四十五
あけましておめでとうございます。
今年は、えっと、午年ですかね?
オレは一つ咳払いをする。やけに口の中が乾いた。
「ええっとだな、端的に言えば、オレは中国地方とか四国地方とか全部ほっぽりだして、ここに逃げてきたんだ」
「で、あの壁が邪魔でこれ以上逃げられなかった、と」
「違う」
「あ、そうなんだ」
驚いたような顔をするな。……あながち間違っていない気もするけどさ。
「うーん、よく生きてたね!」
「馬鹿にしてんのか」
あと笑顔になるな。
「いやでも、ほらこれ」
そう言って、勉強机の上にある宝石箱から一通の手紙を取り出した。
「この宝石箱、綺麗でしょ」
「そうだな」
妥協などせずごちゃごちゃと宝石で飾りたてまくったうるさい宝石箱だ。
「はい、手紙」
「……なんだこれ?」
それよりも雀の方が挙動不審なのではないかと心配になってきた。
「早苗さんからって千夜ちゃんから貰ったんだ」
「…………?」
……は?
イマ、ナンテイイマシタカ?
「千夜から……?」
「うん、一昨日」
「おと、とい……」
昨日の乱闘も気付かれているに違いない。千夜の知っている俺はあそこまでのことは絶対にできないが、勘の鋭い千夜のことだ、オレがあの破壊事件に絡んでいることも気付いているはずだ。
つまり、探されているという事になるだろう。
勝手に逃げ出してきたのだ、連れ戻されるのも当然だ。
「どうしたの? 血相変えちゃって。怖いの?」
「怒った千夜が怖くないのはあいつの両親だけだよ……」
「あはは、わかる……」
病院時代を思い出したのだろう、雀も顔に影が差す。
カチリ、と部屋の時計の針が十二時丁度を指し、文字盤の前で機械仕掛けの人形が踊り始める。
「お昼にしよっか。今日のお昼はカレーライスだけど、食べてく?」
「ああ、できれば食べていきたいな」
「うん、食べてって食べてって。張り切って作っちゃう!」
そう言って雀は力こぶをつくる真似をする。
「そうだな、沢山作ってくれるとありがたい」
「お任せ!」
雀は嬉しそうに小走りでドアに向かう。
それを見て、オレは腰をあげた。
「…………?」
何故か雀はドアの前から動かない。
「ニノ……」
「なんだ」
「……お腹、空いたね」
「そうだな」
「……少し、寒いね」
「……そうだな」
「…………」
「…………」
沈黙が生まれる。
「――あのさっ!」
「おう」
「ニノって、もうすぐどこか行っちゃうんだよね?」
「……そうだ」
千夜に連れ戻される可能性の方が高い気がするが、オレにはやらなければならないことが出来たのだ。だから、北海道に行かなければならない。
それが無茶であったとしても。
「……あたしも、連れてってよ」
そう言う雀の声は、涙で濡れていた。
「あたしも連れてってくれないと、ヤダよ……」
「……駄目だ。これはオレと壱乃樹の問題だ」
「でも……!」
雀はドアに額を当て、静かに泣きじゃくる。
オレは雀の背中にそっと手を当てる。
「本当に、雀は何も変わってないな」
「うるさい、うるさい、うるさい……!」
「だけどな雀、オレ達がしようとしていることは、州境の警備とか、他の州への牽制とか、そんなこととはわけが違うんだ」
「オレ達は、今の日本を引っ繰り返そうとしているんだ」
「失敗すれば、オレだけじゃない、雀や千夜、早苗さんだって悪者になってしまうかもしれないんだ。それを避けるために、オレは四国から縁を切ることだって考えている」
「嫌だよ! なんでそんなこと言っちゃうの?!」
「皆のためを思ってだ」
「詭弁だよ!」
「そんなことばかり言ってたら前には進めないんだ」
「嘘よ……」
「嘘かもしれない」
「だったら……!」
「――でも、嘘から出た真、っていう言葉もある」
嘘でもそれを真実と立証できるだけの根拠を用意してしまえばそれは真実なのだ。嘘を真実と言い張り、誰も信じてくれないのならば自分で嘘を真実にしてしまえばいいのだ。
可能性なんて、後から考えればいいと壱乃樹に言われたっけ。
「でも、嫌だよ……。いなくならないでよ、ニノ……」
「悪い。でも、オレが決めたことなんだ。壱乃樹の言う『世界の変革』の第一歩を完成させると、オレが決めたんだ。な?」
「ニノが……?」
「ああ。こればっかりは嘘じゃない」
「うん……。信じる……」
ずきりと胸が痛む。
それを誤魔化すようにオレは雀の肩を抱きしめた。
「だから……、行かせてくれ」
「…………ヤダ」
「頼む」
「…………。何でもする?」
「出来る範囲でなら、何でもするさ」
「……じゃあ、さ」
ぐしぐしと雀が目に溜まった涙を拭う。
「キスして」
いや、ちょっとした出来心で……。
最後の一言、わざとじゃないですよ?
不人さんが勝手に言ったんですよ?(震え声)




