プロローグ―参―
参です。壱ではなく。
弐の時間軸より大分前に遡ります。
「近づくなよ化け物」
好きで……。
「気持ち悪い! 話しかけるなっ!」
好きでこんな……。
「気持ち悪いんだよ、化け物がっ! 調子に乗ってんじゃねえ、よっ!」
好きでこんな体に……!
「触らないでくれるか。汚らわしい……!」
好きでこんな体になったわけじゃないのに!
「死ねよ。このゴミが」
薄暗い路地を私は歩いていた。ボロボロの膝まであるコートを羽織り、少し大きめの帽子を目深に被りながら歩いていた。
前から誰かが歩いてくるのがわかる。しかし、私はさほど気にせず歩を進めた。
「……『人』になりたくはないか、『亜人』の娘」
いわゆる、マッドサイエンティストと呼ばれそうな白衣姿の男性がすれ違いざまに私に問いかける。立ち止まり、振り返る。一目見ただけでわかる怪しさで、関わってはいけないと私の本能が告げる。
「……あなたは私が怖くないの?」
「さてね」
私の問いに男は肩を竦めてみせる。
「私はただの医者であり、ただの科学者だ。そんなことを一々気にしていたらこの職業で生きてなどいない」
「そう」
物好きな人もいたものだ。私は帽子を被りなおし、再び同じ道を歩み始める。目的など無いのに、私はただただ歩き続けようとしていた。
「『人』になりたくはないか、『亜人』の娘」
引き留めるように、男は質問を繰り返す。私は立ち止まり、振り返らず質問に答えた。
「あなたが私を怖がらなかっただけで充分です」
「そうか。また何処かで会えるといいな、『亜人』の娘」
「そうですね」
目を開けると、いつもの天井が見えた。
「……懐かしい夢見た」
昔は一人だった。だけど、今は違う。
今は、大切な友達がいる。もう五年の付き合いになるのだろうか。
私と同じ、亜人の友達。
「起きたか。おはよう、燐火」
「おはよう千尋」
私は欠伸をしながら大きく伸びをする。もそもそと立ち上がり、軽くストレッチをしてから深呼吸をした。肺は夏の朝の空気で満たされていく。
やっぱり、都会に比べると山の空気はとても美味しい。
「今日もいい天気だね」
この章は僕が一番頭を痛めた章ですね。
読めばわかります、その不安定さが……。




