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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―参―
67/111

「今日はどうする?」


 寝間着から道着に着替え終わり、朝食の準備をしていると千尋が後ろから声を掛けてきた。そうだなー……。


「久しぶりに山を下りてみない?」

「駄目だ」

「即答!?」


 息つく暇もなかったよ今。

 私はどうしたのさと振り返る。千尋は真剣な眼差しで私を見ていた。


「ほら、前千尋が言ってたじゃん。日本の景色が変わったって」

「それは日本が内戦を始めたから! 今下りたら危険なんだよ!」

「んー、じゃあ、もう少し待ったら下りようか!」

「そう言う話じゃないっての……」


 千尋は頭が痛いと言う風な仕草をする。


「とにかく、当分山から下りない! って言うか、ここ、本気で山だけの島だから下りても何もないと思うぞ」

「あっ、そう言えばそうだったね! ……じゃあどうして千尋は日本の景色を見れたの?」


 山のてっぺんから見たのだろうか。私もよく日本の景色を見るけど、何がどう変化したとかは全く気付けていない。千尋に言われても、疑問符を頭の上に浮かべるしかなかった。


「お前も一緒に見てるだろいつも……」

「ま、そうだけど」


 ウサギの毛皮を剥ぎながら答える。


「……とにかく、駄目なものは駄目だ!」

「はーい」


 私はいつまでも子供じゃないのに、と言う愚痴は口に出さないでおく。でも、私だってもう十五歳だ。もう立派に……、立派に……。


「……胸ってまだまだ大きくなるよね?」


 台所で一人、誰に問いかけるでもなく呟いたのだった。




 ウサギの丸焼きと山菜のサラダが今日の朝食だ。その辺の草を引き抜いて水洗いしただけなので、味の保証は出来ない。いや、ちゃんと裏庭でキャベツ育ててるからね……? 季節じゃないだけだ。


「いつから内戦って始まったの?」

「うん? そうだな……三ヶ月ぐらい前、かな」

「ふーん」


 三ヶ月前、私たちが何をしていたのか思い出して見る。

 …………、今と全く変わらない生活をしていた気がする。自給自足で、千尋に稽古つけてもらって。今と全く変わっていない。


「戦争、なんだよね?」

「どうだろうな。そうならなきゃいいけど、まあ、言ってみれば内紛も小さな戦争だ」

「うーん……?」

「人が人を殺すのが当たり前。戦争は結果が全てだ。『どれだけ相手を殺せるか』、と考えるやつもいるが、そうじゃないと俺は思う。『勝てば良い』。それだけだ」

「勝てば良いの?」


 ならじゃんけんでもすればいいのに。


「アホ。運なんかじゃなく、実力で勝つんだよ。そうしなきゃ、相手を支配できないだろ」

「そういうモノなの?」

「そういうモノなんだよ」


 聞くところによると、外国では太い綱を大人数で引き合い、領土を毎年奪い合ってる市があるらしい。A市対B市なら、勝った市が負けた市の領土を少しだけ貰えると言う、不思議な争い方だった。


「意味あるの、それ」

「プライドを賭けて戦っているようなもんだ。運動不足の解消にもなるしな。これは戦争って言うより、市合同スポーツ大会だな」

「ふへぇ~」

「わかってねえだろ」


 空になった食器で頭を叩かれた。スプーンと食器がぶつかり合い、硬質な音を出す。


「イテ」

「まあ、日本の内紛は少なからず外国も干渉しようとするだろうけどな。徒労に終わると思うぜ」

「どうして?」

「日本帝国様はどの国よりも早く『超能力』を実践兵器として導入した国だからな」


 いわば得意分野にもなっている、そうだ。得意なことがあるのはいいことだと思う。


「まあ、いいことだな。相手より有利に立てるという事だしな」

「えっと、つまり……相手より勝ちやすい戦争が出来るってこと?」

「そういうことだな。長所を伸ばすか、短所をなくすか。日本は『長所』を作ったんだ。『超能力』という、新しい戦争の武器をな」

「…………」

「燐火の超能力なんて、この上なく戦争向きだと思うぞ」

「う……ヤダ……」


 私の能力のせいで人が死ぬなんて、考えたことがなかった。想像するだけでも、怖気がし、言い知れない感情が喉元からせり上がってくる。

 これは一体なんだろうか。


「燐火は優しいな。決して他人を傷付けないなんてさ」

「そうかな?」

「そうだよ。俺なんて、自分を守るために沢山の『人間』を傷付けてきた。それが当たり前だと思ってたからな」


 ……それが。

 ……『普通』、なんじゃないかな。


 私は弱いから他人を傷つけられないだけで、弱いから覚悟が出来ないだけで。

 決して優しくはない。

 私はとても醜いのだ。他人を恨み、他人を妬み、他人を殺そうとも思ったが、怖くて触ることすらできず、結局逃げてばかり。

 現実から目を逸らしながら、自分を守ろうとしてきただけなのだ。


「千尋は優しいよ」


 気が付くと、そんな言葉が出ていた。


「ありがとう」

「でも、山は下りちゃ駄目なんだよね?」

「駄目だ」

「むー」

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