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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―弐―
64/111

五十九

「…………」

「…………」


 話が終わると、オレ達はお互い無言で立ちすくんでいた。

 指一つ動かさず、お互いの呼吸音が、もしかすると心臓の鼓動まで聞こえてしまいそうなほどの静寂が生まれる。


「……おま、え……」

「なんだ」


 しばらくしてから、明後は震える手をどうにか持ち上げると、がくがくとオレを指差した。


「あ、ああ、あ……」


 次第に明後の顔は青くなっていき、目もぐるぐると焦点が合わなくなってきた。しかし、オレは彼を見守り続ける。



「ぁあ…………!」



 突然明後は滝のような涙を流し始めた。そのまま地面に崩れ落ちる。オレは驚いて、慌てて駆け寄る。


「なっ! 大丈夫か!?」

「あ……! あああ……! やっと……! やっとお……!」


 オレは嬉しそうに泣き続ける明後に対しかける言葉を見つけられず、彼が泣き止むのをただただ待つのだった。




「悪いな、驚かせちまって」


 地面に胡坐を掻きながら、目を赤くした明後が照れた風に言う。

 オレは能力で形状を定めた水を差しだす。明後はそれをおっかなびっくりと言った様子で受け取った。そして、一気に口に放り込む。


「気にしていない。ところで、優夏って誰だ?」

「ぶふぉ!」


 そして、勢いよく吹き出した。オレはそれを能力で受け止めると、無理矢理明後の口に押し返した。


「がぼぼっ!」

「雰囲気から察するに、大切な人みたいだけど、ようするに四国の医療技術が必要ってことか?」

「げほっげほっ! ……っと、まあ、そんな感じだ」


 咽ながらも、明後はどうにか言葉を返してくれた。その様子に苦笑しながら、オレは話を続ける。


「そうか。意外と現金なんだな」

「なっ……!」


 明後は目を見開き、オレの顔を睨む。


「ま、たかが人間一人の命なんて、って考えが染み付いちまってるからな。オレからしたら命の話は途方もなく『軽い』んだ」


 オレの呑気な言葉に、明後は怒りを覚えたようで、わなわなと拳を震わせながら立ち上がった。


「この……! 俺達からしてみたら命は何よりも重いんだ! この北海道では風が吹けば吹き飛んでしまう程儚い命だからこそ、だからこそ何よりも尊い命なんだよ! 人間だけじゃねえ、動物だって、植物だってそうだ! それだって言うのに、科学だ、科学だ騒ぐ奴等はそんなこと――」


「お前らは、嫌な奴のことは人間とすら思っていないじゃないか。身内を贔屓して、外部は排斥する。動物的に見れば素晴らしいが、人間的には醜いったらありゃしないな」


「――――っ!」


 明後は言葉を失う。驚愕ではない。侮辱された怒りによってだ。

 それを見て、オレは思わずにやりと微笑んでしまう。

 ――付け入る隙が出来た、と考えて正解かな。


「……てめぇ、この……!」


 怒りのままにオレを攻撃しようとする明後。オレはそんな彼を言葉で制止した。まあ待て、と。


「だが、お前らも人間だ。それに、もう知らない仲じゃないし、オレだってお前らには恩がある。その恩を返すには、どうやらお前の大切な人を健康体にしてやらなければならないようだな」

「……本気で言っているのか?」

「ああ。そうだな……」


 オレは少し間を開ける。その間に、この戦争をいつ終わらせることが出来るか単純計算してみる。

 一週間で参幅霧達と合流だろ、それから三ヶ月で東北を抜けたいな。確か、今の時期は太平洋側を行った方が天候的に楽なんだったな。一ヶ月で関東を抜けるとしよう。次は中部か。空から見た限り、中国や四国と同じで廃墟ばかりだったから、上手くすれば四ヶ月で抜けられるな。近畿の壁はこの際壊してしまえ、と言いたいがそうもいかないらしいし、越えるしかないか。壁越えはすぐに済みそうだな。ふむ……。親玉を倒すのは一週間あれば事足りるか? 別に総力戦をするわけじゃないんだ、それに、壱と弐と参がいればすぐに終わるだろう。ほとぼりが冷めるまでにまた二、三年掛かりそうだな……。まあ、オレには関係ないな。


 ならば、ここに戻ってくるには最低二年は掛かるという事か。


「二年だ。二年待て」

「……一年にしてくれ」

「一年か……」


 思わず苦い顔をしてしまう。これは若干自己中心的な性格の壱乃樹を急かすしかないか。


「善処する」

「頼んだぞ。……っと」


 明後が少し気恥ずかしげな顔をする。どうしたのだろうか。


「そういや、自己紹介してなかったな。俺は明後仲夏。優夏は妹だ」

「そうか。オレは弐騎継被」


 言われてみれば自己紹介はしていなかった気がするな。


「今は四国とは全く関係ない人間だが、一年後はそうではなくなってるだろうな」

「そうだと良いけどな」


 オレはそう言えば、と付け足す。それを聞いた明後は嬉しそうに微笑むと、突然踵を返しその場から立ち去って行った。彼は数歩歩いたところで立ち止まり、肩越しに振り返る。


「あの女狐なら、この角を右だ」


 それだけ言うと、また歩き出してしまった。


「……そうだな。あいつの妹の為にも、急ぐとするか」


 何故か信長の顔が頭の中でチラついたが、きっと気のせいだろう。あいつは自称妹ってだけだ。

 オレはベンチの刀を手に取ると、装備はせずになんとなく手に持ったまま参幅霧に続くであろう道を歩み始めるのであった。




















TO BE CONTINUED……

 第一部・―弐―、完!


 始めの頃の文章量と今の文章量を比べてみると、思わずニヤってなります。

 骨と皮だけの文章にちょっと肉付けしただけの本文が、ここまで長くなったんですから。目標原稿用紙三枚が、いつの間にか五枚、六枚は普通、ですからね。


 さて、この十一ヵ月間、ご愛読ありがとうございました。愛読者は数えるほどだとは思いますが、たった数人の方々のおかげでここまで書き続けることが出来ました。

 果てしないほど感謝です。


 第二部ですが、四月から開始したいと思います。

 これまで以上のものが出来るとは思えませんが、精一杯やらせてもらうので、温かい眼差しでどうか見守り続けてやってください。

 では、また後ほど……。




6月2日 改稿


 前ら→お前ら

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