四十九
「土の中……?」
「ああ。地中深くに埋めておいた」
馬鹿、流石に土の中は拙いだろう。
「なんで土なんだよ」
「土に還さないとだろう?」
「あれは川に流した方がいいんだ。もしくは晒し首だな。あれは確実に殺さないと生きて帰ってくるぞ」
「む……? そうなのか?」
「ああ。そこら中引きずり回した後に軽く首の骨を折って橋に逆さ吊りしておいてもいいぞ」
「被……」
何やら呆れたような表情が千夜の顔から窺える。きっと気のせいだろう。そうに違いない。
「仲間ではなかったのか? あれはまるで被と仲間だ、みたいなことを申していたぞ?」
「仲間だぞ? 土の中より、地上に居た方が回収しやすいだけだ」
「そうか、では帰るぞ」
「ああ、じゃあ――」
「待たぬか」
失敗。どうやら簡単には行かせてもらえないようだ。
まあ、自称だけれどあいつは化け猫だ、生きて帰ってきてくれるだろう。むしろ、帰ってきてくれないと困るのだが……。
その前に、千夜をどうにかしなければならないのが関の山だ。
「悪い、雀から聞いていないなら言おう。オレと関わらないでくれ」
「聞いた。知ったうえで言っておるのだ。一緒に帰るぞ」
「だから、オレは言うなれば国家転覆を計っていてだな――!」
「ならば私も一緒に連れて行ってくれ!」
「――――!」
頭を殴られたような衝撃が走る。必死に叫ぶ千夜の表情にいつかの早苗さんの表情が重なる。とても哀しく、切ない表情が浮かぶ。
置いて行かないで欲しいと、こちらに訴えかけてくる表情だった。
「っ! 駄目だ! オレは千夜を巻き込みたくない!」
「私は被になら巻き込まれてもいい!」
「そういう問題じゃないんだよ! これは戦争なんだぞ!」
「それがどうしたというのだ! 戦争が悪いならそんなものさっさと終わらせてみせようではないか!」
「それじゃ駄目なんだよ! オレ達がやらなきゃならないんだよ!」
オレ達でなきゃ駄目だって、歴史が証明してるだろ!
「何故だ! 何故駄目なのだ! 自分の中だけで話を進めるでない!」
「何故って、そりゃ……」
……何故、だ? そう言えば頭の中に刷り込まれていたように、聞いたこともない知識が口から飛び出してきた。
歴史が証明している? 世界の歴史どころか、日本の歴史すらオレは知らないのに、一体何を口走っているのだろう? そもそも、一体誰から、オレ達がやらなきゃならないなんて言われた? あの夜、壱乃樹は似たような事を言ってはいたが、あの時は『俺達が最良だ』としか言っていなかった。
……弐の記憶、とはまた違う、刷り込まれた異質な知識。
あとで詳しく調べる必要があるだろう。
オレの戸惑いに気付いた千夜が笑みをこぼす。
「理由などないのだろう? ならばあの猫の遊びに付き合ってないで、こっちに帰ってこないか」
……遊び?
「違う……」
「違う? 何が違うというのだ。被だって、理由がないと認めていたようなものではないか」
「違う……、違う……! 遊びなんかじゃない!」
「じゃあなんだというのだ!」
「オレはオレのやりたいことをやっているだけだ!」
「さっきと言っていることが違うではないかっ!」
「っ!?」
ゴッ! と鈍い音とともに視界が大きく揺れ、次の瞬間激しい痛みが全身を襲った。
「ち、千夜……?」
「これは戦争なのではなかったのか!? 貴様の覚悟はその程度か!」
「くっ! 『水による多重結界』!」
殴りかかろうとする千夜に水の結界を幾重にも張る。千夜の拳が結界を殴り、血を滲ませた。
「……何処で覚えた?」
「オレだって今の今まで寝てたわけじゃない」
「そうか……」
千夜は隈が色濃く残る顔に笑みを浮かべる。
「だが、『私はこんな結界など容易く打ち破ることが出来る』」
千夜が水の結界を指でなぞっただけで、結界は粉々に砕け散った。それを確認する前にオレは立ちあがり、千夜に背を向けて走り出した。
「待たぬか!」
「オレはここで立ち止まるわけにはいかないんだ!」
背後で千夜が飛ぶ音がする。振り返らなくてもわかる。
跳んだのではない、飛んだのだ。
「『水式多重結界其之壱〇』!」
両手で印をきるようにして水を操作する。しかし所詮はオレが操作する水。目眩まし程度に働いてくれれば充分と言ったところだろう。
「効かぬわ! 『私はその程度の障壁など容易く砕くことが出来――』!」
空中に浮かぶ千夜の目の前に現れた水の壁。それを砕かんと千夜が拳を固めた刹那――!
「『不知火にんぽー第一の奥義』! 『爆』! 『散』!」
「なっ!?」
そうだな。不知火に感謝だな。




