五十八
オレは地面に仙流と曙を置くと、水の結界を周りに張った。
「……武器を使わないでいいのか?」
「……仲夏、って言ったな。確か、北の悪魔、明後仲夏」
オレは軽く体を動かしながら話しかける。その間、明後仲夏は左手をにポケットに突っ込み、ポケットに入れていない右手を無造作に開閉していた。
「……ちっ、有名なのは嬉しいことだけどよ……。全くオレの恐ろしさが伝わっていねえじゃねえか」
彼は左手でがりがりと頭を掻きながら悪態を吐いた。
「――で、お前はこの北海道になんの用だ」
「……人探し、って言ったら逃がしてくれるか」
オレの言葉に明後は首を振る。
「詳しく説明しろ」
「諸事情により、『参幅霧凧』という人物を探している。連れがこの北海道に来れば会うことが出来ると言ったからここまで来た。因みに、連れとは昨晩の雪のせいで散り散りになって、それっきりだ」
『参幅霧凧』の名前を出した瞬間、目の前の彼らの表情が一変する。まるで不快感を隠そうとせず、醜く顔を歪めていた。老若男女関係無く、だ。
明後はオレの言葉を頭の中で反復してから、言葉を選ぶようにして口を開いた。
「あの女狐とお前はどんな関係なんだ?」
「知らん。顔も知らないしそもそも性別も知らん」
うん、女狐ってことは女性ですねはい。
オレは何も言ってないからな。
「お前はあれの仲間ってことか?」
隠そうともしない、じろじろとオレを舐めまわす視線。よほど参幅霧の事を嫌っているらしい。何かされたのだろうか。ならば仕方ないのだろうが、しかしオレにまでそういう視線を向けるのは止めて欲しい。
「……話し合いをする気ないだろ、お前」
オレは苛々と口を開く。
「オレがなんて答えようと、お前はオレを殺すつもりだ。なら、オレがお前の質問に答える必要は無いんじゃないか?」
「……それは、お前があいつの仲間という事で良いんだな?」
「違う。連れがそうしたいと言ったから会いに来ただけだ。オレはそいつとは何の関係はない。強いて言うなら、名字に何らかの共通性が無いとは言えない、と言うことぐらいじゃないのか」
「その連れはお前の仲間だろ? ならお前もアレの仲間ってことだろ」
もっと頭の良いやつだと思ってたんだけどな、とオレは頭を掻く。
「お目出度いなお前の頭は」
「あん?」
「……がっかりだよ」
「なっ! ぁ……」
オレはにんぽーで明後の背後を取ると、そのまま気絶させた。明後はべしゃりと雪の中に倒れる。オレはそれを確認すると、今度は歩いて元の場所に戻った。水の結界を解除して、刀を装備し直す。ずしりとした重さが心地よかった。
「そいつが起きたら伝えてくれ。『待ってる』」
オレはすぐさま明後に駆け寄ってきた少女にそう言い、その場を後にした。
それから一週間経った。北海道は中国や四国、さらには近畿とは大きく違う点があることに気付かされるには、充分過ぎる期間である。
まず、明後が守ろうとしていた町。あれはもはや町と言うより、集落だ。簡単な囲いの中に数十人が集まって暮らしているだけである。オレが北海道フラフラ歩いていると、そのような集落をいくつも見ることが出来た。
いや。
集落の跡、と言った方が正しいだろうか。
廃墟とかした町の一つにオレはいる。明後のいる町からさほど離れていないが、距離はあるだろう。
町の中は勿論、その周囲は何もないと言っても良い。自然物が多く、人工物など最低限の物しかないのだ。娯楽のための玩具などは一切ないわけではないが、それらはどう見ても木を削って出来た物だ。
科学があまり進んでいない、とでも言えばいいだろうか、北海道だけ、日本帝国から切り離されている気がしてならないのだ。
この異常な気候だって、各所に天候を調整するための機械を配置すれば安定する。作物だって、それなりの設備を整えれば一年中様々なものが収穫できるはずだ。それなのに、北海道の人はそれを実行しようとした形跡すら残していない。
狂っているのかと思ってしまう程、原始的な生活だった。唯一科学が生きているものがあるとすれば、建築と服飾の技術ぐらいだろう。どれだけ雪が降っても潰れずに生きている家々には感服する。
「っと、やっと来たか」
オレは町の広場のベンチに腰掛けながら口を開く。首を右に向けると、赤と黒の見知った人影が見えた。
「……来てやったぞ」
「遅かったな」
「散々探し回ったからな」
オレはベンチから立ち上がる。先ほどまで座っていた場所に刀を二本とも置きながら、オレは明後に話しかける。
「……オレはお前と殺し合いをしたいわけじゃない。だが、お前はそうじゃないんだろ?」
「まあな。オレはお前を殺したい。……いや、消し飛ばしたい」
明後の右手が動く。
「……お前、科学が憎いか?」
オレは明後の目を見据えながら、一つ問いかける。
その問いに明後は即答した。
「憎いね! だからオレは北海道にいるんだ」
「そうか。なら、一つ昔話をしてやろう」
「ああ?」
オレの突拍子もない発言に明後は不思議そうな顔をする。嫌そうな顔をしているが、どうやら聞く気はあるようだ。なので、オレは言葉を繋ぐ。
「そうだな。これはとある機械仕掛けの少年の話だ――」
6月2日 改稿
ルビを振り直しました




