武技憂気日本大戦 Xmas.ver No.2
一話一話の文字量は少ないので、さくさく読めると思います。
まあ、いつものことだと思いますが。
昼。オレは午前の授業を終え、お昼を食べるために病院内にある小ぢんまりした食堂に来ていた。
授業と言っても大したことはしない。いや、むしろ年が大きいオレや雀、おとぎ達が先生の代わりにここに入院している子供たちに絵本を読み聞かせたり、計算問題をさせたりしている。
『先生』がオレ達三人しかいないのに対し、『生徒』は十人以上いる。また、年齢層も多少ばらつきがあるので扱いが難しい子供も幾人かいる。
しかし、意外と面倒見の良いおとぎのおかげで、彼らもだいぶ他の子供たちと打ち解けているみたいだった。
「そう言えばさ、ニノはサンタさんに何を頼むの?」
昼食を食べ終え、窓の外を見ながら、もうすぐ昼寝の時間だけどあいつ等眠る気ないな……、などと考えていると、前に座って昼食を食べていた雀が話しかけてきた。
「は? 何言ってんだ? まだそんな時期じゃないだろ?」
「いやいやいや、今日はクリスマスイブだからね?」
「……おお」
そう言えば、最近髪を切ったばかりの知己が熱心に「被兄ちゃんの弟になるんだ!」と言っていた気がする。聞けば、「サンタさんは何でも願いを叶えてくれるんだよ!」と興奮していた。
サンタさんは子供の物欲しか叶えられない、と教えてあげれば良かったなと今頃後悔する。可哀相に、知己……。
「オレは絵本を頼んでおいた気がするな……」
「ふーん?」
忘れてたんじゃないの? と雀が目で問いかけてくる。
「……去年」
「去年!? なにそれ、予約制!?」
雀は驚きのあまり声を荒げる。それを隣で見ていたおとぎはははは……と渇いた笑い声を出した。
どうしたんだ、こいつ。
「やけに元気がないな、おとぎ。どうしたんだ?」
「うん? いや、ね……」
今にも泣きそうな表情をしながら、おとぎはオレから顔を逸らすように窓の外を見た。オレもつられて窓の外を見る。先ほどよりも雪が酷くなっていた。しかし、子供たちは楽しそうに雪遊びをしている。
おい、今誰か雪食わなかったか?
「あの馬鹿栗毛……」
オレは雪を食べて楽しそうに笑う糸子を睨みながら呟く。糸子につられて他の子供たちも雪を食べ始める。それを発見した事務の斉藤さんに皆、頭を叩かれ部屋に強制送還させられた。
しかし、子供はどうして何でも口に入れたがるんだろうな? おとぎが何でも振り回してみるのと同じ原理なのか?
「あ、わかっちゃったかも」
雀は急に手を叩いて呟いた。
「何がだ?」
オレは自問自答していたことが口に出ていたのか、と少しどぎまぎしながら雀に問う。
「おとぎが泣いてる理由」
「泣いてないから!」
泣いていると指摘されたおとぎは勢いよく立ち上がり反論する。その目尻には水滴が少し溜まっていた。
……泣いてただろ。
「さっき、ニノのことぶっちゃったでしょ?」
「ん? ああ、確かに殴られたな」
「はぅう!」
何故かおとぎは胸を押さえながら椅子にへなへなと座りこむ。今の言葉の何がそんなに駄目だったんだよ。
「ほら、サンタさんって良い子にしかプレゼント渡さないでしょ? でも、おとぎはニノに思いっ切り暴力振ってたじゃん」
「ううー、言わないでー」
「はー、それでか」
つまり、良い子にしなかったおとぎ『だけ』プレゼントがこないことが悲しいのだろう。まあ、世界は平等だと言うし、等価交換も成り立っているのだ。
良い人には褒美を。悪い人には罰を。当然のことだ。
だがまあしかし、サンタさんも寛容なお方なのだ。ちょっとやそっとのやんちゃぐらい、大目に見てくれると思うのだが……。
「まあ、来年頑張れや」
「ぐはぁ!」
薄情なぁー、とおとぎは涙目でオレを睨む。
雀は雀で、子供をあやす様におとぎの頭を優しく撫でていた。
「今年の分を取り返すつもりで良い子にしていればサンタさんも良いものくれるだろ」
「ほんとに!?」
がたりとおとぎが立ち上がる。オレはそれを尻目に、三人分の食器を片付けるために立ち上がった。
「ああ。嘘はない」
やれやれ。後で院長に言っておとぎのプレゼントに『サンタさんからの慰めと戒めの手紙』でも入れてもらうか。
夜。何故か今日は千夜が来なかったことを疑問に思いながらも、オレはオレの病室にやってきた子供達と遊びながら、パーティが始まる八時を待った。
「被兄ちゃん、一緒に遊ぼ!」
知己がオレの右腕を掴み引っ張る。
「ヤダ! 被兄ちゃんは私と遊ぶの!」
糸子がオレの左腕を掴み引っ張る。
「駄目だよ! 僕が先に言ったんだから!」
「でも先に部屋に入ったのは私でしょ!」
いや、同時だろ。
「でも、僕が先に言ったんだから!」
「嫌よ! 被兄ちゃん、私と遊ぼうよ!」
「だーめ! 僕と!」
