四十七
――出会いとは一期一会である。
――当たり前だと思っていた強固で絶対の関係は、ふとした拍子に崩れ去ってしまう浜辺の砂で作ったお城ほどに脆いものである。
――振り返れば、一生なんて一瞬であったと思ってしまうような一生は送りたくないが、私の半生なんて一瞬であった。
――このまま寝てしまえば、逃げられるだろうか。
――目が覚めると、昨日と同じ様な景色が広がっていた。
――おかしなところなんて一つもないが、あえて挙げるとするならば、この世界はおかしすぎる。
「――――は?」
何かが頭の中に流れ込んでくるような感覚。
思わず立ち止まり辺りを見渡すが、人影はない。
「気持ち悪いな、全く……」
溜め息を一つ吐き、近くの屋根まで飛び上がる。
他人の思い・感情の受信は壱乃樹の体質じゃなかったか? 参ったな、会ってからずっとべたべたされてたから伝染したかもしれない。
まあ、体質って言ってもあれの場合は特異体質なのだから、うつるなんてことは無いだろう。そもそも体質は伝染しない。
と、なるとだ。さっきの奇妙な感覚の正体はおそらくあいつだろう。
「何をした?」
『さっきのはオレじゃない……。君の中に眠る記憶だよ……』
「オレの? 明らかに女性の声が混じってたぞ? しかも聞き覚えのない」
『前世の記憶、とはまた違う……。弐の記憶ともまた違う……』
「何が言いたい?」
前世? 弐? 弐ってオレ以外に居たのか?
『壱も弐も参も、皆創られた者たちなんだよ……。ただ、壱に関しては先代までの話だけどね……』
「…………、壱乃樹は例外ってことか」
『そう、例外中の例外だよ……。なにせ、あれは天然物だからね、何処から湧いて出て来たのやら……』
「天然物ぅ? 馬鹿じゃないのか?」
さっきから何を言っているんだこいつは。天然物ってまた、なんだか難しい表現を使いやがって。
『自分に対して馬鹿だと言ってることに気付きなよ……』
「オレはお前じゃないし、お前はオレじゃないだろ。……っとと」
知ってる顔が見えたので屋根の上の死角に潜り込む。
あのよくわからない格好、どう見ても信長だった。不味いな。あいつ、オレを見つけることに関しては千夜にすら勝っている。捕まえることに関しては千夜だが。
たった一週間一緒に居ただけの奴を三年も会っていない状態で見つけ出すことができたら、信長は本物だろう。オレの妹認定してやってもいい。
オレに妹なんていないけど。
しかし、そろそろ日も暮れてきた。早く壱乃樹は迎えに来ないかと考えながらもう一度屋根の上から顔を覗かせると、信長のツインテールが十字路の角に消えていくのが見えた。
とりあえず、今はこいつに一つ一つ聞いていかなければならない。
「で、弐の記憶ってなんだよ」
『それはだね……』
しばらくしたころ、オレは壱乃樹を迎えに行くために開けた通りを歩いていた。屋根伝いではなく、自分の足で歩いてみたくなったのだ。別に変な感傷に浸っていない。
ただ、時が満ちた、と言えばいいのだろうか。そろそろ壱乃樹の頼み事も決着がついているころだろう。




