六
こどもの日!
はん! 高校生の僕にはただの休日ですね!
祝日万歳! ばんざあーい!
……テストめ
東シナ海を暴走する一隻の船があった。
「ひゃー! すごーい! 速ーい!」
私はその船から伸びる泡を眺めながら声を上げる。そんな私を見ながら、マストの根元に座り込む千尋はうんざりとした声をだす。
「船から落ちるなよー」
「大丈夫だって。千尋も船酔いしてない?」
「するわけねえだろ。ただ、思った以上に揺れるから驚いてるだけだ」
「強がっちゃって」
「うるせえ」
私はひょこひょことデッキの上を移動し、九十九のいる操舵室へ入る。
「ねえ九十九」
「どうした? 酔ったか?」
「違う違う。そんなんじゃないって」
「そうか? じゃあ、なんだ?」
「マストっているの?」
「マストぉ? そうだな……」
九十九は操作パネルから手を離し、しばらく考える仕草を見せる。そして、何か思いついた様に手を叩く。
「いらないな」
「えー」
ずっこけそうになった。
「じゃあ何であるの……」
「さあ? 船って言ったらマストだろ?」
「この船、クルーザーにマスト突き刺したみたいなアンバランスな外見だからね?」
「まあ、不格好なのはわかるけど……」
「じゃあ、斬り落としていいな?」
私は手刀で斬り落とす仕草をしてみる。
「しゅっ! しゅっ!」
「次の目的地についたらなー」
「はーい」
まあ、今斬り落としたら船体が急に軽くなってしまい船が引っ繰り返ってしまうだろう。
……いや、面白そうとか考えちゃ駄目だよね、きっと。
「あ、そういえばさ」
「なに? まだなんかあんの?」
九十九は操作パネルに戻しかけた意識を再びこちらに向ける。
申し訳ないなー、と思いつつも、私はふと思いついた質問をする。
「そのー、目的地なんだけどさ」
「ああうん」
「与那国島だっけ?」
「そうだな」
「……国なの? 島なの?」
「島だよ。質問はそんだけか?」
「ああ違う違う! 今のは違うんだって!」
本気で思いついたことを言ってしまい、慌ててかき消すように両手をバサバサと振る。九十九はそんな私を呆れた目で眺めていた。
「えっと、だから、日本の端っこで、更にその端っこに住んでいる人に会いに行くんだよね?」
「……ああ、簡単に言えば、武具を造ってくれる人だな」
「武具?」
武具って、あの鎧兜に甲冑とか、剣とか弓とか石槍とか……。
「おい待て、石槍って何だ」
「え? ほら、昔本で読んだんだけど、大昔はお城の門を突き破るときはこう、石槍でどーん、って」
脇に丸太程の何かを抱え、それを勢いをつけて九十九にぶつけるジェスチャーをする。
「丸太だろそれ」
「石槍だって!」
「石槍ってのは、想像も出来ないぐらい大昔、そうだな……人が裸でその辺うろうろしてた時代に――」
「は、裸でうろうろ!?」
どんな時代!? っていうか、大昔もなにも既に何も想像出来なくなっちゃったよ!?
「そういう時代があったんだよ」
「うう……恥ずかしい……」
「……なんで燐火が恥ずかしがってんだよ」
「だって……ねえ?」
「えっと……さあ?」
デリカシーのない……。
「と、とりあえず! その端っこの端っこの人!」
「あ、話を逸らした」
「戻しただけなの!」
私は九十九の脳天にチョップを連発しながら抗議する。九十九はそれを片手で払いながら返事をする。
「はいはい。わかったよ」
「むぅー」
「で、その爺さんなんだけど」
「爺さん? おじいちゃんが武器造ってるの?」
「まあな。面白いやつだ」
「ふーん……」
面白いおじいちゃん……。白髪で、髭は無精髭で、笑顔が輝いていて、明るい雰囲気で、微妙な親父ギャグ連発で、頭にはお洒落な帽子かな?
「とりあえず、その爺さんに会いに行くんだ」
「ふーん。何で?」
私がそう言うと、九十九は一瞬目を丸くした後、大きく息を吐き出した。
「…………、はぁー。あのなあ、出発する前に俺、言ったよな?」
「はい先生! 武器を造ってもらいに行くって言われました!」
私は勢いよく手を挙げ、大声で答える。
……ん?
「あー! そういう事!」
「そうそう、そういう事だ」
なるほどねー、と私はしきりに頷く。
「ありがとね!」
「こんなこと、俺じゃなくて千尋に聞け!」
「今度からそうするー」
ひらひらと手を振り、私は操舵室を後にした。
「ううー」
「うわあ!」
デッキに戻ると、獣の唸り声が聞こえた。
「うう……」
「って、千尋?」
しかし、よく聞くと千尋のうめき声だった。
千尋は顔を真っ青にしながらデッキをごろごろしていた。本当に、船が揺れるたびにごろごろと転がっている。
「どうしたの千尋。もしかして、船酔い?」
「もしかしなくても船酔いだよ」
「ふーん。その割にはしっかり喋ってるね」
「根性だ」
「空元気?」
「おい、意味違ってくるぞ」
しかし、意外だ。
私達三人の中で一番の強さを誇る千尋が、まさか船に弱かったなんて。思い出してみれば、鹿児島から屋久島まで手漕ぎボートで海を渡った時も、千尋は若干青い顔をしながら櫂を動かしていた気もする。
これほど真っ青ではなかったけれど。
「……なんだよ」
じろじろと千尋の顔を見ていると、千尋がこちらを睨んできた。
「いや、大丈夫かなー、って」
「平気だ平気。しばらく我慢して思いっ切り吐いちまえばすっきりするだろ」
「そういうものかな……」
「そういうもんだよ。吐いた後は水分補給を忘れなければばっちりだ」
「えー……」
随分と雑な感じがするのだけれど……。
「ま、心配すんなってことだ」
「青い顔で倒れてる人に言われてもなぁ」
「平気だって言っただろ! くぉ……っぷ」
どう見ても平気じゃないのだけれど。
まあ、そっとしておいてくれ、ということなのだろう。
「ん、じゃあ、お大事にねー」
「おう……」
そう答えた千尋の声は、随分と覇気が失われていたのだった。