僕が、私が、と二人は言い争いを続ける。放って置いても収まりそうにない。
なんなのこいつら。
「落ちつけ二人とも。仲良くしないか」
「「えー」」
二人は声をそろえて抗議する。
「三人で出来る遊びを考えろ。オレも考えるから」
オレは二人の頭を撫でながら言う。二人が嬉しそうにするのを見て、オレは思わず笑みを零した。
「そうだな、しりとりって言うのはどうだ?」
オレは床に散らばる、病院の本棚から借りてきた絵本を整頓しながら提案する。
「やる!」
「私もする!」
本が読むのが好きな二人はすぐに食いついた。こういう遊びは案外やってみると楽しいので、オレも好きな方だ。
「よし、じゃあ――」
しりとりのり、からだ。
そう言おうとした矢先、部屋に設置されたスピーカーから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『皆さん』
それは、身寄りのないオレ達を一生懸命世話してくれる、院長の声だった。柔らかい声がとても心を癒してくれる。
『パーティーの準備が出来ましたよ。すぐに、食堂に集まって下さい』
時計を見ると、ちょうど短針が八時を指したところだった。
「……残念だけど、この続きはまた今度だな」
「えー、そんなー」
「やだー」
「聞き分けのない子供にはサンタさんは贈り物をしないそうだ。ほら、行くぞ」
オレは知己と糸子を連れて食堂へ降りていった。
他の病室からも、続々と人が溢れて来る。
「こらこら、あんまり走るなよ」
「はーい!」
注意されて走るのをやめるが、しかしそわそわと落ち着かない子供たちが殆どだ。早くプレゼントが欲しいのだろうが、プレゼントはいつももみの木の根元にどさりと置かれてるだろう。まあ、看護師さんたちから手渡しで貰うプレゼントも嬉しいけどな。
今年は何が貰えるかなー、と考えながら食堂に入ると、去年よりも豪華な飾り付けで少し驚いた。
が、よくよく見ると、去年の物も使い回されていたりして、逆に微笑ましかった。オレは二人のチビを引き連れ席に座る。
すぐに皆が集まり、院長の短めなあいさつでクリスマス会は始まった。
「おい、妙に重いと思ったら、誰だプレゼント交換に骨壺出したやつ」
プレゼント交換という一大イベントが始まり、音楽に合わせて皆のプレゼントを回していたのだが、妙に重い壺のようなプレゼントが回ってきた。
「骨壺じゃない! 漬物だ!」
「お前かおとぎ! しかも中身がなんで子供に喜ばれないモノなんだ!」
オレはおとぎのプレゼント(?)を横に回しながら叫ぶ。子供たちが若干嫌な目線でそれを見ていた。
「お、美味しいじゃないか! たくあんとか!」
「美味しいけど、漬けた状態でプレゼントするか、普通?」
「うぐ……」
可愛げがあると言えばあるのだが、あの馬鹿力を基準にされたんじゃあ参ってしまう。せめてクッキーの詰め合わせとか、缶ジュース一箱とか虫歯が心配になる重いプレゼントにしろよ……。
しばらくすると音楽が止まり、それぞれの手にプレゼントが収まった。
ちなみに、おとぎのプレゼントは看護師の一人の手に渡った。すごく渋い顔をしていたが、美味しくいただくと言っていた。いい人だと思う。
「んー? これは……」
オレのプレゼントは『長靴を履いた猫』と言う題名の絵本だった。漢字の上に振り仮名が振ってあるので、どうにか読めた。
「これは、本棚にないやつか」
どうしたものか、サンタに絵本を頼んだはずなのに、プレゼント交換で絵本が来たぞ……。まあ、いいか。皆の読む本が増えるのはいいことだ。
「被兄ちゃん、絵本貰ったの?」
隣の知己がオレの持っているものを見ながら問いかける。
糸子も興味深そうにオレの持つ絵本を覗き込んだ。
「ああ。『ながぐつをはいたねこ』っていうらしい」
オレは二人に絵本の表紙が見えるようにする。
「……外国のお話らしいな」
オレは作者名が片仮名な事に気付いて、そんなことを付け足した。二人は目を輝かせる。
「すごい、読んで読んで!」
「ねえ、被兄ちゃん、早く読んで!」
二人は両側からオレの服の袖を引っ張り、しきりに催促する。
「落ちつけお前ら。また後で、な。今日の夜はクリスマスに関連した絵本を沢山読んでやるから。わかったか?」
「えー」
「そんなー」
残念そうにしながらも、二人は席に座りなおす。そして次の瞬間、手元のプレゼントを自慢し始めた。そりゃあもう、驚きだ。
やれ人形だ、やれメモ帳だ。思い思いに口を開く。それが会場内に波のように広がっていき、一気に騒がしくなった。会場内は暖かい笑顔と笑い声に溢れ、とても賑やかで楽しい空気へとなっていった。
「ニノ、ちょっといい?」
オレが会場内を眺めていると、小声で雀が囁いてきた。
どうしたのだろう、と振り返ってみると、真剣な顔つきでこちらを見ていた。何かあったのだろうか?
