょうぶ。ここに私の敵はいない。お爺さんは人間みたいだけど、多分亜人だの人間だのと気にする人ではないだろう。
大丈夫。大丈夫だから。
「燐火?」
「あ、っと、うん」
「いや、なにが?」
「ああはい。十手かな?」
「はあ? 十手?」
九十九がイラっとするような声音で文句を言ってきたので、そちらの方を睨むと七面鳥の丸焼きを両手で持ちながら頬張っていた。
「いや、なんで!?」
「そりゃこっちの台詞だろ。二刀流で大刀で十手って……」
ヤレヤレと九十九は首を振る。というか、他の2人は何故気付かないのだろうか。明らかに何かおかしいのに……。ていうか、何処から出したの。
「大刀の刃渡りは?」
「え? あっ、二メートルから三メートルです」
「重量は?」
「出来るだけ重く、あと、頑丈に」
「切れ味は?」
「刃は無い方がうれしいです。引き斬るのではなく、圧し潰す感じで斬りたいので」
「それって引き斬るのが面倒……」
「千尋うるさい」
「はい」
「柄も長くなるがいいか?」
「柄は一メートル欲しいです」
「それは大刀なのか?」
「刀は使用者の心を映す鏡です。他人にどうこう言われる筋合いはありません」
「刀を知った風に語るな」
「ぁい……」
そう言えばこの人武器職人だった……。
いやでも、刀は片刃であれば刀のはずだ。
……怒られるから言わないけど。
とりあえず、自己弁護はしておこう。
「柄が長い武器、例えば槍とか薙刀とか、それは繰り出し繰り込みで手の内が――」
「武道は知らん」
「うぐっ……」
偏屈め……。
「つまり、私が言いたいのは、柄が長くて刃も長くて重くて頑丈なら自分の好きなように戦える、という事です」
「でもさー、重いの持てるん?」
「何故訛ったし」
しかし、九十九がいう事は正しいだろう。自分の二倍以上はある刀を本当に操れるのか、という事だ。
否、持てないわけがない。
初めのうちは持ち上げるのも辛いのは認めよう。しかし、亜人の特性の一つに超人的な身体能力が挙げられる。超回復も高速で行われるのをこの五年間で嫌と言うほど体感した。
出来上がれば数十キロはあるであろう大刀を一日中振り回していればそのうち軽々と扱えるようになるだろう。
筋肉は、まあ、能力を使って弄ればついて無いように見えるし……。
「十手の大きさはどれくらいだ?」
空気が読めてないのだろうかこのお爺さんは。




