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武技憂気日本大戦  作者: 囲井 鯀
―弐―
58/111

五十三

 2月14日ならもういないですよ。

 ……………。


「要するに、ここから出たいってことか?」

「うん、僕の説明が五秒足らずで纏められちゃったね」


 まあ、事情は大体分かった。生まれてこの方この施設から出たことが無い常夏月は外の世界を見てみたい、というのが建前らしい。

 本音は知らないが、大方敵情調査だろう。まあしかし、上手いことやって近畿の最大の難関、『全てを知る常夏月』を殺せれば儲けものだろう。


「ま、問題はその方法だがな……」

「正面突破でいいんじゃないか? 敵さん、九のお陰で此処に入って来れないみたいだしな」

「……それしかないか」


 オレはあたりを見渡し、武器として代用できるものが無いか探す。


「無理だよ、ここにある凶器と言ったら、机と椅子ぐらいだもん」

「そうか、じゃあ、壱乃樹は椅子を両手に持て。オレは机を担いで戦う」

「いやなんでだよ! もっと考えてみようぜ!?」

「時間がない」

「いや、たっぷりあるだろ……」


 そういう事じゃない。

 いくら常夏月という上司の命令でも、所詮は子供。いつ痺れを切らして乗り込んでくるかわかったものじゃない。

 それに、早くこの戦いを終わらせなければならないのだ。

 この戦いで苦しんでいる人々のためにも。


 千夜のためにも。


「ほら、つべこべ言ってないで行くぞ」


 オレは机を引っ繰り返し、上にあるものを全て床に落としてから机を担ぎ上げる。


「やれやれ」


 壱乃樹はオレが落としたペンや定規などをパーカーのポケットにしまいながら呟く。ひとしきり作業が済んだところで、壱乃樹は片手に二つずつ椅子を持った。


「うし、俺はいつでも」

「そうか」

「がんばってー」


 オレは扉の前に立ち、何度か大きく息を吸う。


「――はっ!」


 担いでいた机をアルミニウム製の扉に投げつけ、木の机は扉を破壊する。しかし、それだけでは収まらず、木で出来た机は扉を吹っ飛ばしながらも恐ろしい勢いのまま廊下を直進し、廊下で待機していた何十人もの衛兵を肉塊へと変えてゆく。

 オレは更に二つに割られたアルミの分厚い扉を生き残りに向かって投げつけ、その命を散らす。


「おいおい、やり過ぎじゃないか? 廊下が真っ赤じゃないか」

「大丈夫だ」


 オレは廊下の奥に立つ巨大な影が木の机を投げ返すのを視界の端で確認しながら、床の血を操り、自分の周囲に待機させる。


「っ! 伏せろ!」


 轟! と派手な音を立てながら木の机はオレ達の頭上を飛んでいく。


「な……! こ、被!?」

「大丈夫だ! 机が返ってきただけだ!」

「大丈夫じゃねえよ! お前もお前でおかしかったけど、あっちの方がよっぽどおかしいじゃねえか! コンクリートの壁に巨大な穴が開いてるぞ!」

「……は?」


 立ち上がりながら振り向くと、確かに壁があったと記憶している場所に大きな穴が開いていた。奥に部屋があるようで、部屋の壁が歪み床には木片が多数散らばっていた。人はいないようだった。


「秀吉の仕業だね」

「秀吉……?」


 オレは信長を思い起こしながら廊下を見る。すると、二メートル超の服の上からでもわかるほどに筋骨隆々な大男が死体を踏みながらこちらへゆっくりと歩いてきていた。その眼はまるで鬼の様に光り、全身から溢れんばかりに殺気を出していた。


「……あれがか?」

「そうだよ」

「…………」


 想像していたのとは真逆の光景が見えたため、一瞬呆けていたが、しかし秀吉と言われた男から発せられる殺気にオレは息を呑んだ。

 オレはゆっくりと立ち上がり、血で刀を造り構える。


「壱乃樹……」

「どうした」


 オレは秀吉を睨みながら、後ろで構える壱乃樹に話しかける。


「そこの小さいのを連れて武器庫へ行ってくれ」

「被、なにばかなことを――」

「任せろ。策ならある」

「……出来るのか?」


 壱乃樹がそう問うのと同時に、常夏月は壱乃樹の背中に乗る。


「出来るよ、弐騎継君なら」

「ほら、常夏月が言ってるんだ。何より信頼できるだろ」

「そうかあ?」


 どうやら、壱乃樹は常夏月のことを知らないらしい。


「そういうことなんだよ」

「わからんよ。だが、まあいいさ」


 壱乃樹は椅子を砕きながら、左腕で椅子の破片を喰らう。

 相変わらず、奇妙な左腕だと思う。物を喰らってエネルギーを作るのではなく、発生しているエネルギーを喰らって自身のエネルギーにしているのだ。流石は超能力、と言ったところだ。


「期待してるぜ、被」

「するな。さっさとオレの武器を取ってきてくれないと、改革は出来ないぞ」

「わかってるって」




「……名を何と申す」


 目の前の秀吉のプレッシャーに圧倒されていると、野太い声で秀吉が問いかけてきた。腹の底が震える様な、低い声であった。


「に、弐騎継被、だ」

「心得た。俺は秀吉」

「そうか」


 オレは呼吸を整え、秀吉の殺気を全身で受け止め、少しずつ慣らしながら心の動揺を抑えていく。


「……弐は捕らえろと言われているのだがな、俺は見ての通り不器用だ。骨の十本二十本は覚悟してもらおうか」

「こんの……」


 捕らえる、という部分に引っ掛かりを覚えながらも、秀吉の言葉に思わずたじろぐ。桁が一つ違わないか?



「――いや、弐は骨がなかったのだったな」



 その瞬間、全身の感覚が吹っ飛んだ。


「がふッ……!」


 オレは身体が腕と脚から離れていくのを見ながら、部屋をいくつも突き破り後ろに吹き飛ばされる。そして、しばらくして壁に突き刺さってオレは勢いを失った。


「…………」


 自分の身体が高速で再生されるのを感じながら、オレは声を出そうとする。

 ――冗談じゃない。


 オレは血を引き寄せ、形を崩してから口の中に流し込み、再生のための材料にする。


「しぶとく生きていたか。だが、その方が助かるというものだ」

「…………」


 ああ、駄目だ。勝てない、のか? 策すら披露できずにやられるのか?

 オレは意識が加速していくのを感じた。おそらく、アドレナリンのお陰だろう、体も少し楽になってきた。

 秀吉はオレの腕や脚を壁に埋まっているオレの前に投げ捨てる。


「大人しくしていろ。すぐ戻ってくる」


 そう言うと、秀吉は踵を返し歩き出した。


「……クソッ」

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