「どうした」
「ちょっと……いいかな?」
そう言うと雀は会場から出ていった。ついてこい、という事らしい。
オレが席から立ち上がると、それに気付いた知己と糸子がオレの服の袖をくいっと引っ張る。
「被兄ちゃん、何処行くの?」
「おトイレ?」
「……まあ、そんなもんかな。大丈夫だ。ケーキが配られる頃には戻ってくるよ」
「本当?」
知己が寂しそうにこちらを見る。
「ああ、本当だ」
オレが頭を撫でると、二人は物惜しげに袖を掴む手を離してくれた。
「すぐ戻ってきてよ」
糸子が手を振りながら言う。
「ああ」
オレは二人に手を振りながら、会場を後にした。
「どうしたんだ雀。急に呼び出したりなんかして」
「うん……」
オレ達は玄関の近くで立ち止まった。
先を歩いていた雀はオレに背中を見せたまま振り返らない。
「どうした? 具合でも悪くなったのか?」
「ううん……」
しかし、そう返事する雀の声は今にも泣きだしそうなほど震えていた。しかし、何故泣き出しそうなのか見当もつかない。
「…………」
「…………」
沈黙。
それだけがここに存在していた。
「あ、あのさ!」
「おう」
突然雀が声を出す。驚いて変な返事をしてしまった。
「に、ニノってさ……」
そこで雀は言い淀んでしまう。
「……いや、その……」
「オレがどうかしたのか?」
「ひあっ! いや、あの、そのね! うん……」
「…………ふっ」
後ろから見ていても充分わかる程のあまりの動揺っぷりに、思わず吹き出してしまう。
「あ、今鼻で笑った」
「笑ってねえよ」
「笑ったもん! 絶対笑った!」
「笑ってねえから! だから泣くな!」
何で泣いてるんだよ! そんなに鼻で笑われたのが嫌だったのか? いや、笑ってないけど。
「な、泣いてなんか……! ……ふえぇぇぇぇぇ!」
「お、落ちつけ! 泣くな、な?」
オレは雀の正面に回り込み、上着のポケットからハンカチを取り出して涙を拭ってやる。しかし、とめどなく溢れる涙は一向にとまらない。雀は何度もオレのことを叫びながら涙を流した。ニノ、ニノ、ニノ、と。
「……何があったんだ? オレでよければ、話してくれないか?」
雀がだいぶ落ち着いた頃にオレはそう語りかけた。
「……ごめん」
「そうか。辛いんなら、しょうが――」
「そうじゃなくて!」
「っ!?」
突然、雀がオレの言葉を遮る。
その眼を見ると、何か思惑がぐるぐると渦巻いているようだった。
「……そうじゃなくて?」
オレは落ちついた風に装いながら柔らかい口調で話しかける。
「その……」
雀は一瞬迷った風に目を伏せるが、すぐに決意を固めたようでオレの目を真っ直ぐ見つめてきた。
幼い顔立ちの彼女にしては似合わない表情だったので、固唾を飲んで成り行きを見守った。
「ニノは、私のことどう思ってる?」
「年の割に餓鬼っぽくてしかも一言多い」
「即答!?」
涙を浮かべながら雀は叫んだ。いや、オレも即答できたことに驚きなんですが……。そこまで印象的なのか、こいつは。
「ううう……」
オレの言葉で大分心をやられたようで、雀は涙を流しながら自分の世界に閉じこもっている。
……すごい悪いことをした気分だった。
「あー、まあ。とりあえず、クリスマスプレゼント、ありがとな」
「……ふぇ?」
雀は不思議そうに顔をあげる。その顔は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
その顔はあまりにも滑稽で、その表情はあまりにも……微笑ましい。
「『ながぐつをはいたねこ』のことだ。アレ、お前が用意したものだろ?」
「そうだけど……。どうしてわかったの?」
不思議そうに雀は訪ねた。
オレはそんな雀を見て少し可笑しく思い、笑いながら立ち上がる。そしてその顔に向かってハンカチを投げてやる。
「わっ」
「ほら、貸してやるから涙拭いておけ」
オレは食堂に戻るために来た道をまた歩き出した。
「ねえ! どうしてよ!」
先ほどより元気になった声で、雀はもう一度オレに尋ねてきた。
オレはその問い答えるために立ち止まる。
「さあ――」
オレは肩越しに、廊下に座り込む雀の顔を見ながら口を開いた。
「なんとなく、わかっちゃったんだよ」
オレは呆けた顔の雀をその場に残し、皆が待つ食堂、もといクリスマス会場へ戻ったのだった。
『俺の日常』は時間が無くて書けませんでした!
すいません!
三時間じゃこれが限界なのですよ……。
本当に申し訳ないです。
12月24日 改稿
いやもう、ホント申し訳ない……。




